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SMBC日興事件、置き去りにされた内部管理体制-銀行支配のゆがみ

  • 法人向け業務「垂直立ち上げ」の弊害との指摘も-部門全体見渡せず
  • 金融庁は親会社であるSMFGの責任の程度についても調べる方針

証券取引等監視委員会がSMBC日興証券の幹部ら7人と、法人としての同社を金融商品取引法違反(相場操縦)容疑で刑事告発したことで、同社の内部管理体制の不備が浮き彫りになった。前身である旧日興コーディアル証券を2009年に買収した三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の管理責任も問われかねない。

  「取引の公正性を維持するための売買管理体制が十分でなかった可能性がある」。SMBC日興の近藤雄一郎社長は、専務らの逮捕を受けた5日の記者会見の冒頭で、こう述べた。逮捕容疑そのものの認否は避けたが、内部的なけん制・チェック機能が十分に働かなかったことを認めた形だ。

SMBC Nikko Says Staff Arrested for Alleged Market Manipulation
陳謝する近藤雄一郎社長(3月5日)
Source: Bloomberg

  監視委は23日夕の告発についての発表で、7人はブロックオファーと呼ばれる取引で、モスフードサービスや京葉銀行など5銘柄の株価を不正に維持しようと企てた疑いがあると指摘。法人としてのSMBC日興についても、金商法の両罰規定に該当すると判断したと説明した。

垂直立ち上げ

  SMFGが買収で米シティグループから譲り受けたのは、旧日興コーディアル証のリテール業務と旧日興シティグループ証券が手掛けていた株式・債券の引き受け業務にとどまる。株式・債券トレーディングや仲介などのホールセール業務のほか、M&A(合併・買収)アドバイザリー、国際業務などはシティグループに残したままだった。

  そこでSMBC日興がホールセール業務の体制構築に活用したのが外部人材だ。外資や日系証券、SMFG傘下の三井住友銀行からの大量採用により短期間での収益化を目指す「垂直立ち上げ」に動いた。事件の舞台となったエクイティ本部もその中核部門の一つ。同本部を含む株券等トレーディング損益は、買収後初の通期決算となった11年3月期の5億円の損失から10年後に773億円の利益に急拡大した。

過去10年で急拡大

SMBC日興のトレーディング損益の推移

出所:会社資料よりブルームバーグ作成

注:年度ベース、Kは1000で単位は億円

    しかし、収益を稼ぎ出すフロント部門拡充の速度に内部管理体制の強化が追い付かなかったとの見方がある。ブルームバーグ・インテリジェンスの田村晋一シニアアナリストは、内部管理体制を含め部門全体を把握し、見渡せる人材が不足していた可能性があるとし、「外部登用に頼った垂直立ち上げの弊害と言える」と指摘する。

銀行グループ傘下

    買収後のSMBC日興の経営は、主に銀行出身の役員陣が担ってきた。当初は生え抜き社長が残留したが、13年に三井住友銀副頭取だった久保哲也氏が就任。16年に同じく副頭取だった清水喜彦氏が後を継いだ。社長を支える副社長は09年以降15人いるが、うち8人は銀行出身だ。銀行主導の経営の下で収益拡大は進んでいった。

  相場操縦の疑いで刑事告発に発展したブロックオファー取引に関連して、ある金融庁関係者は今後、親会社であるSMFGの責任の程度についても調べるとの方針を示している。

  SMFG広報部は、SMBC日興役員らの逮捕について陳謝した上で「証券会社という立場にありながら、市場の信頼を損ねる事態を引き起こしたことについて、非常に重く受け止め、当社としても当局の調査および捜査に全面的に協力していく」と電子メールで述べた。再発防止策などについては、捜査や調査委員会の調査を踏まえてSMBC日興をサポートし、信頼回復に努めていくとしている。

  20年に7年ぶりの生え抜きトップとなった近藤社長のミッションの一つは内部管理体制の立て直しだったが、実行に移す前に相場操縦事件が発生した。近藤社長は5日の会見で同社の調査委員会が進める調査について、SMBC日興の「成り立ちの観点も含めて報告を受けたい」と話した。

    SMBC日興のある幹部は、銀行から来た役員は証券ビジネスのバックグラウンドを持っておらず、銀行とは異なる証券ビジネス固有のリスクについて疎かったと打ち明ける。

  別の幹部は経営陣について、フロント強化には注力したが、それを裏側で支えるリスク・内部管理など本質的な法令順守(コンプライアンス)体制の構築までは手が回らなかったと話す。フロントがグレーゾーンの取引について問い合わせても明確な回答が返ってこなかったり、ルール設定を行わなかったりするケースがしばしば見られたという。

コンプライアンス意識

    ただ、告発されたトレボー・ヒル専務執行役員らのコンプライアンス意識は決して低くなかったようだ。かつてのある同僚は、会議中に部下がコンプライアンスより収益を優先するような発言をすると、遮って注意したとし、エクイティ本部にコンプライアンスの重要性を植え付けたのはヒル容疑者だったと振り返る。

  ヒル容疑者自身もSMBC日興の社内報のインタビューで、コンプライアンスの重要性について「これをきちんとやらないとビジネスをやる意味がない。もうかれば十分ということではなく、正しく仕事をやってもうけるということはとても重要なこと」と語っている。日経新聞などによると、ヒル容疑者らは「正当な業務の範囲内で違法性の認識はなかった」などと容疑を否認しているという。

  ヒル容疑者のフェイスブックなどによると、米国籍の同容疑者は1993年に米プリンストン大学を卒業後に来日。関係者によれば世界遺産に指定された北海道・知床の国際化に向け、地元行政機関で観光案内の仕事に携わった。東京の外資系会計事務所や証券会社を経て2002年に欧州系のUBS証券で勤務し、14年にホールセールの強化を打ち出していたSMBC日興にエクイティ本部長として招かれた。

  SMBC日興で行われたブロックオファー取引について証券業界は、共通の問題とは受け止めていない。日本証券業協会の森田敏夫会長は16日の定例会見で、「かなり特異で他社で同様の取引は考えにくい」と指摘した。

  それでも、マネックス証券の大槻奈那専門役員は、外部人材の登用機会が非常に多い業界だけに「証券各社は法人部門が利益最優先主義に陥るなど業績の評価軸がぶれていないか、この機会に改めて点検すべきではないか」と自戒を求めた。

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