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ESG促進の国連原則、日本で署名増えぬ訳-年金基金に動機乏しく

更新日時
  • 国連PRIへの署名は米国が世界最多で1023、日本は108と伸び悩み
  • 国内の企業年金基金による署名は3機関のみ、動機付けが今後の課題

ESG(環境・社会・企業統治)の世界で最も知られた考え方の一つに、国連の責任投資原則(PRI)がある。原則への署名は、ESG重視の投資姿勢を国内外に示す「旗印」の役割を果たすが、日本の署名数はあまり伸びていない。特に年金基金には署名する動機が乏しく、関係者からは取り組みを後押しするための環境整備が課題との指摘が出ている。

Nippon Life Insurance Takeshi Kimura
木村執行役員
Source: Nippon Life Insurance Co.

  PRIで理事を務める日本生命保険の木村武執行役員は、日本の署名が国際的に見て伸び悩む現状について「見劣り感が徐々に広がっているのが懸念材料だ」と話す。

  2022年3月末時点の署名機関の数は、世界で最も多い米国が1023だった一方、日本は108と大きく水をあけられている。新興国も急速に署名を増やしており、日本の背後には96の中国が迫る。木村氏は、日本が中国に逆転されるのも「時間の問題」と指摘する。

  署名機関数の伸び率でも日本の低調さが目立つ。日本は過去1年間で署名機関が15%増えたが、米国の34%増や中国の71%増と比べると見劣りする。

  PRIは、ESG要素を考慮した投資を促す目的で、国連が06年に世界の大手機関投資家に向けて提唱。投資分析と意思決定のプロセスへのESG課題の組み込みや、投資対象に対してESG課題の適切な開示を求めることなど6つの原則から成る。原則への署名は、機関投資家と、投資家にデータのサービスなどを提供するサービスプロバイダーが申請できる。

  ESG機運の高まりとともに賛同の意向を示す投資家が増え、22年3月時点の署名機関の数は世界全体で4902、直近の資産運用残高は計121兆3000億ドル(約1京5700兆円)となった。

法域別の署名機関数

日本は伸び悩み

出所: PRI資料より作成

2022年3月末時点

  日本で署名が伸びない背景には、年金基金がためらいがちなことがある。世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は15年に署名したが、その他の公的年金は未署名で、企業年金基金でもこれまでに署名したのはわずか3機関にとどまっている。

  機関投資家は、受益者から資金を預かる「アセットオーナー」と、そこから運用を委託される「アセットマネジャー」に大別され、年金基金を含むアセットオーナーは日本の署名機関のうち約2割を占めるに過ぎない。

  署名数の差には、動機の強弱が関係している。アセットマネジャーは、PRIに署名することでESG重視の姿勢を強調できるため、運用委託をより勝ち取りやすくなるという利点があるが、アセットオーナーには署名が実利に結び付くというインセンティブが働きにくい。

  また、アセットオーナーはPRIに署名している運用委託先を選べば、実質的にESGを重視しているとも言えるため、自ら署名しなくても責任投資を果たしているという説明が成り立つ。

体制整備が必要

  金融庁でサステナブルファイナンス有識者会議を運営する高田英樹・総合政策課長は「PRIへの署名が全てではないが、ESGの世界では象徴的な存在であることも事実。今後は年金基金に対してどう動機付けをしていくかが課題の一つだ」と指摘する。

  署名に伴って事務負担が増加するという課題もある。署名機関は毎年、PRIに対して英語で活動報告書を提出する必要があり、そのための人員を確保するなど体制を整えなければならない。

  公的年金のうち「3共済」と呼ばれる、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団の担当者はそれぞれ、PRIの趣旨には賛同しているものの活動報告書の作成に割ける人的余裕がないことなどを未署名の理由に挙げた。

  一方、企業年金では、母体企業が掲げるサステナビリティー(持続可能性)経営の方針が、基金の運営に十分反映されていない現状がある。PRI理事の木村氏は、企業年金が責任投資に取り組むことが母体企業の価値向上にもつながるという考えが、欧州などの海外と比べて「日本にはまだ定着していない」と分析する。

負担以上のメリット

  未署名の投資家にとっては課題ばかりが映りがちだが、PRIに署名することで得られるものは少なくない。PRIが発足した06年に、日本勢としては早い段階で署名した三菱UFJ信託銀行は、PRIの情報や知見に触れられることや世界中の関係者とネットワークを築ける点を、署名の利点に挙げる。

  また、煩雑で時間がかかるPRIへの年次報告の作業が、かえって学びの場になることもあるという。

  同行の責任投資推進室で責任投資ヘッドを務める加藤正裕氏は「PRIのアンケートに回答する中で、自分たちの取り組みが十分ではなかった点などに気付くこともある」と話す。年次報告を作成する手間や、200万円以上かかるPRIの年会費など一定の負担はあるものの、それ以上のメリットが得られていると説明する。

  「受け身でいると、年会費を払って年次報告もしなくてはいけないという負荷ばかり目に付くが、投資リターンだけではなくESGの課題解決に向けた貢献の成果も求められる風潮が強まる中で、PRIへの参画は、投資家として責任投資の取り組み方針を考える際の一つの良いきっかけとしても活用できる」と語った。

(15段落以下を追加し更新します)
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