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岸田首相肝いりの「賃上げ税制」、中小企業には絵に描いた餅か

  • 賃上げしても生産性高まらなければ企業自身が苦しくなる-IHS
  • 制度を利用できるのはごく一握りの好業績・優良企業-野村総研
岸田首相

岸田首相

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

賃上げに積極的な企業の税負担を軽くする岸田政権肝いりの「賃上げ税制」強化を巡り、市場からは中小企業に恩恵が行き渡りにくいとし、効果を疑問視する声も出ている。  

  IHSマークイットの田口はるみ主席エコノミストは、賃金を上げるには「生産性が高まっていかないと結局、企業自身が苦しくなってしまう」と指摘。足元は仕入価格の上昇で「特に中小企業のキャッシュフローが厳しく、ここで賃上げというのは難しい」との見方を示した。

  ブルームバーグが入手した資料によると、政府・与党は10日に決定する2022年度税制改正大綱で、企業が適用要件を満たした場合に法人税から差し引く控除率を大企業で現行の最大20%から最大30%、中小企業で最大25%から最大40%に引き上げる方針だ。2年間の時限措置としている。

 大企業中小企業
給与支給額4%以上増で控除率25%2.5%以上増で控除率30%
教育訓練費20%以上増で控除率5%上乗せ10%以上増で控除率10%上乗せ
税額控除最大30%最大40%

出所:自民党「令和4年度税制改正大綱(案)」、増加率は前年度比

  岸田文雄首相は6日、衆院本会議での所信表明演説で、「経済を守るためにも、賃上げに向け全力で取り組む」と表明した。 22年春闘では、業績が新型コロナウイルス禍前の水準を上回った企業には3%超の賃上げを求めている。

岸田首相、賃上げに全力「世界の物価上昇波及の懸念」-所信表明

  丸紅経済研究所の井上祐介チーフ・エコノミストは、賃上げ税制を実施することは「国の意思表示、かじ取りとしては意味があり大切だ」と語った。もっとも、コロナ禍で中小企業の多くが赤字に陥る中、「本当は中小企業とか、広く多くの人の賃上げを実現したいのが政策の意図」であるはずだが、「ますます大企業向けの政策ととられかねない」と懸念も示した。

  鈴木俊一財務相は10日の会見で、賃上げ税制の強化に関し、中小企業を含めて「赤字事業者に対する対応も必要」だと述べ、赤字でも賃上げする中小企業には「モノづくり補助金や持続化補助金の補助率を引き上げる特別枠を設ける」と語った。 

効果を疑問視

  連合は、賃上げの範囲が人件費の総額である場合には「時間外労働手当や休日労働手当等も含まれているため、実質的な賃上げにつながるか疑問」だと、ブルームバーグの取材に書面で回答した。

賃上げ税制が始まって以降、過去8年間では3%に届かず
 
 

  賃上げ税制は安倍政権発足後の13年に導入されてから8年が経過しているが、実質賃金の伸びは低迷している。財務省の調査によると、19年に給与の引き上げ・設備投資を行った企業が控除を受けたのは12万9831件で、国内企業全体の3%程度にとどまった。

  経済協力開発機構(OECD)の20年の調査によると、日本の平均賃金は年間で3万8500ドル(約437万円)と、主要7カ国(G7)ではイタリアに次いで下から2番目。1990年からの30年間にわたりほぼ横ばいで推移する中、連合は賃上げ税制導入以降の効果も検証すべきだと主張している。

  野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは8日付リポートで、制度を利用できるのは「ごく一握りの好業績・優良企業」と指摘。コロナ禍で広がった企業間格差の縮小が求められる中、賃上げ税制強化は「逆に格差を一段と拡大させる方向に働く」との見方を示した。

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