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「武器化」する半導体、政治絡みの支援策で供給悪化との懸念浮上

  • 対中輸出阻止を求める米国の圧力にオランダのASMLは不満募らす
  • 「21世紀のバリューチェーンに適用される20世紀の政策ツール」

米インテルはドイツのマクデブルクで最先端の半導体を製造するため170億ユーロ(約2兆2000億円)を投じると15日に発表した。米アリゾナオハイオ両州に続き、ゴシック様式の大聖堂で知られる旧東ドイツ地域の都市に新工場を建設する。

  パット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)の狙いは、アジアに奪われた半導体業界の主導権奪回と新型コロナウイルス禍とロシアのウクライナ侵略で一段と悪化している世界的な半導体不足への対応だ。ドイツはインテルの工場建設を支援するため50億ユーロ余りの公的資金を提供することを検討している。同社との交渉に詳しい関係者が明らかにした。

  中国が半導体大国になろうと取り組む中で、米国と欧州連合(EU)は輸入依存を減らすため総額1000億ドル(約11兆9000億円)の補助金を約束。最先端の半導体製造レースで大きく遅れている中国は2014-30年に1500億ドル余りを投資する計画だ。 

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インテルのゲルシンガーCEO(中央)(アリゾナでのくわ入れ式、2021年)
Source: Intel Corp.

  ただ、業界内では目立たないものの、こうした競争力強化を目指す米欧の戦略が裏目に出るのではないかとの懸念も浮上している。補助金が少な過ぎて遅過ぎるかもしれないということだけではない。各国が供給不足に対応できない国内工場を支えながら、供給確保を競うことになるため、政治絡みの支援策が世界のサプライチェーンを一段と複雑にするのではないかとの恐れだ。

  半導体不足で幾つかの自動車工場が操業を停止し、ゲーム機やスマートフォンの出荷も遅れたことで、米欧当局が目覚め、極めて重要な部品を特定の地域に依存していることを認識。最重要視されている台湾は中国との緊張関係が続いており、ウクライナでの戦争開始後、半導体ファウンドリー(受託生産)世界一の台湾積体電路製造(TSMC)を抱える台湾の安全保障に対する関心が一段と高まった。

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  米欧の制裁が発動されたロシアは、半導体が極めて重要な政治的ツールとなっていることの明確な証左だ。ロシアを世界経済から切り離すため、米欧はまず最初に半導体などの禁輸を決め、継続的に追加制裁を示唆。ロシアでの自動車製造はすでに打撃を被っている。一方、ロシアとウクライナは半導体の製造に使われるパラジウムとネオンを輸出。ただ半導体メーカー側はこれまでのところ重大な影響があるとはみていない。

国家安全保障

  レモンド米商務長官は9日のインタビューで、ロシアへの輸出を禁じる米国の制裁措置に中国企業が従わなければ、米政府は米国製ハード・ソフトウエアの対中出荷を制限し中国企業を閉鎖に追い込む可能性があると警告した。

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Subsidy War?
 
 

  破壊的イノベーション(技術革新)を担当する独連邦機関SPRIN ーDのラファエル・ラグナ・デラベラCEOは半導体を含むハイテクが今の貿易戦争とサプライチェーン問題において「武器化」されつつあると指摘。これが「その地域が強靱(きょうじん)になるためにハイテク投資が必要な理由だ」と述べた。

  米国とEUの当局が引用したデータによると、1990年代には世界シリコンウエハー生産の40%近くを米国、20%余りをEUが占めていた。今では米国のシェアは15%を切り、EUは10%程度だ。

  インテルのゲルシンガーCEOは今年に入りブルームバーグとのインタビューで、「今回の危機を無駄にしてはならない」と訴え、経済面だけでなく「国家安全保障」に絡む問題だと主張した。日本はTSMCの工場を熊本県に誘致。ソニーグループデンソーが出資する。韓国もまた半導体生産で世界一となることを目指しており、2030年までに官民で計4500億ドルを投じる方針だ。

半導体業界の今後を分析する
Source: Bloomberg

 

  一方で、各国は重要テクノロジーの流出も警戒。ドイツ政府は台湾の半導体シリコンメーカー、グローバルウェーハズ(環球晶円)によるドイツの同業シルトロニック買収計画を事実上阻止した。ホワイトハウスはオランダの半導体製造装置メーカー、ASMLホールディングが最先端の製造装置を中国に輸出しないよう働き掛けている。

米国の介入

  事情に詳しい関係者によれば、極端紫外線(EUV)露光装置の対中輸出を認めないようにとのオランダ政府に対する米国からの圧力はトランプ政権時代の18年から始まっていたが、バイデン政権では一段とエスカレートしており、事実上の禁輸措置を書面で求めることを米国側は検討している。

  ASMLは米国の介入に不満を募らせている。半導体が「生産されている地域への成熟したテクノロジーの製造装置出荷を制限するという国家の提言は良い考えではない。そうすべきではない」とピーター・ウェニンクCEOは言う。

Waiting for Chips

Lead times for supplies are almost twice as long as two years ago

Source: Susquehanna Financial Group

Note: Chart based on revised calculation method

  TSMCの劉徳音会長は昨年12月、インテルが必要としている半導体関連の一部ケミカル製品は台湾のサプライヤーが米国に輸出していることを強調した。つまり、米国製であっても国外に依存しているということだ。

  独シンクタンクSNV(ベルリン)のヤンペーター・クラインハンス研究員は、特定の地域で特定の半導体の製造を優先するよう政治家が企業に指示した場合、供給不足が悪化するリスクもあると分析。政府は半導体の買い手でもメーカーでもないことから、「21世紀のバリューチェーンに適用される20世紀の政策ツール」が幅を利かすことに警鐘を鳴らした。 

原題:The Global Fight Over Chips Is About to Get Even WorseIntel Set to Get $5.5 Billion in German Subsidies for Plant (1) (抜粋)

 

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