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15年ぶり快挙達成の起業家、岸田首相の起業支援は長期的な継続必要

  • 起業支援10-20年続けて「ようやく効果出る」-連続起業家の柴田氏
  • スタートアップの創出には人材の流動性を高める必要がある-識者

岸田文雄首相がスタートアップの成長を促し「新しい資本主義」の担い手となることを目指して打ち出した支援策を巡り、国内の著名起業家からは長期的な支援となるかが課題との声が上がっている。

Tailor CEO Yo Shibata Interview
柴田陽氏
Source: Bloomberg

  連続起業家としても知られ、業務系システム開発のソフトウエアを提供するテイラー創業者の柴田陽氏は7月のインタビューで、政府が提供するスタートアップ向けの支援策は過去の事例から判断すると「長続きしない印象」だと話した。柴田氏は過去に日本交通のタクシー配車アプリなどを手掛けたことでも知られている。

  テイラーは6月、米ベンチャーキャピタルYコンビネーターのスタートアップ養成プログラムに、日本拠点の企業として15年ぶりに選ばれたと発表した。過去に同プログラムに採択された企業には、民泊仲介の米エアビーアンドビーや米最大の暗号資産(仮想通貨)交換業者コインベース・グローバルなどがある。

  過去に政府が打ち出した支援策の事例として、小泉純一郎政権時の起業支援プラットフォーム「ドリームゲート」がある。起業や独立意識の喚起などを目的に、格闘家ボブ・サップ氏をイメージキャラクターに起用して2003年に立ち上げられ、事業計画コンテストの実施などを手掛けている。

  ドリームゲートのウェブサイトによれば、同事業が主催する著名起業家の講演やビジネスプランコンテストを実施する「大挑戦者祭」には、06年の開催時には約4000人が参加した。しかし、その後の4年間で来場者は1000人程度にまで減少。当初は著名な起業家がイベントに登壇し注目を集めたものの、徐々にイベント参加者数が減少するのに合わせて関心度が低下し、「メイントレンドではなくなった」と柴田氏は指摘する。

大胆な支援策

  岸田政権は新しい資本主義の実現に向けた重点投資分野のひとつとして、経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)にスタートアップを5年で 10 倍に増やすことを視野に育成5カ年計画を年末に策定し、支援策を「大胆に展開する」方針を盛り込んだ。

  具体的には、新規株式公開(IPO)のプロセスを見直して十分な資金が確保できるようにすることや、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や保険などの長期運用資金がベンチャーキャピタルやスタートアップに流れるよう資金調達環境の整備などに取り組む。

  日本取引所グループ(JPX)は7月27日、「新しい資本主義」実現に向けた取り組みを公表し、IPOプロセスの見直しを含む施策を示した

  柴田氏は、岸田氏の支援策について「効果があるというところについては疑問の余地はない」と話す。起業数が増えれば、グローバルで成功できる企業も誕生すると政策への期待を示した。

  しかし、スタートアップの数を増やすことは「10年、20年続けてようやく効果が出るたぐいのもの」だとし、支援策をいかに継続させるかが重要だと強調した。

  また、同氏は1日のブルームバーグテレビのインタビューで、米国だけでなく、スタートアップ支援に力を入れている韓国やドイツなどとも競うことを踏まえると、日本のスタートアップのエコシステムを強固にする取り組みは「もっと加速させる必要がある」と指摘した。

動画:テイラー創業者の柴田陽氏のインタビュー(英語)
Source: Bloomberg

  さらに、日本国内だけを対象にしていてもそれなりに事業運営を継続できるような市場規模があるため、積極的に海外で事業を展開しようという考えが起業家に芽生えにくい点が課題だと指摘。「日本でそこそこ成功しても世界レベルにはならない」と強調した。

  日本発のスタートアップに企業価値評価額が10億ドル(約1370億円)を超えるユニコーン企業は少ない。ただ、柴田氏は日本と海外のスタートアップを比べた際に、起業家の考え方や製品、サービスに「違いはあまりない」とみる。

新しい資金循環

  スタートアップについて研究する中央大学商学部の本庄裕司教授は、方向としては間違っていないと指摘する。新しい資金循環の流れはスタートアップ成長の土壌の整備につながり、既存企業を飲み込むようなスタートアップが生まれる可能性が増すと述べた。

他国に劣後するベンチャー投資

Source: 内閣府・世界銀行「スタートアップ・エコシステム調査」

  同氏はイノベーションを起こすような企業の出現には、起業する人材の裾野を広げる必要があると訴える。既存の企業から独立して起業する人材が増えるよう人材の流動性を高めることが重要だと話した。柴田氏は、政府の起業支援策で新規参入や退場による産業の新陳代謝が起これば経済全体にとってプラスになるとみている。

  一方で、本庄氏は政府の起業支援が経済に与える好影響について過度な期待は禁物だと分析する。同氏は、スタートアップと経済は両輪の関係にあるが、経済が成長している時にスタートアップが増えるものだと指摘。「スタートアップを創出したら日本の経済は回復する、というのは難しい印象がある」と述べた。

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