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PEファンドの歴史変える東芝買収合戦、ハゲタカから不可欠な存在に

  • 企業を買いたたく手法から中長期での企業価値向上に主眼置く手法に
  • 東芝買収に成功すれば日本の経済史で最も重要な案件になると専門家

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プライベートエクイティー(PE、未公開株)ファンドによる日本企業の買収としては過去最大となるディールが誕生するかもしれない。時価総額が2兆4000億円を超える東芝を巡る買収だ。かつて「ハゲタカ」とも揶揄(やゆ)されたPEファンドだが、今や日本企業の成長に欠かせないとの指摘も出るほど存在感を高めている。

  2015年4月に発覚した不適切会計を契機に経営の混乱が続く東芝。現在、株式非公開化を含む再編を検討しており、潜在的な投資家やスポンサーから募った再編案は10件。うち非公開化に関するものが8件で、ブルームバーグは英CVCキャピタル・パートナーズや米ベイン・キャピタルなどのPEファンドが東芝買収を検討していると報じている。

Toshiba President Satoshi Tsunakawa Interview
東芝を巡り複数のPEファンドが買収を検討
Photographer: Shoko Takayasu/Bloomberg

声を掛けられる存在に

  ファンドの存在感は年を追うごとに増している。「以前はPEファンドの存在があまり知られておらず、アポイントメントを入れるところから苦労した」と、米カーライル・グループ日本代表の山田和広氏は振り返る。それが今では「逆に企業から話を聞かせてほしいと声を掛けられるケースも増えた」という。

  米ベイン・アンド・カンパニーの調べによると、2021年の国内企業の合併・買収(M&A)のうちPEファンド関連は、過去最高の134件を記録。取引総額は前年比約3倍の2兆7000億円となった。資生堂日立製作所といった伝統ある大企業が、いずれも非中核事業の売却先にPEファンドを選んだ。

  日本の当局による認識も変わってきている。経済産業省・産業資金課の担当者はブルームバーグの取材に電子メールで回答し、「2000年代前半は不良債権の処分など債務整理による短期間での企業価値向上を手法とするPEファンドが多い傾向があった」と指摘。「その後、事業再生、買収企業の統合や海外展開など、中長期での企業価値向上に主眼を置いた手法が中心となってきている」と説明した。

PEファンドによる日本企業のM&A件数は過去最高に

出所:ベイン・アンド・カンパニー、AVCJ

注:データは1000万ドル(約14億円)以上の公表案件ベース。インフラと不動産案件は除く。

「あなたハゲタカになったの?」

  ハゲタカのイメージの源流は、およそ20年前にさかのぼる。2000年、米リップルウッド・ホールディングス率いる投資組合が破綻・国有化した日本長期信用銀行(現新生銀行)を10億円で買収。04年の再上場で利益を得たことや、政府に簿価での債権買い取りを請求できる瑕疵(かし)担保条項を数多く行使したことが国民感情を逆なでした。

  外資系ファンドは企業を買いたたくというイメージは、08年のリーマン危機より前に注目を集めた米スティール・パートナーズなどのアクティビストファンドが、日本企業の増配や自社株買いなど株主本位の経営を訴えたところで変わらなかった。07年にはNHKで連続ドラマ「ハゲタカ」が放送され、ファンドが日本企業に熾烈(しれつ)なリストラを迫るシーンなどが印象的に描かれた。

  カーライルの山田氏は、当時ドラマを見た両親から「あなたハゲタカになったの?」と心配された。2000年代前半に買収先企業を訪れた際には、労働組合委員長が開口一番、「リストラをしないでほしい」と懇願してきた。

  当時の状況について、欧州の投資ファンドEQTの日本拠点でPE部門責任者を務める鬼塚哲郎氏は、日本企業にとってPEファンドは提携や支援を求める際、「最初の選択肢に入っておらず、同業他社で駄目なら最後に検討する」との位置付けだったと話す。

転換点

  しかし、リーマン危機後の数年間で状況は変わり始める。安倍晋三氏が首相に返り咲いた12年12月以降、アベノミクスの一環として企業統治(ガバナンス)改革に着手。株主との対話や株主資本利益率(ROE)重視を促した結果、非中核事業の売却など後のM&Aブームを呼び込んだ。

  EQTの鬼塚氏は「ファンドと言っても多様性があり、必ずしもハゲタカ、企業再生専門というわけではなく、優良企業に投資して成長を支援するファンドもあるということが認知されてきた」と総括する。

  転換点となったのが、13年に米KKRがパナソニックからヘルスケア事業を1650億円で買収したことだ。バークレイズ証券コーポレート・ファイナンス部の高橋邦比呂部長は「パナソニックは日本株式会社を象徴する企業の一つだった」と指摘した上で「外資系ファンドがこうした有名企業から事業を買収できたという事実が当時は驚きを持って受け止められた」と語る。

  さらに大きな注目を浴びたのが、ベイン・キャピタルが主導する日米韓連合による東芝メモリ(現キオクシア)の買収だ。総額2兆円の買収額は国内のPEファンド案件での過去最高額。ベイン・アンド・カンパニーの東京在勤パートナー、ジム・ヴェルベーテン氏は「日本の人々は政府が半導体事業を海外勢の手に渡さないよう努力するものだと信じていた」とその衝撃を代弁した。

  もちろん、すべての日本人がPEファンドに好意的なわけではない。例えば、PEファンドの典型的な投資手法の一つであるLBO(買収先企業の資産を担保にした借り入れによる買収)は、今やこの分野で古典として知られ、KKRによるRJRナビスコ買収を描いた書籍「野蛮な来訪者」でも紹介され、常に批判の的となってきた。

  それでも、PEファンドは「社会の高齢化とともに老いつつある日本企業に必要な資本を提供する欠かせない存在だ」と、豪モナッシュ金融研究センターのリサーチフェロー、ナ・ファム氏は指摘する。ファンドは資本だけでなく、企業の変革を促すノウハウも持っているというのだ。

経済史で最も重要な案件に

  実績を重ねてきたPEファンドにとって本当の意味での試金石となるのが、東芝買収の成否かもしれない。もっとも、今回の東芝の再編検討がPEファンドへの売却に結び付くかは不透明だ。東芝の将来像を決める取締役会内部での不協和音が明らかになっているほか、東芝が抱える原子力、半導体事業を国家の安全保障にかかわる重要な技術と見なす政府の承認も得なければならないためだ。

  当面の焦点は今月28日に開催する東芝の定時株主総会で会社側が提案した取締役候補13人全員が混乱なく選任されるかどうか。東芝は新たな取締役会の下でPEファンドなどから寄せられた10件の提案を精査し、7月以降にデューデリジェンス(資産査定)の機会を設ける。

  バークレイズの高橋氏は「もしPEファンドが東芝の買収に成功したなら、日本の経済史で最も重要な案件の一つとなるだろう。グローバルなPEファンドが日本を代表するような企業をのみ込むことになるのだから」と語った。

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