ルネサス工場などに地震の影響-東北新幹線は少なくとも21日まで運休
稲島剛史、古川有希-
ルネサスは那珂工場など3工場が一時停止、キオクシアの一部装置も
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ソニー東北3工場一時停止、イメージセンサーや半導体レーザー生産
16日深夜に発生した福島県沖を震源とする地震で、気象庁は17日午前5時、宮城県や福島県への津波注意報を解除した。地震は16日午後11時36分ごろ発生し、宮城県北部、南部や福島県中通りなどで震度6強を観測した。東京23区でも震度4を観測した。
産業界や交通に与えた影響は以下の通り。
石油
国内石油元売り最大手のエネオスホールディングス(HD)の広報担当によると、仙台製油所(宮城県仙台市)で地震の影響で安全停止装置が作動し全装置が停止した。また、川崎製油所(神奈川県川崎市)で石油精製過程の入り口にある常圧蒸留装置2基のうち1つが停止した。それぞれ再開時期は未定。
そのほか、同社の根岸製油所(横浜市)で一部装置が停止したが、既に稼働を再開している。また、同社と中国石油天然気(ペトロチャイナ)合弁会社の千葉製油所(千葉県市原市)の全装置が停止した。経済産業省によるといずれの製油所でも火災などは発生していない。
出光興産の広報担当によると、傘下の東亜石油京浜製油所(神奈川県川崎市)も地震の影響で一部装置が停止した。常圧蒸留装置の稼働は継続しているという。経産省の発表によると、停止している装置は明日の再開を予定している。
電力
経産省によると、地震の影響で東電ホールディングス(HD)管内で一時約208万5430戸、東北電力管内で同14万8100戸で停電が発生した。東電HD管内では午前3時までに停電は解消している。東北電管内でも約4100戸まで減少しており、同日中に供給支障は解消する見込みだという。
また、経産省の取りまとめでは地震の影響で東北地方の火力発電所を中心に出力で計約600万キロワット以上の設備が停止した。東北電力の新仙台ガス火力発電所の3-2号機が稼働を再開したほか、一部設備は近日中に再開予定となっているが、出力が大型の発電設備は復旧時期が未定とされているものが多い。
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経産省によると、東北電に対して午前2時30分から北海道と東京エリアから電力融通が行われた。11時以降は融通は不要な見通しだという。東京エリアでも、東北電への電力融通を行っても安定供給の維持は可能な見通しだという。
半導体・電子部品
ソニーグループの広報担当は、宮城県多賀城市のストレージメディア工場、同県白石市の半導体レーザー工場、山形県鶴岡市のイメージセンサー工場の稼働を一時停止していることを明らかにした。安全確認のためで、設備の状況を確認している。3工場とも人的被害はないという。
ルネサスエレクトロニクスは、地震発生後に那珂工場(茨城県ひたちなか市)、高崎工場(群馬県高崎市)、米沢工場(山形県米沢市)を停止したと発表した。3つの半導体工場で建物への被害はなく、米沢工場では17日朝から一部の工程でテスト生産を再開しているという。
那珂、高崎工場では一時停電があったものの現在は復旧しており、今後クリーンルーム内の装置や製品の被害状況の確認を進めるとしている。
キオクシアホールディングスの広報担当は岩手県北上市にあるフラッシュメモリーの工場で一部の製造装置が地震の影響で停止したことを明らかにした。現在詳細を点検中で、作業員や建屋への被害はないとしている。メモリーの生産自体は継続していると話した。
村田製作所は、宮城県登米市にある電子部品のチップインダクターを製造する工場や、宮城県仙台市にある高周波部品を製造する工場など東北地方にある4工場で建物や設備の一部に被害があり操業に影響が出ていると発表した。このうち、福島県郡山市と同県本宮市にある電池工場については18日に順次稼働を再開する予定だとしている。
アルプスアルパインは設備のずれや断水などの被害があり、古川第2工場(宮城県大崎市)など同県内の3工場で生産を停止していると発表した。
SUMCOの広報担当はシリコンウエハーを製造する米沢工場(山形県米沢市)について、現時点で公表すべき被害は認識しておらず、同工場も稼働しているとした。
自動車・自動車部品
トヨタ自動車は子会社トヨタ自動車東日本の宮城大衡工場(宮城県大衡村)と岩手工場(岩手県金ケ崎町)の17日の昼間の稼働を停止した。トヨタ広報担当の橋本史織氏によると、夜間の操業については今後判断をしていく。また、エンジンを製造する同子会社の宮城大和工場(宮城県大和町)は、16日の夜間操業中に停止したが、17日の昼間に稼働を再開する予定。
同社はルネサスの工場が停止したことによる生産への影響は限定的になるとの見通しを示している。
トヨタ系の自動車部品メーカー、デンソーの広報担当者によると、カーエアコンなどを生産する福島県内の工場の設備の一部で被害を確認。今後の生産に対する影響を精査しているという。
トヨタなどが出資する車載用電池製造子会社のプライムアースEVエナジーの宮城工場(宮城県大和町)の稼働も地震直後から停止している。同社の広報担当が明らかにした。再開時期は未定で、点検の終了後に決めるとしている。
日産自動車も、いわき工場(福島県いわき市)は16日の夜間の稼働を停止。広報担当の百瀬梓氏によると、同工場は17-18日はもともと非稼働の予定だった。
日立製作所やホンダが出資する自動車部品メーカーの日立アステモの広報担当者は、東北地方にある7工場全ての操業を一時停止し、設備点検を行っていると発表した。再開時期は未定だという。
住友ゴム工業は地震を受けて福島県白河市にあるタイヤ工場で稼働を停止した。現在状況を精査中だが、広報担当の藤田英明氏によると、建物などに大きな被害は出ておらず、それほど時間がかからず稼働を再開できる見通しという。白河工場は同社にとって国内最大のタイヤ生産拠点。
その他の製造業や小売り業
ヤクルト本社の広報担当によると、地震により福島工場で製造機器にずれが発生。現在、安全確認のため製造を停止しており、17日の同工場での製造予定分は他工場で生産する。同工場では「ミルミル」や固形ヨーグルトの「ソフール」などを製造している。
アサヒグループホールディングスでは「スーパードライ」や「クリアアサヒ」など主力商品を生産する福島県のビール工場が製造を止めた。現在、影響を確認中としている。
国内小売り最大手のイオンは、東北地方で営業するショッピングセンターや総合スーパーなどで、地震によるスプクリンクラー設備の破損などが起きたと発表した。17日は福島、宮城県内の計9店舗の営業を休止し、その他の一部店舗では食品部分のみ販売を行っている。
鉄道
JR東日本の広報担当は電話取材に対し、地震による脱線の影響で東北新幹線の那須塩原-盛岡間の運休は少なくとも21日まで続く見込みだと話した。復旧には数日以上かかるという。
航空
日本航空(JAL)とANAホールディングス(HD)はともに17日の国内線は平常運航だが、一部空港と市内を結ぶ地上交通機関などに影響が発生している。東北新幹線の運休を受けて、ANAHDは羽田と仙台・福島間を結ぶ臨時便を計16便設定。JALも羽田と仙台などを結ぶ臨時便を計16便運航すると発表した。
通信
国内通信大手のソフトバンクは17日、地震による停電の影響により、福島県南相馬市や宮城県白石市など、一部地域で携帯電話サービスが利用しづらい状況になっている。NTTドコモは停電地域で基地局をバッテリーで運用して通信を継続しているが、福島県伊達市などで利用できないなどの障害が発生している。
KDDIでも17日午前5時以降、福島県相馬市と南相馬市の一部エリアで通信がしづらい状況。楽天グループでは福島県相馬市や南相馬市、宮城県石巻市など一部地域で通話やデータ通信の利用がしづらい影響が出ているという。
岸田文雄首相は参院予算委員会で、地震により午前8時時点で死者4人、負傷者97人との報告を受けていると発言した。松野博一官房長官は午後の会見で、4人のうち2人については今回の災害による死者とは認められなかったため除外したと説明した。