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ESG Weekly: ESGマネーが素通りする日本、「三重苦」にあえぐ

  • アクティブFの純資産で海外株対象が上位独占、日本株限定は小粒に
  • 「内外パフォーマンス格差」「投資余力」「政策評価の違い」重なる

世界の株式市場がESG(環境・社会・企業統治)への傾斜を強める中、日本の個人投資家が自国の企業を対象とするESGアクティブファンドをほぼ素通りする状況となっている。背景にはESG関連にとどまらない日本株の三つの構造問題がある。

  ブルームバーグ・データによると、昨年末時点で純資産が1000億円以上のESG関連のアクティブファンドは、「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド」、「イノベーティブ・カーボンニュートラル戦略ファンド」、「野村環境リーダーズ戦略ファンドBコース」などの計4本。その大半が海外株で運用されている。

順位ファンド名純資産(億円)運用会社
1グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド11549アセマネOne
2イノベーティブ・カーボンニュートラル戦略ファンド2129三井住友DS
3野村環境リーダーズ戦略ファンドBコース1145野村アセット
4野村ブラックロック循環経済関連株投信Bコース1103野村アセット
5野村環境リーダーズ戦略ファンドAコース959野村アセット

  一方、国内企業限定のESGアクティブファンドとなると昨年8月設定と間もないながら最大の「脱炭素ジャパン」で純資産401億円と、一気に規模が縮小する。「イノベーティブ・カーボン」を抱える三井住友DSアセットマネジメントでも、日本株中心では「三井住友・日本株式ESGファンド」で100分の1以下になる。

  主なパフォーマンスはグローバルESGが11月末まで設定来で28%上昇、イノベーティブ・カーボンは同16%上昇である一方、脱炭素ジャパンは同1.3%上昇、三井住友・日本株式ESGは27%上昇となっている。

(参)脱炭素ジャパン401野村アセット
 世の中を良くする企業ファンド(野村日本株ESG投資)25野村アセット
 三井住友・日本株式ESGファンド14三井住友DS

  いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は「国内ESGファンドに資金が集まらないのは日本企業がESGで劣っているからではない」と語る。個人が運用先を考える際、最初からESGを切り口にするケースは多くないと指摘。むしろベースとなる市場そのものの強さが重視され「時代の変化に対応する経営力の差から海外株の方が上昇期待がある」と言う。

長期になれば格差さらに拡大

  市場の強さという点で日本株は劣勢だ。世界の代表的指数MSCI・ACWI(先進国・新興国)は昨年17%高、米S&P500種株価指数は同27%高なのに対し、TOPIXは同10%高。過去3年では差はさらに広がり、ACWI66%高、米S&P500種90%高で、TOPIXは33%高にとどまる。

  日本より海外、特に米国株が優位との認識は個人に広がる。リブラ・インベストメントの佐久間康郎社長は、「個人は投資に際して過去の実績を重視する傾向があり、ESGに関係なく日本を見限ることがトレンド」と言う。パフォーマンス格差の壁により、個別企業のESG優劣が吟味される以前の段階で日本株へは資金が向かいづらい構図となっている。

米国株(青)とACWI(白)、日本株(紫)の推移
 
 

資金力の差が期待の違いに

  こうした中で米国株では、マイクロソフトアマゾン・ドット・コムなどに代表される成長力が高い巨大テクノロジー企業がアクティブなどのESGファンドに組み入れられる傾向がある。

Trading On Floor Of NYSE As U.S. Futures Rise Ahead Of Fed Meeting
日本のESGマネーを引き付ける米株市場.
Source: Bloomberg

  野村アセットマネジメントの石黒英之シニア・ストラテジストによると、こうした米国の代表企業は年5兆円超の巨額なフリーキャッシュフローを生み出している。ESGで市場の注目度の高い「E」では、世界の企業が電気自動車(EV)など脱炭素に向けた先端分野でイノベーションに鎬(しのぎ)を削る。「米巨大企業のほうが国内企業より資金力で優位だと投資家に見透かされている」と、石黒氏は読む。

  米巨大企業が研究開発に潤沢な資金を費やしている半面、日本企業はキャッシュを積み上げている。日本銀行が昨年12月に発表した資金循環統計によると、9月末の民間企業の現金・預金は321兆円と過去最高となった。最高を更新するのは2020年3月末から7四半期連続で、新型コロナウイルス禍で日本企業は「将来への種まき」より「守り」を優先する。

個別企業に頼る日本

  さらに環境分野で全体に重荷となっているのは、日本政府の環境政策に対する厳しい評価だ。ニッセイアセットマネジメント運用企画部の松波俊哉チーフ・アナリストは、米国や欧州では政府がEVのインフラ分野などで大量の資金を投入しているのに対し、「日本は掛け声だけで実際の支出は少ない」と語る。民間のイノベーションを高めるための政府の取り組み不足が目立つという。

  ESG分野で海外だけでなく国内マネーすら日本株を素通りする事態を懸念するのは、セゾン投信運用部の瀬下哲雄運用部長だ。ESGを掲げてマネーが集まる環境下では、「米企業は資本コストが一段と低下し、利益を出しやすくなる」と、同氏は語る。政府に頼れない日本は企業がまず経営効率を上げて株価パフォーマンスを改善させなければ、ESGマネーを呼び込むスタートラインにすら立てず、米企業が一段と有利になる悪循環を繰り返しかねない。

 

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