好都合な外国批判繰り返す中国、コロナ国際郵便犯人説には焦りも
Bloomberg News-
北京初のオミクロン感染者はカナダからの手紙を扱っていたと当局
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習政権の正当性高めるためナショナリズムに訴える一例とユーラシア
中国中部の湖北省武漢市で新型コロナウイルスの感染拡大を約2年前に抑え込んだ習近平政権はその後、コロナは持ち込まれているとして外国を繰り返し非難してきた。最新の標的は国際郵便だ。
先週広がった懸念は、海外から送られた小包がコロナに汚染され、こうした小包に触れた人々が感染し得るというものだった。北京初のオミクロン変異株感染者はカナダからの手紙を扱った女性だと当局は主張。これを受け、広東省広州市は16-19日に国際郵便を受け取った全住民にコロナ検査を命じたほか、国家郵政局は特に小包に注意するよう呼び掛けた。

だが、こうした見方はすぐにソーシャルメディア上で疑問視され始めた。中国版ツイッターと呼ばれる微博(ウェイボ)では1人の医師が世界中で笑われると投稿。このコメントはその後、医師のアカウントから消えたが、国際郵便を介したコロナ拡散の可能性が極めて低い理由を科学的に説明したウイルス学者の人気アカウントに掲載された長い解説文は、多くのユーザーに読まれている。
中国はその後、主張を変えたようだ。国家衛生健康委員会の賀青華氏は週末の記者会見で、国外から中国に入る非冷凍の品々がコロナを拡散させているという十分な証拠はないと述べ、新型コロナは主に人同士の接触で感染が広がるという世界保健機関(WHO)の公式スタンスを踏襲する見解を示した。
この突然の変化は、オミクロン株の感染拡大を封じ込め、北京で来週開幕する冬季五輪を成功させなければならない中国当局が国民への説明で感じる圧力のせいかもしれない。同国の宣伝機関は中国共産党のコロナ対策は欧米より優れていると主張してきたが、「ゼロコロナ」戦略に伴う厳格なロックダウン(都市封鎖)と大規模検査によって14億人の国民には不満が広がっている。
「政治的文脈」
政治学者でオーストララシア・ストラテジー・グループ責任者のドミニク・ミーガー氏は、多くの専門家を抱える国家衛生健康委は国際郵便犯人説を即座に否定できたかもしれないが、党内でどの説がより有力な支持を得られるかを見極めるため待ったかもしれないと指摘。「一党制は全てを極度に政治と結び付ける。能力に対する疑問は全体の統治システムの正当性に直ちにつながるためだ」と述べた。

武漢で最初のコロナ感染拡大があった際、意図的に情報公開を控えたのではないかなどと国内でも激しい批判を浴びただけに、習政権は対応に抜かりがないよう、国内各地の当局に厳しい態度で臨んできた。2020年当時のケースでは湖北省と武漢の党幹部が更迭され、1300万人の住民が1カ月にわたるロックダウンを強いられた陝西省西安市では当局者26人が処分された。
一方で外国批判も定期的に繰り広げてきた。19年に香港で民主化デモが広がった際は米国が黒幕だと主張。WHOが20年3月にパンデミック宣言した数日後、中国外務省の趙立堅報道官は米軍がコロナを拡散させたとツイート。「データを公開せよ!米国はわれわれに説明する義務がある!」とコメントした。
ソ連の主張に酷似
バイデン政権の指示で米情報機関がコロナ起源に関する報告書を昨年夏に準備すると、中国外務省は定期的に米国のバイオ研究所をやり玉に挙げた。メリーランド州にあるフォート・デトリック研究所のことだが、同研究所については1980年代に当時のソ連がエイズウイルスの発生源だと事実に反する主張を展開した。

新型コロナの責任を外国に押しつけるのは、中国にとって好都合だ。ゼロコロナ政策で多くの負担を強いられている国民のナショナリズムを刺激する。経済政策全般の立案を担う国家発展改革委員会(発改委)は今月、春節(旧正月)の大型連休中に長距離移動を控えるよう求め、多くの国民は里帰りを断念した。
ユーラシア・グループの中国政治・外交政策担当アナリスト、ニール・トーマス氏(ワシントン在勤)は中国のこうした措置について、「国民の批判が自国政府ではなく外国に向かうことを望んでいる」と分析。「国際郵便が感染源との説は習政権が自らの正当性を高めるためナショナリズムに強く訴えようとする新たな一例にすぎない」と語った。
原題:China’s Covid Blame Game Fizzles Over Infection-by-Mail Theory (抜粋)