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【コラム】短命に終わった菅政権が残した永続的な功績とは-リーディー

  • 菅義偉政権の在任期間はわずか384日だったが、功績は目を見張る
  • 菅前政権の残した実績を再評価すべき時期に来ている

日本の首相は在任期間が短く、功績も長続きしないことが多い。昨年10月に辞任した菅義偉前首相の在職日数はわずか384日。一見すると線香花火的な政権で終わった歴代首相の一人にも見える。

  だが、一定の時間が経過し、菅政権に打撃を与えた新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が新たな局面に移行する中、同氏の首相在任中の成果を再評価する見方が広がっている。菅政権は東京五輪や新型コロナ感染拡大で影が薄れてしまったものの、政策決定が往々にして遅々として進まない日本政治において同氏の功績は驚くほど素晴らしいものだ。

  首相官邸から程近い議員会館でインタビューに応じた菅氏は、後悔はあるかとの質問に対し、「そこはないですね」と言い切った。

  菅氏は首相在任中に大手携帯電話会社3社による電話料金値下げを実現したほか、温室効果ガスの野心的な削減目標の実現に向けて省庁の垣根を越えて取り組み、デジタル改革の司令塔となるデジタル庁の創設を断行。さらに、国内外からの反発を乗り越え東京五輪を安全に開催した。

  菅氏肝いりの政策である不妊治療への保険適用が最近開始され、同氏は再び脚光を浴びている。保険適用開始を報告した同氏のツイートには、約50万件の「いいね」が寄せられ、日本の政治家の中で今年最多の「いいね」を獲得した。

  一連の成果は菅氏の支持率には結び付かなかった。皮肉なことに、後任の岸田文雄首相は立法面では比較的限られた成果しか上げていないにもかかわらず、ウクライナ情勢などへの対応に評価が集まり、支持率が政権発足以来最高水準となっている。

  菅氏の最も大きな功績の一つは、新型コロナ対策で諸外国では必須だったロックダウン(都市封鎖)に踏み切らなかったことだ。当初強い反対があったものの、感染が広がりやすいバーやレストランなど飲食施設に対する制限措置に重点を置く一方で、経済活動の大半を継続した。

  諸外国と比較すると、「日本のコロナ対策は極めてうまくいったということです」と菅氏は私に語った。メディアや野党からはより厳しい対策を迫られることもあったものの、同氏はロックダウン容認を拒否。日本は人口当たりの死者数が主要7カ国(G7)で最も少なく、経済協力開発機構(OECD)加盟国38カ国の中でも最低となる見込みで、こうした統計数字は菅氏の対応策が適切であったことを裏付けている。

一躍ヒーローに

ロックダウンなしでも日本は世界で新型コロナ死者数が少ない国の一角に

出所:ブルームバーグニュース、ジョンズホプキンズ

  安倍政権下で全国一律の緊急事態宣言が発令された2020年4-6月期の実質GDP(国内総生産)は前期比年率で約30%減と、戦後最大のマイナスとなった。菅氏は緊急事態宣言によりあらゆる経済活動がストップしたと当時を振り、「そこは慎重にやらなくちゃだめだ」と強く感じたという。

  その一方で、菅氏は在任中に新型コロナ対策としてワクチン接種の加速に取り組んだ。1日100万回接種という野心的な目標を掲げ、ピーク時には1日当たりの接種回数が160万回余りに及んだ。その後、新型コロナ感染による1日当たりの死者数が1人未満となり、菅氏の対応策が適切であったことが示された格好となった。

  菅氏の政治家人生に一貫して見られるのは、現状打破への意欲だ。同氏の看板政策の一つである携帯電話料金引き下げでは、利益率が高く、実質的な競合相手がほとんどいない大手携帯会社に値下げを迫った。新たに導入された通信料の低価格プランは21年4月から消費者物価指数(CPI)に反映され、その後1年間、物価の押し下げ要因となった。

  菅氏が総務相時代に官僚の反対を押し切って創設したふるさと納税について、同氏は今年の利用実績が1兆円規模に達する可能性があるとの見方を示した。また、菅氏は日本の首相として初めて、2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにする「カーボンニュートラル」目標を宣言した。

  一方、東京五輪開催ほど菅氏が世論の反対を押し切ってまで取り組んだものはないだろう。20年に開催予定だった東京五輪は新型コロナ感染拡大を受けて1年延期されたが、開催が近づくにつれ世論の反発が強まった。大会開幕が目前に迫った21年5月には、米国が日本への渡航中止を勧告。世界各国のメディアは、東京五輪が新型コロナの感染拡大につながるスーパースプレッダー・イベントになる可能性があると警告した。

  菅氏は医療専門家らから大会中止を進言され、それを断ったことを明かした上で、「判断するのは政府だ」と述べたという。

  岸田政権下では現在、円安を巡る問題に取り組む一方で、経済活動の再開について議論されている。外国人観光客の訪日ブームにつながったビザ(査証)緩和を主導した菅氏は、より大胆で迅速なインバウンド政策を取る必要があるとの考えを示した。「円安を逆手にとった形の経済政策を大いにやるべきだ。そういう意味ではインバウンドだ」と同氏は指摘した。

  退陣した首相が再起を図るのは通常では難しい。菅氏もそうした試みに意欲的ではないように見える。だが、報道によると、菅氏を支持する無派閥の議員グループなどが参加する「勉強会」を発足させるとの話が浮上している。この勉強会が党内政治を支配する派閥の一つとなり、将来の総裁候補を決める上で影響力を及ぼす可能性がある。菅氏はこうしたうわさへの言及を控えた。だが、水面下ではまだ諦めていないのかもしれない。そんな気がする。

リーディー氏のコラム

【コラム】長過ぎる日本のコロナ鎖国、世界で埋没の恐れ-リーディー

 

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:A Short-Term Prime Minister’s Long-Lasting Legacy: Gearoid Reidy(抜粋)

 

 

 

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