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五輪会場となる東京湾の水質問題、悪臭への不安残るまま本番入りか

  • お台場海浜公園ではトライアスロンなど3競技が行われる予定
  • 対策で開催支障ないと都・組織委、専門家は大腸菌流入の可能性指摘

東京五輪開幕を目前に控え、開催地の東京都を悩ませているのは新型コロナウイルスの感染拡大や暑さ対策だけではない。トライアスロンなどの会場となる東京湾の水質問題もその一つだ。諸対策にもかかわらず専門家らは効果を疑問視しており、悪臭への不安が残るまま競技本番を迎えることになりそうだ。

  立ち並ぶ高層ビル群とレインボーブリッジに囲まれたお台場エリア。東京湾に面するお台場海浜公園では、五輪・パラリンピックの3競技が予定されている。東京五輪・パラリンピック委員会は、この場所の選定に当たっては国際競技団体からも強い要望があり、未来的景観が融合した東京を象徴する場所ということで決定したと説明している。

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お台場海浜公園で開催されたプレ大会に参加した選手(2019年)

  しかし、大会前に浮上したのが、悪臭を伴う周辺水域の水質問題だ。2019年8月に同会場で開催されたパラリンピックのトライアスロン・テスト大会では、協会が定める基準の2倍以上の大腸菌が検出され、水泳部門は急きょ中止となった。参加した選手の一人はトイレのような臭いだったとコメントしたと、朝日新聞などが報じた

日程競技距離
7月26、27、31日五輪トライアスロン

個人

水泳(スイム)1.5km
自転車(バイク)40km
ランニング(ラン)10km

混合リレー

水泳(スイム)1人当たり300m
自転車(バイク)同6.8km
ランニング(ラン)同2km

8月4、5日五輪マラソンスイミング10km
8月28、29日パラリンピック・トライアスロン水泳(スイム)750m
自転車(バイク)20km
ランニング(ラン)5km

スクリーン設置

  汚名返上を狙う東京都は、水質改善に向けさまざまな対策を講じてきた。まずは大腸菌の流入を抑制するため、会場を囲む水域に3重の上下式スクリーンを設置。18年7月から8月にかけての実験の結果、3重スクリーン内では、大腸菌類が基準の範囲内となったという。

  都のオリンピック・パラリンピック準備局計画推進部競技・渉外担当課長の矢嶋浩一氏は、スクリーンで水質は担保されており、大雨が降らない限り、開催に問題はないとの見解を示している。

  しかし、専門家からはスクリーンの効果に対し疑問の声が上がる。元東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授の鯉渕幸生氏は、実践された設置方法では大腸菌の流入はあまり減らないと指摘する。会場周辺は、潮の干満により水位が変動する「河川感潮域」にあり、圧力差によって「川の水はスクリーンの下を流れる」と説明。大腸菌は微細で水と共に会場内へ流入するという。

Tokyo Struggles to Clean Up Its Bay for Olympic Swimmers

トライアスロンとマラソンスイムの会場を囲む水域に設置された3重の上下式スクリーン

  港区議会議員で、東京湾の水質問題に15年以上取り組んできた榎本茂氏は、大腸菌より強いウイルスや細菌が流入する可能性があると懸念を示す。大腸菌は比較的弱い「指標菌」であるとした上で、大腸菌が生存しているような環境では、赤痢菌やチフス、コロナなどより強力な細菌類が残っている可能性があると述べた。

  約1億2000万円をかけた「覆砂」も実施した。東京都港湾局は20年6月上旬までに、神津島から運搬した約2万2200立方メートルの砂を会場周辺の海中に投入した。約170km南方に位置する神津島から運搬した良質な砂をまくことで、水生生物の住みやすい環境を創出し水環境の改善を図ったと、港湾整備部環境対策担当課長の樋口友行氏はプロジェクトの狙いを説明した。

Avoiding the smell

良質な砂を会場周辺の海中に投入

  樋口氏は砂投入の効果について、水質が目に見えて浄化されていないものの、「ゴカイやスピオと呼ばれる小さな生物がかなり増えた」ことを確認したと述べ、長期的なメリットがあると評価した。一方で、海底に堆積するヘドロを除去しなかった問題点を榎本氏は指摘。水圧が減少する干潮時に海底のヘドロ層からメタンガスが湧くため、悪臭の原因は取り除かれていないと述べた。

古い水道インフラ

  東京湾の水質問題の根底にあるのは、汚水と雨水を一つの下水道管に流す「合流式下水道」のシステムだ。東京23区の約8割では合流式下水道を整備しており、下水の全量を水再生センターに集め処理した上で河川や海に流す。ただ、強い雨が降った日には、市街地を浸水から守るため、処理場を介さず汚水混じりの雨水を河川や海などに直接放流している。

  1世紀以上前に整備された古いインフラが、東京の人口急増により処理容量をオーバーしているのが現状だ。汚水と雨水を分けて処理する新たな「分流式下水道」の導入が望ましいが、少なくとも10兆円以上の財源と、100年以上の工期を要する。東京都下水道局計画調整部計画課・水質改善事業推進専門課長の菅野建城氏は、分流化は非現実的だと試算の結果を示した。

  下水道局は代案として、降雨初期の特に汚れた下水を貯留する施設などを整備。未処理の下水を海などに放流する回数は年間56回から14回まで減少したという。しかし、集中豪雨や台風が増える夏季は特に、未処理汚水の放流による水質悪化の懸念が残る。

Shibaura Water Reclamation Center

下水処理施設の芝浦水再生センター(手前)、奥は東京湾

  組織委はこれまでの調査結果に基づき晴天時の水質は問題ないとしながらも、大会当日の対応については水質や水温の状況を国際競技連盟(IF)と調整し、アスリートが安全に競技できるかどうかを判断して決定するとしている。

  東京都などに緊急事態宣言が発令されたことを受け、首都圏1都3県の会場では、五輪競技が無観客で開催されることが決まった。お台場海浜公園の会場でも最大5500人の観客を収容する予定だった。

  「東京湾は決してきれいとは言えないが、選手はもっと汚いところでいっぱい泳いでいる」。会場周辺で泳いだ経験もあるトライアスロン歴30年以上という都議会議員、白戸太朗氏は、そうした不安を一蹴する。最近は都市型のトライアスロンが多く、都市ではきれいなところはあまりないとした上で、東京湾について「レースになれば何でもない」と強調した。

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