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ESG Weekly: 企業風土改革に「心理的安全性」、みずほや東芝が示す教訓

  • 心理的安全性は1999年に米国の学者が提唱、グーグルでも重視
  • 健全な企業風土、「リーダーの意思表示だけでは不十分」と専門家

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一連のシステム障害で経営トップが辞任すると発表したみずほフィナンシャルグループ(FG)、議決権行使を巡って株主に圧力をかけたとされた東芝、30年以上にわたる検査不正が明らかになった三菱電機。今年外部調査の結果が公表されたこれらの企業の組織風土をひもといていくと、社員が不安や恐怖を感じずに発言できる「心理的安全性」が軽んじられてきた側面が浮かび上がる。

Japan's Mega Banks Ahead of Half-year Results
みずほの看板
 

  「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」。金融庁は11月の行政処分で、過去に例を見ない書きぶりでみずほFGの企業風土を表した。企業統治(ガバナンス)の問題の原因を具体的に示し、組織の在り方にまで踏み込んだのは異例と言える。

  先立ってみずほFGの風土を詳しく分析していたのは、システム障害を調べていた第三者委員会が6月にまとめた報告書だ。米ハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱した心理的安全性に触れた上で、「失点を恐れて積極的・自発的な行動をとらない傾向を促進する企業風土が根底にある」と指摘した。

  心理的安全性は、社員が恐怖や不安を感じずに率直な意見を表明できる状態を指し、米グーグルが効果的なチームをつくる上で最も重視している要素としても知られる。

  産業組織心理学に詳しい早稲田大学商学部の村瀬俊朗准教授は、ガバナンスの課題が露呈したみずほFGや東芝、三菱電機について「いずれの企業も、問題が大きくなるまで社内から声が上がらなかった観点から考えると、心理的安全性が担保できていなかったと言うことができる」と分析する。

  みずほ銀行の藤原弘治頭取は11月の記者会見で、企業風土の改善に向けて社員にどう声を掛けていくかを問われ、人事について言及する場面があった。

  藤原頭取は「挑戦したものの失敗して人事的に処遇されないということがあるとすれば、それを見て萎縮してしまうこともあろうかと思う」と話し、社員が無意識に守りの姿勢を強めてしまったことの一因が人事にあるとの見方を示した。

  2011年の大規模システム障害の際も、金融庁から企業風土の課題を指摘されたみずほFGは、経営陣が率先して改革の旗を振ろうとしてきた。

  ただ、村瀬准教授は一般論として「リーダーが強い意思を示すだけでは不十分で、そのメッセージが社員に正しく解釈される必要がある」と話す。「例えば、倫理的に問題がある手段で売り上げを立てた社員が、おとがめもなく、ましてや人事的に優遇されることがあれば、社員の間では『結局、売れば官軍』と解釈されることになり、結果的に規律がゆがんでしまう」と説明する。

構造上の問題

  東芝や三菱電機でも、心理的安全性にまつわる課題がうかがえる。

  東芝の15年の不正会計問題は、経営陣が各部署に「チャレンジ」と呼ばれる達成困難な目標を押し付け、多額の不適切な会計処理につながった経緯がある。当時の第三者委員会は、同社に「上司の意向に逆らうことができない企業風土」があると断じ、経営トップが襟を正して「公正かつ透明性のある企業風土を醸成すべきである」と求めた。

  だが、東芝では今年、株主総会での議決権行使を巡って投資家に圧力をかけたとの疑いが外部調査で浮上し、再び経営トップの行動や姿勢が問題視された。同社のガバナンス強化委員会は11月の報告書で、組織のリーダーが自ら範を示す「トーン・アット・ザ・トップ」が欠落していた点を指摘した。

  その上で、経営陣は失敗を報告した社員を叱責(しっせき)するなどの行為を控え、社内で自由な意見が交わせる環境をつくるよう促した。

  三菱電機では、鉄道車両用の空調装置などで検査不正が長年続いていたことが6月に発覚。社外有識者らで構成する調査委員会が10月に公表した調査報告書によると、同委員会のヒアリングに対し、ある従業員は、問題のあった長崎製作所には「『言ったもん負け』の文化がある」と述べ、安心して声を上げられる職場環境ではなかったと訴えた。

  ガバナンスに関する問題が表面化すれば、経営陣のリーダーシップや企業風土に注目が集まりがちだが、日本総研の山田英司理事は「そこに問題がある、とだけ言って片付けてしまっては改善が望めない」と警鐘を鳴らす。

  山田氏は「ガバナンスが機能しなかったことの本質は、経営陣が管理部門や内部統制部門などを収益につながらない部門と認識し、十分な経営資源を投入してこなかったという構造上の問題にある。他の企業にとっても、こうした事案は教訓になり得るもので、人員配置などを含めた内部の仕組みを見直す契機とすべきだ」と話している。  

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