HSBCに激震、筆頭株主が分割支持-中国平安保険の思惑巡り疑念も
Harry Wilson、Ambereen Choudhury、Dingmin Zhang-
企業はますます米国と中国のどちらかを選ばなければならなくなる
-
分割はグローバルバンクという事業モデルの敗北を意味する
英銀HSBCホールディングスと中国平安保険(集団)は相互出資や会長同士の親密さといった良好な関係を築いていた。だからこそ、HSBCの筆頭株主である平安保険が銀行業界で最も劇的な分割案を後押しすると、HSBC幹部の間に激震が走った。
馬明哲(ピーター・マー)会長率いる平安保険はHSBCのマーク・タッカー会長に同行の分割やアジア部門の上場を含む選択肢を検討するよう促している。平安保険は最近の非公式文書で、失望を誘うリターンや膨れ上がるコストといったHSBCでの経営の失敗と見なされる多くの事例を列挙した。

ずっと協力的な株主としてHSBCを支えてきた平安保険が、物言う投資家に転じようとしてしている。そのきっかけは分からない。HSBCのバリュエーション悪化あるいは自社の株価急落が平安保険を動かしたのかもしれないし、中国政府の働き掛けがあったのかもしれない。最大の未知数は、地政学的緊張の高まりにさらされるHSBCがどう機能していくのかということだ。
「魔法の武器」でキャンペーン仕切る中国共産党-香港実業界に圧力
中国との企業の関係を専門に扱うストラテジー・リスクスの創業者アイザック・ストーン・フィッシュ氏は「規制の風の吹き方を平安保険は理解している。企業はますます米国と中国のどちらかを選ばなければならなくなり、選択の方法として分割を検討する企業が増える可能性がある」と述べる。
HSBC分割の意味
HSBCが実際に分割されれば、その影響は極めて大きいだろう。HSBCはロンドンに本店を置くが、香港やシンガポール、インド、マレーシアを含む64カ国・地域で事業を展開。従業員22万人の約半分がアジアで働いている。バークレイズのアナリストは巨額の費用を要する分割によりHSBCのグループ時価総額が3-8%低下する可能性があると調査リポートで推計。また、ロンドンのシティー(金融街)にとっても大きな打撃となるばかりではなく、グローバルバンクという事業モデルの敗北をも意味する。

大半のアナリストや現職およびかつてのHSBC幹部は分割の可能性について、今のところ極めて低いとみている。バークレイズのアナリストが「複雑で費用がかかる」と分析しているように、世界最大級の金融グループを分割することは非常に困難だ。
アジア重視は恩恵にさえならないかもしれない。ハーグリーブス・ランズダウンの投資・市場担当シニアアナリスト、スザンナ・ストリーター氏は、新型コロナウイルスの感染拡大が 中国経済に打撃を与えるリスクがあり、中国の「苦境に陥っている不動産セクターは銀行にとって吹き続ける逆風となり、分割となればアジア重視の事業体が特に影響を受けやすい」と話す。

HSBCと長く競合してきた英銀スタンダードチャータードでさえ、分割は良いアイデアではないと言う。新興国市場を重視する同行の会長だったマービン・デイビス氏は「HSBCやシティグループのように大手金融機関はグローバル貿易の基盤であり、大手であり続けることが非常に重要だ」と指摘し、「われわれが地域の銀行になってしまえば問題だろう」と語る。
不協和音
平安保険が支持するHSBC分割が空想に終わる公算が大きい中で、HSBCと平安保険の関係に変化が見受けられる。
これまで平安保険の考えが外部に漏れることはほとんどなかった。HSBC分割を巡る議論がブルームバーグ・ニュースの報道で明らかになったということは、強い反対意見があることを示唆している。匿名を条件に取材に応じた元HSBC幹部の1人は、分割案は同行の歴史の中で最も重要な出来事の1つだとしている。
協議に詳しい関係者によれば、HSBCにメッセージが伝わっていないと感じた平安保険はより積極的なアプローチを採ると決定。これがHSBCの上級幹部に不意打ちを食らわせたと、協議内容を知る関係者の1人は述べる。この関係者によると、HSBCと平安保険は対話を重ねてきたが、アジア部門分割という考えが正式に提起されたことはなく、HSBC分割案が報じられた後、HSBCと平安保険は正式な協議はしていないという。
HSBCは資料で「われわれの全投資家に関与する定期プログラムを実施し、全ての株主の価値を最大化することに取り組んでいる」とコメント。「われわれは正しい戦略を持っていると確信しており、その実施に焦点を絞っている」と説明した。平安保険の担当者はコメントを控えた。


原題:HSBC Is Under Attack From China Upstart It Put on the Map (2)(抜粋)