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供給制限で車と鉄の力関係変化か-日鉄トヨタ提訴、もろ刃の剣の声も

  • 「誰にでもけんか」、脱炭素資金必要な日鉄は特許侵害阻止へ-識者
  • 「トヨタを失った日鉄は確実に死ぬ」、裁判長期化で取引減リスクも

国内最大の鉄鋼メーカー、日本製鉄がトヨタ自動車を特許侵害で訴えるという強硬手段に打って出たことを受け、市場では日鉄から見れば自動車メーカー側が強すぎた従来の力関係変化の兆しとして前向きに捉える向きがある一方、法廷闘争の長期化で世界最大の自動車メーカーで重要顧客であるトヨタとの取引を失うリスクを指摘する声も上がっている。

Vehicle Shipment at Yokohama Port Ahead of Auto Companies Earnings
横浜港で船積みを待つトヨタ車(2020年10月31日)
Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  ジェフリーズ証券のアナリスト、ファム・タアインハ氏は、今回の訴訟は「トヨタに対してけんかを売るということは、誰に対しても売るということ」を意味していると分析。ハイブリッド車や電気自動車(EV)モーター向け需要で電磁鋼板市場が大きく拡大することが期待される中、自動車メーカーが自社の特許権を侵害した製品を採用するのを抑止する狙いがあるとの見方を示した。

  トヨタの提訴に踏み切った背景には日鉄が持つ大きな危機感がある。世界的な脱炭素の潮流が加速する中、二酸化炭素(CO2)排出の多い鉄鋼業界では低炭素技術の開発に莫大(ばくだい)な資金が必要になる。

  日鉄だけでも研究開発に約5000億円、設備の実装に4-5兆円の投資が求められる見通しだ。同社は昨年には新型コロナウイルスの感染拡大を受けた減産対応で国内の高炉のうち、6基を一時停止し、リストラにも踏み切った。

  そういった背景から鉄鋼業界には「長期的にお金が必要なので、今稼がないといけないという危機感がある」とタアインハ氏は指摘する。

  日鉄が先週、電磁鋼板の特許権侵害を理由に中国の宝山鋼鉄とトヨタを提訴したと発表したことを受け、トヨタの長田准執行役員は自社も訴えられたことに「本当に正直びっくり、驚いている」と記者団に語った。

  脱炭素の流れの中で鉄鋼業界の生産能力の増強は進まず、供給が世界的に減少していく見通しのため、タアインハ氏は「良い商品を継続的に調達したいなら自動車会社だけがいい思いをするのではなく、フェアな取り分を素材メーカーにもよこせ」と言える環境になりつつあるという。

早期の和解を

  立花証券の入沢健アナリストは、今回の訴訟で将来の重要な収益源を守るという「日鉄の強い覚悟」に加え、鋼材価格交渉がこじれたことによるトヨタと日鉄の間の「亀裂の深さを感じた」と語る。

  日鉄の橋本英二社長は5月、国際的にみて「理不尽な価格」が是正されなければ安定供給に責任を持てなくなると強調。日鉄はその後のトヨタとの価格交渉で、値上げを受け入れなければ供給制限も辞さない姿勢を示したと報じられている。トヨタの熊倉和生調達本部長は14日、記者団に日鉄との直近の価格交渉は一定の値上げで合意したことを明らかにした。

  日鉄は今回、トヨタに対して対象となった鋼板を使用したモーターを搭載した電動車の製造・販売の禁止を求める仮処分も申し立てた。ジェフリーズ証券のタアインハ氏は、「今まで自動車会社は素材メーカーをばかにして、取りあえず安く出せという感じだったが、その力関係は変わったのではないか」と話す。

  自動車用鋼材の共同開発などでも協力関係にあるトヨタに強硬な姿勢を取ったことは、日鉄にとってはもろ刃の剣にもなりうる。

  入沢氏は、お互い関係を断ち切るところまで事態が悪化する可能性は低いとした上で、もし仮にそうなったら「日鉄を失ったトヨタというのは瀕死(ひんし)になるだろうし、トヨタを失った日鉄は確実に死ぬ」と指摘。訴訟が長期化している間に競合他社にトヨタとの取引でのシェアを奪われるリスクもあり、「早期に交渉して和解するのが一番いい」との見方を示した。

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