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【コラム】プーチン氏の狂気、戦術核使用も辞さず-NATO元司令官

ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻で用いる軍事的手法について、興味深い二項対立があると、われわれは最近数週間で気付いた。

  極超音速ミサイルやサイバー攻撃、精密誘導兵器といった最新兵器に手を伸ばす一方、大都市を包囲して破壊するぞと脅す古くからの戦い方をプーチン氏は命じている。

  ロシア軍が包囲した南東部のマリウポリを守る英雄的人々に対し、プーチン大統領は「降伏すれば、家や伴侶、子供たちに危害を加えない」との呼び掛けを事実上行った。ウクライナの人たちは予想通りきっぱり拒否したが、砲撃の音がとどろき巡航ミサイルが飛び、戦争犯罪が日に日に増している。

  核戦力の「特別態勢」への移行を命じ、「有名な黒いスーツケースと赤いボタンについてご存じだろう」とペスコフ大統領報道官が不気味な発言をしたことを含め、核兵器を巡るプーチン大統領のあからさまな威嚇が、恐らく最も懸念される。

  プーチン氏にも子供がいて祖国を深く愛しており、大破局レベルまで事態をエスカレートさせることは望んでいないに違いない。欧米からの核報復を回避したい思惑もあり、あるいは民間人がほぼ避難した後に都市を粉々に破壊する目的で、比較的低出力の戦術核兵器を使うような危険を冒すだろうか。

  そこまでするかもしれない。だが実際に行えば、歴史に残る戦争犯罪人の殿堂の筆頭に名前が掲げられよう。脅しは今後も続くとしても、そもそもプーチン氏が越えたくない一線なのではないかとは思う。

  ロシアが化学兵器を使用する可能性の方が高いだろう。プーチン大統領は、ウクライナがひそかに保有していると同国を不当に非難した際にそれを予見させた。北大西洋条約機構(NATO)は脅威を深刻に受け止め、ストルテンベルグ事務総長は「生物・化学兵器、放射性物質、核の脅威に対しウクライナを守る装備品」などについて「追加支援供与の合意を期待する」と語った。

  生物・化学兵器の攻撃は住民を恐怖に陥れるだろう。ウクライナ政府の首を取る電撃作戦「プランA」が失敗した今、それがプーチン氏の「プランB」戦略の主要目標だ。減り続ける巡航ミサイルや爆弾を温存する効果も期待できる。神経ガスの煙より速く都市を空にする手段はそうあるまい。

  プーチン大統領が大量破壊兵器を使用すれば、ポーランドからウクライナへの武器の供給ラインを確保しておくため、少なくとも西部上空の飛行禁止区域設定というNATOが避けてきた対応が恐らく必要になるだろう。

  ウクライナ全土での抵抗活動の開始に備え、ゼレンスキー政権が西部のリビウに移らざるをえない事態も想定される。化学兵器による攻撃が実際あれば、リビウ防衛のためNATOが地上軍派遣を求められる状況にもなりかねない。

  ロシアが実戦使用を発表したもう一つの最新兵器が、極超音速ミサイル(「キンジャール」)だ。同ミサイル発射の重要性はウクライナを打ち負かすことでなく、欧米へのメッセージに大いに関係している。核兵器を保有しているだけでなく、それを防ぎようのないプラットフォームを使って配備できるという米国およびNATOへの警告だ。

  NATOはプーチン氏のシグナルを真剣に受け止めるべきだが、過剰反応すべきでない。欧米側には、必要ならサイバー戦争や通常兵器の攻撃、海上対応といった段階的に拡大できる他の多くの選択肢が存在する。

  ロシアのウクライナ侵攻から1カ月余りが経過し、都市を破壊し、住民を恐怖に陥れる古くからの戦略をプーチン大統領は主に用いている。しかしその背後からは、サイバー攻撃と極超音速ミサイル、恐らくは化学兵器、戦術核さえ含む最新鋭兵器が不気味に迫る。米国と同盟国はそのどれにも、また全てに対応する計画を今準備しなければならない。

(NATO元欧州連合軍最高司令官、ジェームズ・スタブリディス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Maybe Putin Really Is Crazy Enough to Use Nukes: James Stavridis(抜粋)

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