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戦争犯罪とは何か、プーチン氏訴追の可能性はあるか-QuickTake

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2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻と民間人を標的とした度重なる攻撃を受け、プーチン大統領とその配下の責任を追及すべきだとの声が米国や英国、欧州各国で上がっている。3月16日には、ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリで、多数の市民が避難していた劇場がロシア軍の空爆を受けたと報じられ、バイデン米大統領はプーチン氏を「戦争犯罪人」と呼んだ。

  その後、ロシア軍が撤退した首都キーウ(キエフ)近郊のブチャなどで、民間人とみられる多数の遺体が路上に残されている画像が続々と公開され、バイデン大統領は4月4日、プーチン氏が戦争犯罪で法の裁きを受ける可能性があると記者団に語った

  国際刑事裁判所(ICC)はロシアのウクライナ侵攻に伴う戦争犯罪に関して捜査を開始した。しかし、国際法の下で誰かが法の裁きを受けることになるかどうかは確かとは言い難い。

バイデン米大統領は3月16日、記者団に対し、ロシアのプーチン大統領について「戦争犯罪人」と呼んだ
Source: Bloomberg

1. 戦争犯罪とは何か?

  オランダ・ハーグにあるICCが用いる定義は広範囲に及ぶ。殺人や拷問、レイプ、強制売春、身体・健康に故意に重い苦痛を与えたり重大な傷害を加えたりすること、人質をとること、不法な追放、飢餓の状態を故意に利用すること、自ら投降した戦闘員を殺害したり負傷させたりすることなど多くが含まれる。

  このほか化学兵器や生物兵器など禁止された兵器の使用、民用物・軍事目標以外の物を故意に攻撃すること、病院および傷病者の収容所を故意に攻撃すること、略奪、環境に深刻な被害を生じさせる攻撃の実行なども挙げられる。ロシアの侵攻はいわゆる「侵略犯罪」と考えることができるかもしれない。

2. 侵略犯罪とは何か?

  チリ・エボオスジ前ICC所長は、基本的に自衛の正当な理由がない状況での一国による他国の攻撃だと説明する。ICCによれば、国家の軍事的または政治的指導者による「侵略行為」の計画、準備、実行であって、「その性格や重大性、規模により国連憲章の明白な違反を構成するもの」という。集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪に続く4つ目の犯罪として2018年にICCの管轄権に加わることになった。侵略行為とは「国による他国の主権、領土の一体性もしくは政治的独立に対する武力の行使」であり、武力の行使による侵略や占領、併合に加え、港湾の封鎖も含む。「国家の政治的または軍事的行動を支配」または「指揮」する最高指導者に行為主体が限定されている。

3. 戦争犯罪はどのように訴追されるか?

  ICCは国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪に問われる個人を訴追・処罰するための、独立した初の常設国際刑事裁判機関。60カ国の批准をもって02年に発効した国際条約「国際刑事裁判所に関するローマ規定」に基づき設置された。締約国・地域はその後、2倍余りに増えている。批准していない主要国は米国と中国、ロシア、インド。米国は自国民をICCの管轄権下に置くことはその憲法上の権利を侵害することになると主張している。

  ICCが戦争犯罪で管轄権を行使することができるのは、犯罪の被疑者が締約国の国籍を持つ場合や、犯罪の実行地国が締約国である場合、犯罪の実行地国が非締約国であってその国がICCの管轄権を受諾した場合、国連安全保障理事会が事態をICC検察官に付託した場合などとなっている。

チリ・エボオスジ前ICC所長は戦争犯罪人の定義について説明
Source: Bloomberg

4. ウクライナの場合はどうか?

  ウクライナは締約国ではないが、13年11月以降に同国の領土であった犯罪容疑についてICCの管轄権を受諾した。これにより、14年初めのロシアによるクリミア侵攻とその後の併合に関してICC検察官は予備調査を行うことが可能になった。

  ICCのカーン主任検察官は2月28日、主に20年に実施した予備調査に基づき、「ウクライナで戦争犯罪と人道に対する犯罪があったと考えられる合理的な根拠がある」と述べ、捜査開始を発表。現在のロシアによる全面侵攻後の紛争拡大における新たな犯罪行為の可能性も捜査対象とする考えを示した。日本を含む数十カ国もICCに捜査を付託している。

5. 侵略犯罪訴追は?

  侵略犯罪では、国連安保理によるICC検察官への事態の付託、もしくは締約国によるICC検察官への事態の付託、ICC検察官の自己発意による付託があった場合、管轄権を行使することができる。ただし、犯罪の実行地国か被疑者国籍国が締約国でなければならない。ウクライナ、ロシアのいずれも非締約国である上、ロシアは国連安保理常任理事国としてどのような決定にも拒否権を行使することができるため、ウクライナでの戦争のケースでは侵略犯罪の訴追はできない。

6. 戦争犯罪訴追に当たっての課題は?

  ロシア軍がアパートや病院、公共広場、庁舎、原子力発電所を含め民間人を襲ったことを証明するのはとても容易なことだ。ソーシャルメディアは録画の投稿であふれ、攻撃の数分以内のものも時々ある。大虐殺の様子を目の当たりにしているウクライナ人の証言もある。だがこれらの証拠は、訴追に必要とされる特定の攻撃を特定の個人に結びつけるものではない。一方で米国は、誰に罪があるかの証拠探しを現地で既に進めていることを表明している。ブチャで多数の遺体が見つかったのを受け、バイデン大統領は「戦争犯罪の裁判が実際に行われる」ようにするため、「詳細な情報を全て集めなければならない」と話した

7. ロシア当局者を裁判にかける可能性は?

  可能性は低い。ICCは被告人欠席での裁判を認めていない。また、ICCには警察がないため、プーチン氏とその配下を捕まえることもできそうにない。逮捕には締約国を頼みにすることになるが、各国は必ずしも令状を履行する義務を尊重してきていない。被疑者は自分たちの身柄を引き渡す恐れのある国々への渡航をいつでも回避できる。

原題:

What Are War Crimes? Could Putin Face Prosecution?: QuickTake

What Are War Crimes? Could Putin Face Prosecution?: QuickTake(抜粋)

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