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ESG Weekly: ESG格付けが投影するサステナブル投資の蜃気楼

  • 個人のESG投資資金の6割がMSCI格付けで組成のファンドに
  • ESG格付けは独自のシステムや対象企業の自己申告への依存度高い

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アジアのテクノロジー株から人口動態の変化がもたらす影響まで、投資判断に必要なあらゆる要素を盛り込んだ指数を提供してきた米MSCIは、2019年に企業のESG(環境・社会・企業統治)格付けサービスに乗り出した。しかし、今や最大のESG格付け会社となった同社の格付けは、サステナブル(持続可能)な社会の実現より、ESGが企業の最終利益を阻害しないかを重視しているのが実態だ。

  MSCIの売上高は創業から好調を維持していたものの、同社株自体が魅力的な銘柄の指数に組み込まれることはなかった。変化が必要な時期と捉えたヘンリー・フェルナンデス会長兼最高経営責任者(CEO)は19年2月、MSCI株担当アナリスト向け説明会で、自社の使命が「世界の投資家がより良い社会のためにより良いポートフォリオを構築する手助けをすることにある」と、1980年代に一部のマネーマネジャーの間で唱えられていた理想主義的なスローガンを借りて語った。

Day Four at COP26 Climate Conference
英グラスゴーで開かれたCOP26で話すフェルナンデスCEO
Photographer: Emily Macinnes/Bloomberg

  ESG投資は気候危機への警鐘や広範囲に及ぶ社会不安、新型コロナウイルス感染症パンデミック(世界的大流行)を背景に、金融サービス業界で最も急速な成長を遂げている。ESG格付けは多くの投資家を強く引き付ける手段であり、ブラックロックをはじめとする投資会社の販売員はファンド名に「サステナブル」を冠することを正当化するためMSCIの格付けを使っている。

  ただ、MSCIの「より良い社会」の実現をうたうマーケティングとその格付け手法には実質的なつながりはない。MSCIの格付けでは、ある企業が地球と社会に与えるインパクトを測るわけではないからだ。むしろ企業とその株主に対して世界が与え得るインパクトを測っている。MSCIはこの点について反論しないばかりか、同社のやり方は格付け対象企業の財務面において重要性が高いと主張する。

気候変動要因は重視されず

  ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌は、S&P500種株価指数に組み入れられている企業の中でMSCIが20年1月から21年6月までにESG格付けを引き上げた155社を分析した。すると、各企業の気候変動に関する記録が格上げに影響する例がほとんど見られないばかりか、全く評価要因にもなっていないという驚くべき点が浮かび上がった。

  今年4月にはマクドナルドが格上げされたが、牛肉の仕入れ量で世界トップクラスに入る同社のサプライチェーンから排出される温室効果ガスの量は19年に5400万トンに上っている。これはポルトガルやハンガリーの排出量を上回っており、4年間で約7%増加している。

   MSCIはマクドナルド格上げの理由として環境問題への取り組みを指摘した一方で、二酸化炭素(CO2)排出を格付け算定の要因として一切除外した。気候変動が同社の最終損益にリスクも機会も提供しないと判断したためで、MSCIが行ったのはむしろ、マクドナルドが同業他社と比較して「包装材や廃棄に伴うリスク」を低減したと評価する環境スコアの再算出。具体的には、リサイクルに厳しいフランスと英国でリサイクル回収箱を設置したことが評価対象に入った。

  マクドナルドの格上げを巡り、MSCIは、環境問題がマクドナルドに損害を与える可能性があるかどうかだけを注視し、地球へのリスク軽減は二の次というのが実情だ。マクドナルドはこのESG格付けについてのコメントを控えた。

MSCIの株価は4倍以上に上昇

  MSCIの格付けリポートの大部分に格上げ要因として指摘されている内容からは、より良い社会という目標に貢献しているかどうかが見えてこない。資金洗浄や贈収賄などすでに社会通念として犯罪と認識されていることを禁止するなどの倫理や企業行動に関する方針の採用が格上げ理由になっている例は51件あった。雇用慣行やデータ保護の方針なども含め、類似した要因は格上げ事例全体の71%で見られた。

  投資家がより良い社会に貢献していると信じているESG格付けシステムは不透明で、その裏には当たり前の商慣習を神聖化するからくりが潜んでいた。S&P500種構成銘柄の90%近くがMSCIの格付けを基に組成されたESGファンドに組み入れられている理由が、これで説明できる。

  米経済を代表するほとんどの企業に適用されるというなら、サステナブルの意味とは何なのか。MSCIとその経営陣にとって一つ確かなことは、フェルナンデスCEOが「より良い社会」の再ブランド化を表明した19年の年初から同社の株価が4倍以上に上昇しているということだ。フェルナンデス氏は自身の保有株式を通じて、ESGビジネスが生んだ最初のビリオネアとなったようだ。

  ブルームバーグ・インテリジェンスの試算では、サステナブルもしくはESGと名の付くファンドに個人が投じた資金の60%の行き先は、MSCIのESG格付けに基づいて組成されたファンドだ。また、スイスの投資銀行UBSグループによると、投資業界でESG関連データに1ドル費やされるごとに約40セントがMSCIのもうけになっているという。

信用格付けの威を借るESG格付け

  企業のESG格付けは、信用格付けとは全く別物だ。米証券取引委員会(SEC)が監督する信用格付けでは、格付け会社は企業の同じ財務情報を基にデフォルト(債務不履行)リスクを評価するため、ほぼ毎回横並びの結果になる。

  一方で、ESG格付けでは、格付け手段や結果について規制する公的機関はない。サービス提供各社が独自のシステムやアルゴリズム、メトリクス、定義、非財務情報を使っており、そのほとんどは透明性を欠いている。格付け対象企業の自己申告への依存度も高いため、結果が食い違う場合が多く、大きく異なることもある。

  MSCIは規格化されている信用格付けに倣い、E、S、Gそれぞれの数値スコアを「AAA」、「BBB」などの記号で総合評価に変換。各業種の平均的な企業には格付け開始時点でBBBが付与される。「投資適格級」とはっきり表現されてはいないが、ウォール街では長年BBBは投資適格級として通用している。

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MSCIによって格上げされた企業の約半数は最近のCO2排出量を開示していない
 

  MSCIのESG格付けでは、化石燃料を生産する企業や、電力などの公益企業、自動車会社など各業界の平均的な企業は当初の段階から投資適格とされるBBBが与えられることになる。同一業種内で変動があった場合やMSCIの格付け手段が変更された場合、何もしないでいれば格上げの対象になる仕組みだ。前述のビジネスウィークの調べでは、格上げされた155社はMSCIの格付け手段の変更が主因で、企業の取り組みが評価された結果ではなかった。

  社会的責任投資(SRI)と企業活動の間には、特に気候問題に関して隔たりがある。企業の温室効果ガス排出量がどんなに多くても、MSCIのESG格付けには影響しない可能性があるのだ。気候変動の影響緩和を目的とした各種規制が企業の最終利益にとって脅威にならない限り、MSCIはCO2排出が格付けには無関係と判断している。

  マクドナルドの格上げ例で言えば、MSCIは同社の最終利益にとって、官公庁が商品の包装材に関する規制を強化するかしないかを何よりも重要視している。結果的にマクドナルドは欧州でのリサイクル回収箱の設置や、プラスチックを使用した包装材の削減方針が評価され、最高値10のE(環境)スコアで7を獲得した。

各社の行動計画を査定

  ブラックロックは自社ウェブサイトの個人投資家向けページに、「環境、社会、企業統治面に配慮した米国株」への投資機会として「iシェアーズESGアウェアMSCI米国ETF(上場投資信託)」を紹介しているが、「配慮」に関する具体的な説明はない。金融業界の顧客のみに公開されているMSCIの詳細な格付けリポートの中身を知るファンドの販売側も、ESG格付けの実態を知らないことが許されている。

  11月に英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の関連イベントに参加したフェルナンデスCEOはインタビューに応じ、自社の格付けでは、ESGが企業に与える影響を査定しているという事実を一般投資家が認識しているかについて、「理解していないことは確かだ」ということを認めた。さらに、「ポートフォリオマネジャーの多くについても完全に把握していないと言える。彼らは報酬を得ている側だ。社会へのリスクについてそこまで気にしていない」と付け加えた。

  一方、フェルナンデス氏はこのCOP26の場では、ESG投資家が「より良い世界を手助けすることは100%確かだ」と賛辞を述べると同時に、新商品の「MSCIネットゼロ・トラッカー」を売り込んだ。ネットゼロ・トラッカーは9300社を対象に直接的および間接的に排出されるCO2の量を推定し、各社の気候に関する行動計画が世界的な目標に則しているかを査定している。他のESG格付け会社も同様のサービスを提供しており、企業のCO2排出への実際の影響はそれほどないかもしれないが、サステナブル投資のビジネスでは、インパクトがありそうだと一般投資家に思ってもらえるかがより重要かもしれない。

原題:ESG Investing Is Mostly About Sustaining Corporations  (抜粋)

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