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「新しい資本主義」にかなうWeb3、税制ネックで国内人材流出

更新日時
  • トークンの資産価値上昇分に毎年課税、スタートアップの重荷に
  • 岸田政権は「骨太の方針」でNFTなどWeb3推進の環境整備検討

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「『新しい資本主義』の実現で最も近いところにあるのがWeb3なのに」。スマートフォンアプリの開発を手掛けるガルシスの大塚敏之代表は、インターネットの新しい潮流で暗号資産やブロックチェーン技術を活用する「Web3(ウェブ3)」に関して日本国内の法整備が遅れている現状を嘆いた。

Key Speakers and Atmosphere at Crypto Expo Asia in Singapore
先月シンガポールで開催された「クリプトエキスポ」で掲示されたポスター
Photographer: Ore Huiying/Bloomberg

  同社はスマホで撮影した写真を共有し、他の利用者からもらった「いいね」の数に応じて暗号資産を稼ぐことなどができる「プレイトゥーアーン(Play-to-Earn)」と呼ばれる種類のアプリ開発を手掛けているが、大塚氏は最近、米サンフランシスコに同事業の拠点を構えることを決断した。日本の税制が今後の事業運営の障害となるためだ。

ウェブ3とは?
  • ウェブ1:ウェブサイト上のコンテンツを読むだけだったインターネット黎明(れいめい)期の一方通行の時代
  • ウェブ2:ウェブサイトなどに書き込むことで、双方向のやり取りが可能になり、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルネットワーク(SNS)が盛り上がった
  • ウェブ3:「読み・書き」に加え、ブロックチェーン(分散台帳)技術を活用することでNFT(非代替性トークン)など暗号資産の所有権を明確に示すことや、所有権の譲渡が簡単にできるようになった。
    • ネットに書き込んだ情報や掲載した画像をコピーされ著作権や所有権がうやむやになっていたウェブ2までの世界から進展することが期待されている

  企業が発行する株式には議決権があり、株主が事業の運営方針に意見することができる。暗号資産の世界では、プロジェクト運営のために管理者のいない「DAO(分散型自立組織)」と呼ばれる組織が資金調達目的などでガバナンストークンを発行し、購入者にも運営方針の決定権限が与えられる。

  企業が暗号資産と呼ばれる電子的な資産を保有する場合、毎期末に資産価値の上昇分に対し課税されることが重荷になっている。株式では上場して株価が上昇しても、売却して利益を確定しない限り課税されることはない。しかし、トークンなど暗号資産の場合は上場して100億円の価値が付いたら、保有しているだけでいきなり税金を取られることになる。

  この問題については岸田政権でも改善に向けた取り組みが進んでいるが、大塚氏は現状では「起業したばかりの企業にそんなにたくさんの現金があるわけもなく、上場した瞬間に倒産してしまう」と強調。世界で幅広く知られるゲームやアニメのキャラクターの知的財産(IP)を豊富に抱える日本にとってはチャンスであるはずなのに、「優秀な人からどんどん日本を出て、シンガポールやドバイに行く状況になっている」と話した。

米国にもシンガポールにもない

  日本暗号資産ビジネス協会税制検討部会のメンバーで、同協会の法律顧問であるアンダーソン・毛利・友常法律事務所の下尾裕氏は「保有目的を問わず、暗号資産を一律に期末評価課税にするような制度は、米国やシンガポール、ドバイにもない」と説明。日本国内の法人には税負担が大きく、日本が敬遠されている理由だとみる。

  また、個人が保有している暗号資産を支払いや売却で手放す際に、1年以上保有していた場合には米国では最大約20%の税率、ドイツでは原則課税されないなどという制度もある中、日本では住民税を合わせると最大55%の税率となり、「先進国のレベルで見ても相当高い」と話した。

  株式とトークンの最大の違いは初期段階で参加できる投資家の数だ。株式の場合、多くの投資家は上場を待たなければならず、上場前の初期段階で出資した人からは出遅れ、同じ規模の利益を得ることは難しい。しかし、ガバナンストークンの場合は「事業の考えや世界観に共感した人なら誰でも早い段階から参加できる」と大塚氏は指摘。一般投資家でもベンチャーキャピタルなどと同じ立場に立つことができる。

  ウェブ3で広がる世界は従来よりも公平で、一般の人々がさまざまな事業などを通じて経済成長の果実にありついて次の成長につなげるような循環を生み出すことを目指す岸田文雄首相の「新しい資本主義」の実現に「最も近い」、と大塚氏が主張するのはそのためだ。しかし、現在の税制では同氏が取り組むような暗号資産に関する事業の運営は成り立ちにくい。

  独自ブロックチェーン「アスターネットワーク」の開発を手掛けるステイクテクノロジーズの渡辺創太最高経営責任者(CEO)は「日本で事業するのは無理だよね、というコンセンサスができつつある」と指摘する。

  渡辺氏も一度は日本で企業したものの事業を清算し、シンガポールに渡った起業家の1人だ。「日本の規制や税制が諸外国に比べてかなり厳しい」ことが世界的に知られている状況だという。

  しかし、今後海外で規制が強化される可能性もあることから、日本がウェブ3関連事業の法制度や税制を整備しておくことができれば、「いろいろな人たちが集まるウェブ3のハブになれる可能性はまだ残っている」との見方を示した。

動き出す税制改正

  与党・自民党も手をこまぬいているわけではない。河野太郎広報本部長と平将明ネットメディア局長は4月、渡辺氏をシンガポールから招いて対談し、その内容を党のウェブサイト上で公開した。

  平氏はブルームバーグのインタビューで、「一番重要なファクターが税制だというのは明らかになっている」との見解を示した。今年が大きなヤマ場だとし、「この秋の税制議論で成果と果実を得ようと思って頑張っている」と述べた。

  平氏が座長を務める自民党のNFT政策検討プロジェクトチームが取りまとめたNFTホワイトペーパーでは、必要な施策の一つとして「発行した法人が自ら保有するトークンは、期末時価評価の対象から除外し、実際に収益が発生した時点で課税するよう税制改正や取り扱いの見直し」が必要だと訴えた。

  これを踏まえて、7日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)にも、ブロックチェーン上でのデジタル資産の活用で新しい価値が生まれていることから、NFTやDAOの利用などウェブ3を推進するための環境整備の検討を進める方針が盛り込まれている。

  (更新前の記事はリードの名前を訂正しています。)

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(渡辺氏のコメントを追加して記事を更新します)
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