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パナソニック発のスタートアップ、介護食への思いで「ケア家電」開発

  • ギフモは19年創業、圧力鍋と隠し包丁技術の「デリソフター」を投入
  • 介護の苦労から解放できる仕組みを提供したい-森實社長

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鶏のから揚げを炊飯器のような機材に入れ、ボタンを押して待つこと約30分。ふたを開ければ、見た目と味は全く変わらないが、薄いポテトチップスで切ることができるほど柔らかく生まれ変わったから揚げの完成だ。

  パナソニック家電部門の社員が2019年に創業したスタートアップ「GIFMO(ギフモ)」(京都市)は昨年7月、圧力鍋と隠し包丁のように食材の繊維を切る独自開発器具を組み合わせた「デリソフター」を発売した。見た目や味を変えず、飲み込みやすさを追求した調理家電で、一般家庭や介護施設、病院、レストランで使われている。初年度の販売実績は500台。今年度以降は数倍ペースで増やし、早期黒字化を目指す。

Food Softner
デリソフター
Source: Bloomberg

  大阪府八尾市で特別養護老人ホームなどを運営する「Lifeつむぎ」で働く小山隆博さんは、せっかく調理した食事を包丁で刻む「きざみ食」をなくしたいという思いでデリソフターを導入した。調理が「ボタン一つで簡単」になっただけでなく、施設の利用者からは見た目の良さ、食欲増進などの声があり、「食事量も増えている」と話す。  

  16年にデリソフターの原案を考えたのは、パナソニックの調理家電工場で働いていた小川恵さん、水野時枝さんの2人の女性だ。小川さんは、嚥下(えんげ)障害を患った父親の食事作りに頭を悩めていた。市販食は1食1000円近くと高額で、飲み込みやすい食事を自ら時間をかけて作ったが、「こんな餌みたいなものを食べれらるか」と父親に拒絶され、介護を投げ出したい気持ちになったと当時を振り返る。

  一方、水野さんに介護の経験はないものの、116歳まで他の家族と同じ食事をしていた祖母の姿を見て、「家族全員で同じものを食べる幸せ」を感じていた。小川さんの話を聞き、自分たちが携わる家電で何か役立つことができるかもしれないとの思いが芽生え、製品化を決意したという。

見た目や味を変えずに、飲み込みやすさを追求した調理家電「デリソフター」。ブルームバーグの森来実が動画でリポート。
Source: Bloomberg

  2人は、家電事業を手掛けるパナソニックアプライアンス(AP)社(現くらし事業本部)が新規事業創出のためのコンテストを行うことを知り、材料を入れてボタンを押せば介護食ができる「万能鍋」の計画書を書き上げた。プレゼンテーションは経営幹部の心をつかみ、事業化への挑戦が認められた。

  同僚らの支援で技術面の課題も次々と克服。ただ、希望したパナソニック製品としての実用化は果たせず、パナソニックや米スクラムベンチャーズが出資する事業化支援企業「BeeEdge(ビーエッジ)」からの出資で新会社ギフモを設立し、発売にこぎ着けた。パナソニックAPの社員で、小川さんと水野さんの思いに賛同した森實将氏が社長に就き、2人も新会社に出向した。

Food Softner
ギフモの森實社長
Source: Bloomberg

  デリソフターの価格は当初10万円程度を想定していたが、パナソニックが中国で販売する圧力鍋を活用、販売も直販のみとし、4万7300円(税込み)に抑えた。「ベンチャーがゼロからこういうものを作ると、とても10万円では収まらないが、パナソニックの技術、コスト、安全性を全て使わせてもらった」と森實社長は言う。

  高齢者らの食の課題解決を図ろうと、「ケア家電」市場の開拓を目指すギフモではデリソフターに続く製品も構想中だ。森實社長は、パナソニックの創業者である松下幸之助氏の「婦人を家事労働から解放したい」という考えを引き合いに、「介護の苦労から解放できる仕組みをギフモから提供したい」と意気込む。

  厚生労働省の介護保険事業報告によると、今年8月末時点の介護保険の第1号被保険者数(65歳以上)は3586万人、要介護・要支援認定者数は687万1000人。10年前と比べそれぞれ20%、29%増えている。

65歳以上人口の推移と将来推計

2030年以降は予想値

令和3年版高齢社会白書/Bloomberg

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