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ソフトバンクG孫社長を悩ます報酬問題、不満でビジョンFの人材流出

  • 12月にビジョンFは社員への初の利益分配を実施する計画
  • マネジングパートナーやシニアマネジングパートナーら8人が退社
Deep Nishar, managing director of Softbank Group US Inc.

Deep Nishar, managing director of Softbank Group US Inc.

Photographer: Udit Kulshrestha/Bloomberg

ソフトバンクグループの孫正義社長は、テクノロジー関連の新興企業に投資する「ビジョン・ファンド」を立ち上げて以降、パートナーにどう報酬を支払うかで悩んできたが、今もその問題は解決されていないようだ。

  事情に詳しい複数の関係者によると、ソフトバンクGは12月にもビジョン・ファンドの社員に初の利益分配を準備している。だが、関係者らは少々変わった報酬方針のせいで、新興企業向け投資で腕利きの幹部らが相次いで離反していると話す。昨年3月以降、7人のマネジング・パートナーが退社し、唯一のシニア・マネジング・パートナーであるディープ・ニシャール氏も年内には去る

LinkedIn Corp. Vice President Deep Nishar Interview
ニシャール氏
Photographer: David Paul Morris/Bloomberg

  一番の問題は、世界最大のベンチャーファンドを巨大な日本の上場企業の内部に設立したことだ。孫氏の母国である日本で、会社員の給料はそれほど高くない。しかし、ビジョン・ファンドでは幹部に支払われる報酬は世界でも最高水準になる。利益の20%をパートナーに分配することが多いベンチャー・キャピタルの場合、報酬額は1人で数千万ドルにもなるが、一般株主も目を光らせるソフトバンクGのような企業でこうした報酬を導入すれば、大きな議論を呼ぶことになる。

  孫氏が計画する報酬は、主に年功序列によって利益が分配される仕組みだ。関係者らによると、食事宅配の米ドアダッシュのような成功例からウィーワークグリーンシル・キャピタルといった失敗例も含めた上で、バイスプレジデント級以上の幹部全員に分配の権利が与えられる。最大の報酬を得るのは人工知能(AI)の権威であるニシャール氏と、韓国の電子商取引大手クーパンを担当したパートナーのリディア・ジェット氏だとされる。

  総額1億-1億5000万ドル(約114億-171億円)が約70人に分配される可能性もあるが、これはトップクラスのベンチャーキャピタルには遠く及ばず、幹部の離反を止めるのに十分とは言えない。孫氏が一生に一度のゴールドラッシュと呼ぶ環境の下、インターネットやビッグデータの企業に1000億ドルの資金量で投資されていることを考えれば、彼らの報酬はそれほど高くはない。

DoorDash Path To $3 Billion IPO Dogged By Tense Restaurant Ties
ドアダッシュの宅配の様子
Photographer: Michael Nagle/Bloomberg

  ニュー・エンタープライズ・アソシエイツのベンチャー・パートナーを務めたベン・ナラシン氏は、「彼らが以前話していたことや達成への期待の高さを考えれば、やや平凡な印象」とみており、「報酬額は幹部には低く映るし、中間の役職ならちょうどいい。ジュニアだととんでもなく高い」と話した。同氏は最近独立し、自らファンドを立ち上げた。

  ビジョン・ファンドの運用に携わる社員の基本給は、ジュニアから幹部まで相応に高い。詳しい関係者によれば、中堅クラスで約50万ドル、経験ある社員だと70万ドル以上で、パートナーともなれば数百万ドルの幅で決められる。

  孫氏は現在、ソフトバンクGが全額出資する400億ドル規模の後継ファンド、ビジョン・ファンド2の報酬体系を見直しているが、事情に詳しい関係者は、社員の希望に沿った内容とは言えないと話す。利益を共有するような仕組みはなく、自分が担当した案件の評価だけで報酬が決まるため、幅広い協力にもつながりにくい。失敗してもペナルティーがない半面、報酬に上限があるため、案件をより多くこなすインセンティブになるという。

  さらに関係者の大きな不満は、ビジョン・ファンドのスタッフやソフトバンクGに利益が分配される前に、出資という形で最初の取り分を得ると孫氏が決めたことだ。孫氏は個人的にビジョン・ファンド2に投資し、最大17.25%の株を取得する計画だ。

  孫氏によれば、自身の資金を入れることは、将来他の人が共有する利益のための種まきだという。以前、孫氏は「私としてはぜひ、リスクをとりながら経営陣としてやっていきたい。こういう仕組みをソフトバンクGの経営の文化として残していきたい」と語っている。

  主要パートナーでドアダッシュに投資したジェフ・ハウゼンボールド氏は、ビジョン・ファンドを去ったうちの一人だ。退社について聞いたところ、彼はコメントを控えた。シカゴ大学にある起業家プログラムの共同創設者であるスティーブン・カプラン氏は、「企業にとって最も難しいのが報酬であり、適切に決めるのはとても難しい。十分でなければ優秀な人は辞めてしまう」と話す。

  ナラシン氏は、巨艦ファンドのパートナーでいるよりも、小規模ファンドを立ち上げる方が利幅は大きいと話す。同氏が運用する5000万ドルのファンドは、もしリターンが10倍なら1億5000万ドル近い利益を生み、取り分も大きいと指摘する。ハウゼンボールド氏はビジョン・ファンドを離れた後、自身でベンチャーキャピタルを立ち上げた。彼のファンドには、ソフトバンクGが1億ドルの投資を検討していると言われる。

  人材の流出とは逆にビジョン・ファンドは今、新興企業への投資を加速している。孫氏が今年、ゴーサインを出した案件は115以上に上り、ビジョン・ファンド2の投資先は、わずか9カ月で5倍に膨らんだ。同社のデータに基づいてブルームバーグが試算したところ、2017年の立ち上げ以降、ビジョン・ファンドが投資した企業の合計より数は多い。

  サンフランシスコで役員向けの報酬コンサルティングを営むコーダ・アドバイザーズのシニア・アドバイザー、ジェームズ・キム氏は17年当時と比較して「優良人材に対する価値はずっと高額になった。特に今年は、ベンチャーキャピタルに限らず、さまざまなファンドでそうした機会を目にする」と話す。

  だが、キム氏によると、ビジョン・ファンドは規模が大き過ぎるため、他のベンチャーキャピタルと同じ比率でパートナーが報酬を得ることは非現実的だ。

  役員報酬の額を比べれば、ソフトバンクGは日本企業の中でも引けを取らない。記録的な利益を計上した前期、同社のトップ8人の報酬額は合計で6400万ドル以上だった。アームの最高経営責任者(CEO)であるサイモン・シガース氏は1700万ドル、ビジョン・ファンド事業を統括するラジーブ・ミスラ副社長は840万ドルの報酬を得た。孫氏の90万ドルが一番低かった。

Key Speakers At The 2019 Milken Conference
ミスラ氏
Photographer: Patrick T. Fallon/Bloomberg

  もちろん孫氏の場合、ビジョン・ファンド2やラテンアメリカ・ファンドの株式から利益を得ることが可能だ。ただ、こうしたやり方は、個人の利益と会社の利益を混同しているとの批判を招いたことがある。株式やデリバティブへの投資目的でSBノーススターを立ち上げた時に、孫氏は個人で33%出資した。

  レデックス・リサーチのアナリスト、カーク・ブードリー氏は「社員や投資家が抱く反感を考えれば、これには本当に驚いた。自身の経験で正当化しようとしたが、それは既に彼の仕事に他ならない」と語った。

  ある関係者によれば、一流の人材が会社を去るという事態に直面しても、孫氏は頭脳流出の可能性を否定し、いつだって有能な人材は大手金融機関から採用できると話している。

  ナラシン氏は「結局は孫氏がすべてを決めている」と述べる。「ビジョン・ファンドはチームの質で勝っているのではなく、ほとんどが大金を懸けることで勝利を収めている。投資のオファーが若手の元バンカーなのか、ベテランのベンチャーキャピタリストなのかはどうでもいい」と話した。

 

原題:
SoftBank’s Son Can’t Pay Enough to Keep Vision Fund Talent Happy(抜粋)

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