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日経平均の「平家物語」-金融政策が招いたマネー流出入の栄華と没落

  • 日経平均の優位性示すNT倍率、コロナ対応後に歴史的ピークを形成
  • 成長株人気が大きくした振れの揺り戻し-日銀のETF手放す難しさ

日本銀行が昨年3月に上場投資信託(ETF)買い政策を大きく転換させてから間もなく1年。10年以上に及ぶ長期化と政策規模拡大による巨額化は相場のゆがみを生み、特定の株価指数が鎌倉時代の軍記物語に描かれた平家の栄枯盛衰のように盛り上がりしぼんでいるように見える。今や停止に近い状況にある買い入れは役割を果たし、清算という課題が浮かぶ。

Bank of Japan Governor Haruhiko Kuroda Speaks After Rate Decision
会見で説明する日銀の黒田総裁.
Photographer: Jun Hirata/Kyodo News/Bloomberg

  政策を始めたときの日銀は日本株のリスクプレミアムが高すぎるのを是正すると説明していた――。BNYメロン・アセット・マネジメント・ジャパンの王子田賢史日本株式運用部長は、政策の理由自体は正しかったと語る。

  国債などの安全資産よりもリスクのある株式などで運用する際に、投資家が要求する期待収益率の「リスクプレミアム」。リスク資産の買い控え度ともいえるこの要素を押し下げるために実施するETF買い政策は株式相場の支えになったが、弊害も生んだ。王子田氏は2012年末からのアベノミクス期間に株価収益率(PER)が大きく上昇した時点で「役割を果たした」とも振り返る。

  時計の針を巻き戻すと、2008年のリーマンショック以降の日経平均株価は1万円前後の長期低迷期にあった。10年当時の白川方明総裁の下で年間4500億円規模で始まったETF買い入れ政策は、13年の黒田東彦総裁時に約1兆円とほぼ倍増。物価の停滞が続く中で、14年に3兆円、16年に6兆円と買い入れ額は巨額化の一途をたどった。

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Source: Bloomberg

  日銀は16年10月18年8月にETF買い政策の副作用対策を実施。主要225銘柄のみで構成される日経平均に連動したETFを買う比率を引き下げた一方、東証1部の全銘柄で構成するTOPIX型の比率を引き上げた。それでも「一度買い入れれば売りは出てこない」という累積効果に加え、TOPIXにも日経平均の採用銘柄が重なっているため日経平均銘柄に資金が流入しやすい環境に変わりはなかった。

  新型コロナウイルス感染拡大を受けて、日銀がETF買い入れ額を年6兆円から12兆円に倍増させた20年3月以降、日経平均の優位性は極まっていく。日経平均にとっては日本の主要企業の投資価値を示す指数としての役割を揺るがす要因になった。証券ジャパン調査情報部の野坂晃一次長は、昨年はマーケットを語る際にどちらの指数をみるかで様相が違ったと指摘する。

NT倍率に浮かぶゆがみ

  日経平均をTOPIXで割ったNT倍率は21年2月25日に15.66倍まで上昇。みずほ証券によると東京証券取引所が1949年に取引再開して以降の最高値になった。その後は日経平均の相対的な割高さが修正し始め、22年2月には一時14倍を下回った。

  日銀が21年3月にETFの買い入れ対象から日経平均型を外し、買い入れ方針を「積極的」から「必要に応じて」へ変更したことが一つのきっかけだ。NT倍率のピークはその方針変更の直前に付けていた。

ETF政策に関する当時の市場観測はこちらをご覧ください 

21年2月がピークに
 
 

  NT倍率が15倍以上に駆け上がったのは日銀政策の要因が大きいとの見方は多い。ピクテ投信投資顧問の松元浩運用・商品本部シニア・フェローは、NT倍率の極端な騰落は日銀の手口が事前に予想できるため、「市場で日経平均寄与度の高い特定の銘柄を買えばもうかるといった思惑を誘った」とみる。

  いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は、NT倍率の「異常値は日銀政策が下地を作った」うえ、米国発のグロース株人気も加わった「二重の偏り」現象が発生したとみる。将来収益への期待が大きいグロース(成長)株が構成銘柄に多く占める日経平均が金利低下の追い風に乗ったことも要因になったというわけだ。

昨年3月を機にトレンド急変
 
 

  ゆがみの影響はファーストリテイリングアドバンテストTDKといった日経平均の寄与度が高い個別銘柄の値動きに色濃く出た。指数構成比の高い銘柄群が集中して市場から吸い上げられることによる限界が出てくるのではないかと危惧された。

  いちよしアセットの秋野氏は、景気敏感のバリュー物色の流れが強まればNT倍率はいずれ12倍を切ってもおかしくないと、過熱した後の反動余地の大きさを指摘する。

繰り返すか「盛者必衰」

  日銀が保有するETFの手放し方で株式相場は新たなゆがみを生みかねない。政策目的で保有したETFをいつまでも持ち続けるわけにはいかないからだ。

  SMBC日興証券の伊藤桂一チーフクオンツアナリストは売却方法次第だと前置きしながらも、仮に売却方針を明確にすれば「保有金額を売買代金で割った需給インパクトの高い銘柄を市場は気にする可能性がある」と言う。

  債券とは違って株式には満期による償還がないため、残高が積み上がり続ける問題を指摘する声もある。ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「株式市場は中央銀行がコントロール不可能と歴史の一ページに記した。これで他国は自国の株を買うことはないと日銀に学んだ」と語った。

  バブル景気に踊って1989年に史上最高値を付けた日経平均は長い反動に苦しむことになった。令和に世が移るとNT倍率が最高水準へと躍り出た。源平合戦絵巻さながら「盛者(じょうしゃ)必衰の理(ことわり)」を繰り返しかねない。

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