藻で産業構築へ日本企業タッグ、培養設備は売り上げ年1000億円見込む
横山恵利香-
ちとせが世界最大級の培養設備計画、2025年以降2000ヘクタール規模
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エネオスや関西電も参加、燃料や化粧品原料などに藻類活用へ

気候変動や食糧問題の解決につながるバイオマス(生物資源)の一つとして期待される藻類。異なる業種の企業による共同プロジェクトで藻類産業の構築を目指すちとせバイオエボリューション(本社シンガポール)は、数年内に世界最大級の藻類培養設備の運転を開始する計画だ。藤田朋宏最高経営責任者(CEO)は、同設備で藻類バイオマスの売り上げ年間1000億円を見込む。
ちとせは現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業としてマレーシア・サラワク州で培養面積5へクタールの設備を建設中。2025年以降に設備を2000ヘクタール規模に拡大する予定で、大規模設備の建設地として東南アジアや中東を視野に入れているという。同設備では年間約14万トンの藻が生産される見通しだ。

化石燃料からの脱却が急務となる中、バイオマスの需要は拡大している。岸田文雄首相は今月12日、バイオ関連団体のセミナーで、バイオ技術は地球温暖化対策の大きな切り札であり「大気中の二酸化炭素(CO2)を原料とする微生物の活用が世界的に注目を集めている」と指摘した。
中でも微細藻類は、人間の食用として不足が懸念されるトウモロコシや大豆などのバイオマスの代替となることに加え、CO2の吸収量でも優れている。ちとせ研究所藻類活用本部の星野孝仁本部長によると、例えば「クラミドモナス」という種の藻は年間1ヘクタール当たりで大豆の8.7倍のCO2を吸収する。
ただ、藻類ビジネスを一つの「産業」として確立させるためには、一企業では難しく、培養設備の開発や物流網の整備、製品販売など藻の生産から販売まで多様な業界からさまざまな役割を担う企業が集結する必要があった。そこで、藻類を培養するちとせが旗振り役となり、メーカーと共同で藻類産業の構築を目指すプロジェクト「MATSURI」を昨年4月に日本企業や自治体など20機関で開始。関西電力や日東電工なども加わり、今月時点で36機関が参加している。
産業技術総合研究所の芝上基成・上級主任研究員は、藻類を取り扱う業者の間でも、培養を専門とする企業と製品化を手掛けるメーカーでは知識を持つ分野に乖離(かいり)があると指摘する。培養企業は材料化学やものづくりに必ずしも精通しているわけではなく、反対にメーカーは藻類の性質を詳しく把握していないという現状があり、MATSURIは両者の溝を埋め合わせようとする試みだと評価した。
その上で、藻類を最終製品に活用する「出口イメージ」が不明確だったために頓挫した計画は過去にあるとして、メーカー側からちとせに対し、どのような種類の藻が製品化に必要か積極的に提示していくことがプロジェクト成功の鍵になると述べた。
こうした課題に対応するため、MATSURIでは参加企業で定期的に勉強会を開催し、製品化に必要となる藻類の成分や機能について議論している。参加企業は、ちとせが培養した藻を購入するなどして研究開発や商業化を加速する構想だ。

ENEOSホールディングスは、ちとせの設備の稼働開始後、速やかに藻類由来燃料の商業化も目指す。2050年のカーボンニュートラル実現を目標に掲げるホンダは、航空用燃料や車の樹脂部品などへの藻類活用を想定している。独自で藻類の品種改良や培養システムの研究にも取り組んでおり、MATSURIを通じた他社との連携で、藻類産業の可能性を広げ実用化につなげたいとしている。
昨年12月に植物油廃棄物などを原料とするバイオマスナフサ3000トンの投入を大阪工場で開始した三井化学は、将来的には藻類由来のバイオマスナフサの活用も検討する。ナフサは、食品包装や飲料ボトルなど幅広い化学製品に使用されるため、「さまざまな化学製品についてCO2を削減すると同時に、多くの生活用品をバイオマス由来製品に転換することにつながる」と、松尾英喜副社長はコメントした。
日本精化は、微細藻類をスキンケアやメーキャップなど化粧品の原料に活用し、25年に商業化することを目指している。これまでも消費者や化粧品メーカーの意識の変化を反映し、化石燃料由来だった原料を植物由来に置き換えてきた。今後はさらに、複数の原料について藻類ベースで代替することを目指すと、香粧品事業本部の新村明寛・副本部長は述べた。
ちとせ子会社のタベルモは、急速冷凍した藻を食品として販売している。栄養価の高いスーパーフードとして知られる「スピルリナ」という種の藻は、70%がタンパク質で構成されており60種の栄養素を含む。タベルモの主力製品「生スピルリナ」は無味無臭で食品添加に適しており、20年4月の発売開始から販売パック数は約14倍に増加した。

タベルモの佐々木俊弥最高執行責任者(COO)は飲料やフローズンデザートのほか、現在開発中のマヨネーズやパスタなど青緑色の食材を提示し「藻を大豆のような代替タンパク質源に位置付けたい」とし、今後は米国などを中心にグローバル市場でも訴求したいと話す。
米気候エネルギーソリューションセンターによると、世界の藻類製品市場は30年に3200億ドル(約36兆円)規模まで拡大し、約30億トンのCO2を吸収すると予想される。これは日本の年間CO2排出量の約2.5倍に相当する。
藻類バイオマス組織(ABO)のエグゼクティブディレクター、レベッカ・ホワイト氏は「現在の市場規模や気候変動を緩和する能力は藻類産業が持つポテンシャルの一部にすぎず、積極的な投資によって成長を促す必要がある」と指摘した。