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アジアの自動車メーカー、米国でLGBTQの権利擁護に本腰

  • 韓国の現代自、差別が根強い本国では多様性の対応に消極的との指摘
  • トヨタ、日産などアジアのメーカー各社に母国でも変化の兆し

韓国の現代自動車は何年にもわたり、米国の性的少数者(LGBTQ)社会に訴求しようと努めてきた。同社は今年4月、ドラァグクイーン(女装してパフォーマンスする男性)や男性同士のカップルなどが登場する60秒のコマーシャル「私が選んだ家族」を公開した。同性愛者が所有するプロダクションが制作した。

  現代自は、性的少数者を巡りメディアのモニターなどを行っている米国の団体、GLAADが毎年主催するメディア賞のスポンサーを以前から務めている。同社はまた、LGBTQの平等性を確保する方針について各社の具体的措置の実施状況を測るヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)財団の企業平等指数(CEI)で、今年も満点を獲得した。

  現代自の米国部門のアンジェラ・ゼペダ最高マーケティング責任者(CMO)は4月の発表資料で、「LGBTQの権利のために日々闘う組織との連携を誇らしく思う」とコメントした。  

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現代自動車のCM

  しかし、同性愛者や心と体の性が異なるトランスジェンダーの人々への差別が根強い現代自の本国、韓国では、同社がダイバーシティー(多様性)への率直な支援や援助を差し伸べる兆候はほとんど見られない。

  韓国の男性同性愛者人権団体、チングサイのゼネラルディレクター、イ・ドンゴル氏は、現代自は本国ではこうした闘いには加わらないと指摘。「現代自がLGBTQ社会を認めて協力することを信じるなら、母国でも同じ行動に出るだろうと考えられるが、彼らはそれが何の助けにもならないと分かっている」と話した。

  LGBTQの社員に関する方針の質問に現代自の広報担当者は、法律で義務付けられた通り、全従業員に同じ福利厚生・機会が保証されていると返答した。ただ韓国では同性同士の結婚やパートナーシップは認められていない。

  米国ではLGBTQの権利などへの支持を示すさまざまなイベントが行われる6月の「プライド月間」で、多くの企業が多様性や平等性への自社の取り組みを訴えている。これは賢明な経営判断だ。コンサルティング会社カーニーの2019年のリポートによると、LGBTQ消費者の可処分所得は1兆ドル(約110兆円)と、米国全体の約8%を占める。

U.S. Corporate Equality Index for LGBTQ Workers

Data: Human Rights Campaign

  米国で消費者としてのLGBTQからの支持獲得と、もっと包摂的な職場づくりに熱心に取り組んでいるアジアの自動車メーカーは現代自だけではない。トヨタ自動車スバルの米国部門もHRC財団のCEI指数で満点だった。米フォード・モーターとゼネラル・モーターズ(GM)は満点には達していない。

  トヨタは若いLGBTQの自殺防止に取り組む組織、トレバープロジェクトを支援している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の初期の数カ月に、北米統括会社トヨタ・モーター・ノース・アメリカ(TMNA)は同性愛者やトランスジェンダーの複数の組織に計30万ドル余りを寄付。こうしたコミュニティーの人々はとりわけリスクにさらされやすいとの認識を示した。

  日産自動車はボルティモアとデンバー、ニューヨーク、サンフランシスコ、ワシントンの「プライド月間」のスポンサーになっている。

  スキッドモア大学(ニューヨーク州)のマサミ・タマガワ教授は、「LGBTQ+の消費者へのマーケティングやLGBTQ+の従業員への支援に当たって、海外の日本企業は日本のルールではなく、地元のルールに従おうとしている」とし、日本語の表現で要約すれば「郷に入っては郷に従え」ということだと述べた。

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トヨタのトラックに乗りプライドフラッグを振る子供たち(2019年)

  だが韓国での現代自と同様、日本の自動車メーカーも母国では平等に関する問題にそれほど協力的ではないと、日本初のLGBTQセンター、プライドハウス東京の松中権代表は語る。「LGBTQに対する認識、権利促進で言うと、日本の自動車メーカーは社外でほぼ何もしていない。米国の指標であれだけ良い点数を取っているのに、お膝元の日本ではあまり何もできていない」と指摘した。

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マイアミビーチのプライドフェスティバルでのスバル車

  今のところ、アジアの自動車メーカーのLGBTQの従業員は、米国の同僚が得ているほどの支援を受けることができずにいる。とはいえ、緩慢ではあるが進展の兆しもある。

  02年に米国で同性カップルの従業員のパートナーにも福利厚生を導入したトヨタは昨年、日本で同様のポリシーを実施。ホンダも同様の対策を講じた。日産は20年の「サステナビリティレポート」で、全ての従業員が相互の人権を尊重し、人種、国籍や性自認、性的指向などの理由による「差別やいやがらせを行うこと、その状態を容認することを認めない旨を規定している」と説明した。

  トヨタは昨年、日本の従業員向けにLGBTQのアライ(理解・支援する人)登録ネットワークを立ち上げた。従業員はこのネットワークでLGBTQの同僚へのサポートを登録できる。 同社の広報担当者は、LGBTQの個人を正しく理解し、受け入れることができる職場づくりを目指していると説明した。

  これら企業は日本や韓国の政府から多くの援助を得ていない。日本のLGBTQへの理解促進に向けた法案は保守派の抵抗で国会提出が見送られた。韓国の文在寅大統領はLGBTQの人々の平等の権利を守るための提案を積極的に支持していない。

LGBT理解増進法案棚上げ、「多様性」掲げる東京五輪直前

  それでも国民の支持が高まるにつれて、企業は平等を目指す取り組みがより進めやすくなることに気付く可能性が高い。昨年のピュー・リサーチ・センターの調査によると、18-29歳の韓国人の79%が同性愛が社会に受け入れられるべきだと答えたのに対し、50歳以上で同じ回答をしたのはわずか23%。日本では若者の92%が受け入れを支持し、50歳以上でも56%が受け入れを肯定した。

  プライドハウス東京の松中氏は、職場でのLGBTQ施策への取り組みを評価する「PRIDE指標」のリストに掲載されたいと考える自動車メーカーが増えていることを耳にしていると話す。これらはますます海外市場に頼る必要があるグローバル産業であり、それがある程度の変化をもたらしていると同氏は語った。

原題:
Asian Automakers Care About LGBTQ Rights -- in the U.S., That Is(抜粋)

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウイーク」誌に掲載)
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