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【コラム】ウォール街の昇給、若手の心はつかめず-アシュワース

投資銀行による若手アナリストの給料引き上げ競争にドイツ銀行も加わった。1万ドル(約110万円)の昇給は確かに魅力的に聞こえる。残念ながらそれは、短期的な報酬を重視する人にしかアピールしない。そういう人はいずれにせよ長続きはしない。各行が人材を引きつけ、つなぎ止めておくためには違うレベルで勝負しなくてはならないだろう。それは金銭面に限った話ではない。

  投資銀行業界では長らく、「勤勉に勝るものなし」と言われてきた。しかし最初の数年間は過酷とも言えるものだ。投資銀行で基本レベルを習得するまでにどれほどの苦労が必要か、それを示す数字も出てきた。JPモルガン・チェースの資産運用・ウェルスマネジメント部門の責任者、メアリー・アードーズ氏によると、エリートレベルに到達するには1万時間、つまり週72時間の勤務を3年間続ける必要がある。

  これは、投資銀行が求める人材を引きつけるものではない。英保険会社アビバが7月16日に発表したメンタルへルスに関する調査では、16-24歳の年齢層は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による影響を最も受けただけでなく、雇用状態にある人の47%がキャリア志向を失っていることも分かった。経営学修士(MBA)や証券アナリスト資格(CFA)、またはその両方の取得に向け、より多くの時間とお金を費やすという選択肢も彼らにはない。大学生たちは、本当の活躍の場がもはやディーリングルームではなく、新興企業や大手ハイテク企業にあることを知っている。長時間勤務は同じかもしれないが、柔軟性もあり、莫大(ばくだい)な財産への近道かもしれず、宇宙にさえ行けるかもしれない。

  ウォール街でのキャリアはかつてと同じではない。各行は今や、プライベート・エクイティ(PE、未公開株)投資会社やコンサルティング会社、その他の専門的サービス企業との人材獲得競争を強いられている。アポロ・グローバル・マネジメントは一部アソシエートの慰留に10万-20万ドルのボーナスを提示している。また、STEM(科学・技術・工学・数学)の分野を学んだ新卒者を誰もが求める中、銀行はPEだけでなく、テクノロジー企業やベンチャーキャピタルが出資する新興企業とも競争している。

  CBIインサイツのデータによると、今年の新興企業向けの資金調達額は現時点で約3000億ドルに上り、すでに2020年通年に匹敵する規模となっている。今年上期には、企業価値10億ドル以上のユニコーンが249社誕生した。ウォール街が注目すべきは、そこにはフィンテック企業もあることだ。英国を本拠とするオンライン決済会社リボリュートは、7月中旬に実施した資金調達で企業価値330億ドルの評価を得た。

  デジタルバンキングという新たな世界は、違う方法で人材を引きつけようとしている。オンライン決済サービス会社の米ストライプは、企業価値950億ドルの評価を受けたことが話題になったが、働き方改革にもさりげなく成功している。共同創業者のジョン・コリソン社長によれば、コストの高い都市部を離れて在宅勤務という選択肢を従業員に提示したところ、「かなり大きな反響」があったという。この選択肢を受け入れる従業員は2万ドルの一時ボーナスを得られるが、基本給の1万ドル減額にも同意しなくてはならない。仕事に関係する燃え尽き症候群は、オフィス復帰だけで解決できるものではない。

  人材は他の場所に流れている。伝統的な投資銀行は、給料を引き上げるだけでは若手を取り戻せない。キャリアのあり方自体を見直すべき時期が訪れている。

(マーカス・アシュワース氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Wall Street Bonuses Won’t Win Over Young Talent: Marcus Ashworth(抜粋)

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