コンテンツにスキップする

南スーダン選手、第二のふるさと発見-東京五輪1年遅れで長期合宿

  • 五輪延期前に来日の選手団、前橋での事前合宿は1年8カ月に及ぶ
  • 来日後に受けた支援と愛情に本当に感謝-ルシア・モリス選手

アフリカ東部、南スーダンの陸上選手団はここ1年8カ月、東京五輪に向けて前橋市でトレーニングを積んできた。

  新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で大会延期が昨年決まる前に来日した選手らは、当初は半年の滞在予定だったが、伝統的な絹産業で有名な前橋市が今では第二のふるさとになっている。2011年に独立したものの、その後10年の大部分が内戦状態となった南スーダンにとって初の五輪メダル獲得を目指す。

South Sudan Athletes

前橋市でトレーニングする女子100メートルのルシア・モリス選手と400メートルハードルのアクーン・アクーン選手(7月6日)

Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  選手らの事前合宿を受け入れた人口33万4000人の前橋市は選手の滞在費調達も支援した。選手団は週末や祝日には市民とダンスパーティーで交流し、学校や大学などで講演。テロに対する意識向上を図る地元警察署にも協力した。世界的な新型コロナ感染流行の中での五輪開催を巡る議論が高まる中でも、南スーダン選手団とホストタウンとの関係は肯定的な評価と親善を生み出している。

  内戦で兄弟を亡くしたという男子1500メートル出場予定のアブラハム・グエム選手は、「われわれはお互いに、良いことも悪いことも多くを学ぶことができるだろう」と述べ、「良いと感じたことは母国に持ち帰って人々に教える。悪いと感じたものは、五輪の選手村を去るときに置いていく」と語った。

  選手団の受け入れコストは前橋市にとって安くはない。当初は約2000万円の予算を組んだが、大会延期で滞在費は3000万円に膨らんだ。費用の大部分はふるさと納税の寄付で調達。クラウドファンディング型ふるさと納税では、日本中の納税者が前橋産の高級イチゴやモモ、豚肉、ソウルフードの「焼きまんじゅう」などを購入して支援した。女子100メートルに出場予定のルシア・モリス選手は「来日してから受けた支援と愛情、親切に本当に感謝している」と話している。

South Sudan Athletes

前橋市

Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  企業も選手団を相次ぎ支援した。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは選手団に衣類を、ミズノはシューズなどを提供。ヤクルト本社は野菜ジュースやヨーグルトを寄付し、コカ・コーラボトラーズジャパンは市内の十数カ所に選手を応援する自動販売機を設置。130万円の支援金を集めた。

  選手団の典型的な1日は、午前が日本語とパソコンのレッスンで、午後は陸上トレーニング。食事は市役所地下のカフェテリアに集まって取る。メニューは鶏の唐揚げとパスタ、ゆで野菜に米飯といったもので、温かいみそ汁がほぼ毎食つく。みそ汁は箸を使わずスプーンで飲むが、彼らには欠かせない定番メニューになっているという。

South Sudan Athletes

前橋市役所のカフェテリアで昼食を取る選手

Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  前橋市職員の手配で選手団は書道や琴などの体験をしたり、山間部でトレーニングしたりするなど忙しく過ごしている。自転車に乗ることも学び、市内での主な交通手段としている。日本語学習は週に5日間だったが、将来的に使用頻度が限られるという選手の声を受け、主催者側は選手のスケジュールにパソコン授業を増やしたという。

  前橋市役所文化スポーツ観光部の萩原真一課長補佐はインタビューで、「市民の方にスポーツを通じた平和の促進、平和についてもあらためて考えてもらえるような活動の一環として、選手たちに各イベントに参加していただいている」と話す。

South Sudan Athletes

練習中休憩するグエム選手

Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  グエム選手の兄弟はアフリカ現代史で最悪の紛争の1つとされる南スーダンの内戦で犠牲になった推定40万人の1人。キリスト教徒が大多数を占める南スーダンは11年に米政府の支援を受け、イスラム教徒中心のスーダンからの独立を勝ち取ったが、その後内部抗争が発生しすぐに激しい争いとなり、人口の約5%が民族浄化と食糧不足の犠牲になった。

  こうした流血の惨事を受けて支援の取り組みが広がっており、日本からは、自国に安心して練習できるスポーツ施設がない南スーダン選手のトレーニング費用を支援するという異例のオファーが出された。前橋での事前合宿を仲介した国際協力機構(JICA)は選手の五輪派遣を通じ、母国で反目し合う派閥が結束することを後押ししたい考えだ。

  グエム選手は「自分よりタイムがはるかに良い手ごわい選手と対戦することになるため、どういう展開になるかは分からないが、母国のために一生懸命戦い、少なくとも決勝に進出する必要がある」と意気込みを語った。 

原題:Stranded Olympians From South Sudan Find Unexpected Haven in Japan(抜粋)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE