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【コラム】ロシアの苦戦、習氏に台湾侵攻を急がせる教訓に-ブランズ

Chinese President Xi Jinping.

Chinese President Xi Jinping.

Photographer: Kevin Frayer/Getty Images AsiaPac

ウクライナでの戦争を巡る大きな疑問に、地球の裏側での緊張に関係する問いがある。中国はロシアの侵攻からどのような教訓を得るのだろうかという問題だ。

  西側の専門家らは、ウクライナ侵攻でつまずいているプーチン大統領の姿を見れば、中国の習近平国家主席も台湾への侵攻を思いとどまると期待している。しかしロシアが陥ったような泥沼化を避けるべく、より厳しく圧倒的な武力行使を中国が焦る可能性も十分にある。

  他国の戦争から学ぶのは昔からよく行われていた。中国は現在、ウクライナの戦場で起きている出来事とプーチン氏の蛮行に対する国際社会の反応を注視しているに違いない。彼らが何を学びつつあるかについては、2つの相反するシナリオが考えられる。

  1つ目は、米国防総省の高官やその他のアナリストらが指摘するように、ウクライナでの戦争は中国にとって訓戒的というものだ。このシナリオで中国当局者の目に映っているのは、国家存亡をかけて戦う国を征服することの難しさだ。過去40年余り本格的な紛争を経験していない中国人民解放軍は、今どきの戦争で遂行しなくてはならない複雑な任務でロシア軍がいかにつまずいているかを見て、身の引き締まる思いがしていることだろう。

  習氏はまた、ロシア軍事侵攻の可能性を事前に警告し「奇襲」を許さなかった米国の情報活動にも驚いたに違いない。民主主義陣営がロシアに科している経済制裁、ロシアの一方的な攻撃に対する西側の結束、そしてこの戦争が北大西洋条約機構(NATO)の拡大や再活性化につながっているという現実にも習氏は気づいているだろう。

  こうした観点からすれば、欧州で起きている血みどろの戦争はアジアの平和維持に寄与するかもしれない。実際の戦時下で人民解放軍がどれほど機能するか、戦争が中国政府にどんな結末をもたらし得るかについて、習政権はさまざまな前提条件を見直す必要に迫られるかもしれない。

  これこそ、西側当局者が習氏に得てほしいと願う教訓だ。しかし、習氏が全く違う教訓を得ている可能性もある。

  米国など民主主義陣営がウクライナに武器や訓練、資金を提供しながらも戦闘への参加には消極的であることに、習氏も気づいているはずだ。ロシア産エネルギーの全面禁輸など、西側住民の痛みを伴う一段の措置に欧州が消極的であることを踏まえれば、対ロシア制裁を見て中国がひるむことはないかもしれない。ロシアに比べて大規模かつ進んだ経済を持っている中国は、自分たちを押さえつけるのは簡単ではないことを分かっている。 

  そして習氏の目には恐らく、プーチン氏の失敗はウクライナ侵攻の決断自体にあるのではなく、不手際続きで思い切りの悪い軍事行動によってウクライナによる反撃の機会を与え、西側の制裁発動を許してしまったことにあると映っているのではないか。

  こうした解釈は、習氏をより危険な方向へ向かわせることになるだろう。台湾で紛争になった場合に勝つ鍵は、圧倒的な力の行使だと確信させかねない。ミサイル攻撃やサイバー攻撃、暗殺、破壊工作に続けて大規模な侵攻を行い、米国などが介入する前に台湾の抵抗の余地を与えないというものだ。これは奇襲攻撃を重視してきた中国軍の伝統とも重なり合う。

  ここで挙げた2つのシナリオは必ずしも矛盾するものではない。プーチン氏のつまずきは習氏に台湾侵攻を見合わせるかもしれないが、同時に人民解放軍にもっと強力な攻撃を促す可能性もある。

  習氏が公にしている語調や人民解放軍の熱意ある備えが示唆する通り、同氏の台湾統一に向けた決意が固いのであれば、行動を「急ぐ」というのも「慌てず」と同じぐらい妥当な推論だろう。米国の専門家らは、相手も自分たちと同じ現実を見ていると思い込まないよう注意すべきだ。民主主義陣営はウクライナを支援することで、習氏に台湾を侵略しないよう説得しているつもりかもしれない。しかし実際には、より早くかつ抜かりなく台湾に侵攻するよう習氏に促しているだけかもしれないのだ。

 (ハル・ブランズ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院教授で、シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」の研究員。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:

Putin’s Struggles May Hurry Xi’s Plans for Taiwan: Hal Brands(抜粋)

    This column does not necessarily reflect the opinion of the editorial board or Bloomberg LP and its owners.

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