中国が進める社会主義回帰への対応、企業と投資家の手探り続く
Bloomberg News-
ソフトバンクグループ、「より慎重を期す」-クラウレCOO
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改革時代の自由奔放な「資本主義」が異常だったとの指摘も

中国の大手インターネット企業はここ1年間、共産党の習近平総書記(国家主席)の指示で利益ではなく、「共同富裕」(共に豊かになる)戦略を追求するよう強いられてきた。
テクノロジー分野での相次ぐ締め付けで、事業で大成功を収めた企業の影響力は低下し、このセクターは一時1兆5000億ドル(約171兆円)もの時価総額を失った。党が最終的にアリババグループやテンセント・ホールディングス(騰訊)を国有化するとの見方はほとんどないが、政府と企業幹部、投資家の関係に根本的な変化が進行しつつあることは明白だ。
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)国際サイバー政策センターのシニアアナリスト、ファーガス・ライアン氏によると、中国当局は民間企業の日常業務管理には関心がないが、政府の産業政策に沿った企業経営が確実になされるよう取り組んでいる。
中国が米国のサプライヤーから切り離されることがないよう、テクノロジー各社は中核テクノロジーを支えるため価値あるデータを共有し、インターネット商取引からシフトするよう新たな圧力にさらされている。各社は「国有でも民間でもない新たなタイプの中国企業」に向かっており、「国家が効率的に管理するハイブリッド事業体になりつつある」とライアン氏は指摘する。

政府がテクノロジー企業の自律性を低下させる一つのやり方は、企業側に当局への「黄金株」の譲渡を増やすよう強いることだ。拒否権付き株式の保有を通じ、政府は企業方針の決定を大きくコントロールすることができる。
顕著な実例がある。政府系の3団体は4月、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)国内部門への出資で合意した。取得した株式はわずか1%だが、政府側は同部門に取締役1人を送り込み、バイトダンス側の事業・商品提供を拒否する意向を示すことができるようになった。
中国政府が異例の関与、バイトダンスの国内部門に取締役派遣-関係者
北京市政府が提案しているのは、配車サービス最大手、滴滴グローバルの株式取得だ。ブルームバーグは先に黄金株を含む投資構造に関する話し合いについて報道。滴滴の経営権を複数の国有企業に付与し得るこうした協議がまとまるかどうかは確かではない。
北京市政府、配車サービス滴滴を支配下に置くことも視野-関係者
こうした状況の変化にどのように対応すべきかを巡り、投資家は手探りを続けている。企業として最大級の対中投資を抱えるソフトバンクグループのマルセロ・クラウレ最高執行責任者(COO)は9月、「決して中国から離れることはない」とした上で、「より慎重を期す」と語った。

中国のテクノロジー投資を専門とするあるカナダ年金基金のファンドマネジャーによれば、同基金は今年、規制リスクを理由に中国ネット企業への全ての新規資金提供を凍結した。
一方、香港を本拠とするプライベートエクイティー(未公開株)投資家は、テクノロジーのスタートアップ企業との協議はまだ続けているが、投資の障害が非常に大きくなっており、ネット企業から距離を置くことを検討しているという。代わりに半導体やクラウドコンピューティングなどのセクターの企業への資金提供を増やしつつあることを明らかにした。政治的にデリーケートな問題だとして、いずれも匿名を条件に述べた。
作業幇と猿輔導といった教育テクノロジーのスタートアップは一時、飛ぶ鳥を落とす勢いの成長を遂げていたが厳しい規制の対象となり、出資しているタイガー・グローバル・マネジメントとIDGキャピタルはキャピタルゲイン確保への道筋が不確かになっている。タイガーの広報担当者はコメントを控え、IDGは返答しなかった。
習政権の締め付けがイノベーション(技術革新)を遅らせ、中国経済を弱めるとの懸念もある。中国ではデジタル事業が2020年の国内総生産(GDP)の3分の1余りを占めた。
ただ、テクノロジーに焦点を絞ったニューズレター「チャイニーズ・キャラクタリスティクス」の創設者で元ベンチャーキャピタリストのリリアン・リ氏はインターネット絡みで稼ぐ機会を制限することは、より基礎的なテクノロジー研究に国内有数の人材を向かわせ、習政権の重要な優先課題である米国サプライヤーへの依存を減らすことに寄与すると分析している。

習総書記は10月18日、インターネット企業の規制強化を続けながら、半導体や人工知能(AI)のような戦略的に重要なテクノロジーに投資する方針を党の会議で表明した。ただ、習政権が来年の党大会に先立ち政策を緩める兆しもある。5年に1度開かれる党大会では習総書記がこれまでの慣行を破り、3期目に就くと見込まれている。
EMリヨン経営大学院の上海キャンパス講師で上海のコンサルティング会社チャイナ・クロスローズの創業者、フランク・ツァイ氏は、影響力のある民間テクノロジー企業に対して中国当局が敵意を募らせていることは恐らく意外ではないと説明。
自由市場と緩い監督を利用し一定水準の繁栄を達成した中国だが、そうした繁栄を管理する在り方を統制していくという信念は一貫しているとし、「社会主義の方向に向かう今の動きは異常ではない。改革時代の自由奔放な『資本主義』が異常だったのだ」との見方を示している。
原題:Chinese Tech Industry Adjusts to Its New Beijing-First Reality(抜粋)