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Photographer: Guillaume Payen/LightRocket
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任天堂中興の祖からバトン受けた28歳、創業家資産で技術革新支援

更新日時
  • 山内家ファミリーオフィス代表の山内万丈氏がインタビューで語る
  • 日本が失った挑戦する機運を取り戻すようなプロジェクトに意欲

富裕層が資産運用のために設立するファミリーオフィス。世界に数あれど、その極めて私的な性質から外部に向けた発信をするケースは少ない。だが、任天堂創業家の「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス」のウェブサイトはこうしたイメージを覆す。

  ページをクリックすると鳴る電子音。1980年代に子供たちが夢中で遊んだ任天堂ソフト「スーパーマリオブラザーズ」などをほうふつとさせる粗いドット絵が流れるさまは、まるで時代をさかのぼってゲームをプレーしているようだ。創業家出身で同オフィス代表の山内万丈氏(28)は、デザインに込めた思いを「いい意味でユーザーを裏切るニンテンドー・ウェイを試したかった」と振り返る。

  同オフィスは、任天堂の故山内溥元社長の遺産運用などを目的に2020年に設立された。現在は元シュローダー・インベストメント・マネジメント幹部の市村吉也氏や元ゴールドマン・サックス証券アナリストの杉山賢氏ら約10人が主要メンバーとして運営に携わる。運用資金の総額について万丈氏はコメントを控えたが、複数の関係者によると1000億円超に上るという。

  溥氏は京都市内で花札製造会社としてスタートした任天堂を、世界的ゲーム機メーカーに押し上げた「中興の祖」として知られる。1949年に3代目社長に就任し、米大リーグ、シアトルマリナーズへの出資でも話題になった。2002年に社長を退任し、13年に85歳で死去した。

  万丈氏は溥氏の養子で、血縁的には孫に当たる。18歳までを任天堂の本社がある京都で過ごし、大学入学を機に上京。卒業後は博報堂に勤めたが、19年に退社し、一族の支援を得てファミリーオフィスを立ち上げた。いとこや兄弟を差し置いて自分が養子となり、21歳で巨額の遺産を相続した意味を考える中で「山内家の理念を実践し、次代へ引き継いでいく組織を作ろうと思った」と説明する。

  ゲームがことさら好きだったわけでもなく、溥氏の経営哲学も「正直、よく知らなかった」という万丈氏。ファミリーオフィス設立に当たり、溥氏の元部下らに話を聞くなどして理解を深めたという。「独創性や先見性、ユーザー思考」に根差した溥氏の経営哲学は、同オフィスを運営する上でも大切な価値観だと感じた。

  13年の適時開示資料によると、溥氏が当時保有していた任天堂株式は全体の10%に当たる1416万5000株で、万丈氏と実父で元任天堂企画部長の克仁氏の息子2人が3.03%、娘2人が1.97%ずつを相続。当時の株価で計算すると、息子が相続した株式の価値はそれぞれ約590億円、娘はそれぞれ約390億円だった。相続税対策もあり一族は14年に一部を売却、任天堂が1142億円の自社株買いで引き受けた。

  万丈氏によると、山内家は今も任天堂の株式を保有している。保有割合についてはコメントを控えた。万丈氏らが相続を受けた当時と比べ、株価は約5倍に上昇している。

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任天堂のロゴ

No.10の謎

  ファミリーオフィスは当局の監視が厳しくないこともあり、海外で近年急増している。コンサルティング会社EYの21年のリポートによると、全世界で単一家族にサービスを提供するファミリーオフィスは少なくとも1万社に上る。

  万丈氏はファミリーオフィスの存在感をもっと高めたいと考えている。「日本では創業家は事業を継ぐか売却するかの2つの選択肢しかないと思われている。資産を活用し、イノベーションを支援する新たな選択肢があることを示したい」と述べた。

  運用方針については、利益を追い求めて資産を2倍、3倍と増やすことを目指しているわけではないと説明。その上で「利益を社会に還元していきたい。単純にベンチャーの新事業に投資するというよりは、今の日本が失ってしまった挑戦する機運を取り戻すようなプロジェクトを仕掛けていく」と意欲を語った。

  個別の投資戦略についてはコメントを控えた。1月にジャパンシステムの経営陣による買収(MBO)への資金支援を表明したり、5月に資産管理アプリのマネーツリーの第三者割当増資に応じたりするなど、その一端は明らかになっている。

  カリスマとして知られる溥氏だが、万丈氏にとっては少し怖いオーラはあるものの、優しい祖父だったという。経営者として忙しい日々を送りながらも、毎年正月には玩具店のトイザらスに連れて行っておもちゃを買ってくれた。商品は自由に選べたが、子供心に「セガやソニーのゲーム機を買ってとは言えなかった」と振り返る。

  同オフィスとして初めてとなる今回のインタビューでは、謎を幾つか残しておきたいという意図が見えた。名前の由来もその一つ。なぜ「ナンバーテン」なのかを尋ねると、万丈氏は「秘密です。想像してもらって、俗説のようにしておきたいから」とニヤリと笑った。こうした遊び心も、山内家のDNAなのかもしれない。  

(見出しを差し替え、8段落目に株価動向を追加します)
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