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衰えるESGの威光、個人投資家が距離-ゴールドマン事案も一因に

  • 英国の個人投資家、66%はリターンの最大化のみに関心-調査
  • EUでは8月から新たな規制導入、個人投資家の保護など目的

Photographer: Photo Illustration: Stephanie Davidson; Photos: Getty(6)

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ESG(環境・社会・企業統治)はすでにサンドバッグ状態だ。極右勢力や不満を募らせる企業幹部、そしてESG業界の関係者でさえ批判の矛先をESGに向けている。だが、究極のゲームチェンジャー(状況を一変させるもの)は、個人投資家がますます離れていくことかもしれない。

  個人投資家は徐々にではあるが、40兆ドル(約5400兆円)という資産規模を誇るESG業界の実態を念入りに調べるようになってきた。この市場に投じられる彼らの資金は急速に増えてきたが、実際に何が起きているのかを知って不快感を抱く人は多い。

  さらに、ESGビジネスを巡っては、金融業界の雄である米ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントドイツ銀行の資産運用部門が当局の調べを受ける事案も発生した。

  ESG業界における亀裂はあちこちに広がっているようだ。これまで3年連続で膨大な資金を呼び込んできたが、ESGへの需要は足元で冷えつつある。モーニングスターのデータによると、グローバルで見たESGファンドへの資金フローは1-3月(第1四半期)に36%減少。バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリストらの報告によれば、これはパンデミック(世界的大流行)開始前以降で最悪で、4月も落ち込んだ。

  ブルームバーグ・インテリジェンスの推計では、米国のESG関連上場投資信託(ETF)からの資金流出が、5月には単月として過去最大を記録した。

Social Investment Turnabout

ESG equity funds have largest monthly outflow on record in May

Source: Bloomberg Intelligence

  ESGのリターンもおぼつかない。6月の2週目までで見ると、欧州のESG株式ファンドのリターンが平均でマイナス14%となった一方、ストックス欧州600指数はマイナス11%だった。米国のESG関連ファンドはマイナス16%と、S&P500種をわずかにパフォーマンスが上回る程度だった。

  しかし恐らく、より重要なのは、ESGへの懐疑的な見方が、今後も世間一般の人々による関心低下につながるリスクがあるという点だ。

  英国の建設業界で働くニール・ベーカー氏(37)は2年近く前にESG投資について調べ始め、内情が分かるにつれて幻滅したという。「私はESGのより倫理的な側面に資金を投じていたつもりだった。そして実際に見てみて、なぜフェイスブックが組み入れられているんだろうと思った」。

  彼が絶対に持ちたくないと思っていた株式の一つが、フェイスブックを運営する米メタ・プラットフォームズだった。しかし、巨大テクノロジー企業が投資先に含まれていないESGファンドを見つけ出すのはほぼ不可能だったと、ベーカー氏は言う。

Neil Baker
個人投資家のベーカー氏
Photographer: Carlotta Cardana/Bloomberg

  ESGのファンドマネジャーたちは、ポートフォリオの構築について、合理的な理由を持っているかもしれないが、彼らが用いる複雑な戦略と世間一般の人が抱くESGへの期待との間に溝が生じていることが問題になりつつある。

  例えば、デンマークのダンスケ銀行の投資部門は今年、ESGポートフォリオの中に化石燃料関連の株式が含まれているとの批判を受け、その見直しに踏み切った。同行は当初、ルールに基づいて運用していると主張していたが、最終的には問題視された資産を除外した。

  個人投資家のベーカー氏は結局、ESG関連の投資を一切やめ、より幅広い銘柄が含まれているインデックスファンドに投資することにした。英国の個人投資家の66%は、サステナブル投資かどうかを気にしているわけではなく、ただリターンの最大化を望んでいるという、チャールズ・シュワブの最近の調査結果もある。

新たな規制枠組み

  足元ではESGの代表格の出遅れが目立つ。世界最大で209億ドル規模を誇る、ブラックロックの「iシェアーズESGアウェアMSCI米国」は今年、価値の約4分の1を失った。メタやエクソンモービル、シェブロンの株式を含むこのETFは、世界的な株価下落のさなか、MSCIワールド指数よりも低いパフォーマンスを示した。

Lagging Behind

ESG funds in Europe and Japan are underperforming this year

Source: Bloomberg

Note: Data captures ESG-labelled funds with assets under management of more than $500 million. Regional benchmarks are S&P 500, STOXX 600 and Topix.

  パフォーマンス低下に伴って、ESGの評判も悪くなっている。トランプ元米政権の副大統領だったマイク・ペンス氏はESGについて、共和党員が抑制しなければいけない「左派」の陰謀と批判し、米電気自動車(EV)メーカーのテスラの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏は「悪の権化」と呼んだ。

  また、欧州中央銀行(ECB)の研究者らは、ESG投資業界が実際に気候変動対策に役立っているのか「不透明」なままだと指摘している。

  一般の人々がESGに価値があるか疑問を持ち始めたことを受け、新たに設けられる規制の枠組みでは、ファンド運用業界にとって、一般の意見がより重要な意味を持つようになりそうだ。

  欧州連合(EU)では8月からフィナンシャルアドバイザーに対し、個人投資家が希望するESG銘柄を正確に選好できるようにすることを義務付ける。この変更は他の国や地域の規制枠組みにも影響を及ぼす可能性がある。

  「個人投資家がサステナビリティーの『異なる顔』を理解していないことに、深刻な懸念がある」と話すのは、ESGファンドマネジャーに助言する法律事務所シモンズ・アンド・シモンズ(ロンドン)でパートナーを務めるルシアン・ファース氏だ。

  「サステナビリティーとは何か。それは人によって意味するところが異なるが、個人投資家はこのことを知っているだろうか。彼らはサステナビリティーが良い事をするはずだと心の中で思っているかもしれないし、自分のお金が良い行いをし、リターンも得られるという広告を見かけるが、実際はどうだろうか」と指摘する。

  結論は「より多くの訴訟リスクがあるということだ」と、ファース氏は言う。

Sustainable Fund Inflows and Total Assets
 
 

謎の中の謎に包まれた謎  

  欧州銀行連盟(EBF)は、新たな規制の枠組みが金融業界に与える「極めて大きな法務上の不透明さ」や顧客に対する「多大な混乱」について警告を発している。この新たなルールの実施を、同協会は約1年遅らせるよう求めているが、欧州当局は今のところ延期を認める意向は示していない。消費者保護団体も、延期は個人投資家に悪影響を及ぼすと主張している。

  欧州投資信託・資産運用協会によると、個人投資家は欧州への直接投資フローの約4分の1を担っている。さらに、主に一般の人々の資金を扱う保険会社や年金基金が全体の資金の約4割を運用している。従って、金融業界は失敗する余裕はないということだ。

  資金運用者で「今おびえた鶏のように走り回っていない人」がいるとすれば、8月に適用される新たな規制について「事の深刻さを理解していない」ということだ、とノルデア・アセット・マネジメントで責任投資のヘッドを務めるエリック・ペデルセン氏は話す。

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ジェマ・ウッドワード氏
Source: Charles Sturge

  オーダーメードのESG商品を設計するキルター・チェビオットの責任投資トップ、ジェマ・ウッドワード氏は、フィナンシャルアドバイザーが個人投資家にアンケートを渡し、ESG需要を理解しようとするだけでは不十分だと指摘する。

  ウッドワード氏によれば、目的は「実際に対話をすることだ」という。ESGには非常に多くの方法があり、顧客はインパクト投資やテーマ型投資、スチュワードシップ、フォーカス、インテグレーションなど、さまざまなカテゴリーについて意見を交わす必要がある。なぜなら、多様な方法が存在することが解釈の余地を生み、場合によってはグリーンウォッシングにもつながるからだ。

  ブルームバーグ・インテリジェンスのシニアETFアナリスト、エリック・バルチュナス氏は、ESGが直面する課題を「謎の中の謎に包まれた謎だ」と総括する。同氏は、ESG投資は「誇大広告によって過大評価された」ものに姿を変え、結局のところ「人々は一貫性のなさに気付きつつある」と話した。

原題:

Goldman Investigation Tarnishes ESG Halo as Investors Bail (2)(抜粋)

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