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高炉存続の危機、50年までに大半が閉鎖も-脱炭素に揺れる鉄鋼業界

  • 鉄くずからのリサイクル鉄で国内生産を担うー三菱総研理事長
  • 国内での水素製鉄は国際競争上不利ー培った技術は豪州で活用を

世界各国が温室効果ガスの排出実質ゼロの目標達成時期として掲げる2050年までに、製鉄所の象徴的存在である高炉が国内でほぼすべて閉鎖され、環境負荷の低い電炉に生産が置き換わるとの見方が浮上している。

Inside Nippon Steel & Sumitomo Metal Plant As US and Japan To Intensify Bilateral Trade Talks Amid Tariffs

日本製鉄の東日本製鉄所鹿島地区(茨城県鹿島市、18年4月)

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  国内では鉄鉱石と石炭を原料に高炉を使って鉄を生産するのが主流で、粗鋼生産の約4分の3を占める。三菱総合研究所の小宮山宏理事長はインタビューで、現在国内に24基ある高炉は「2050年ごろにはほとんどなくなるだろう」との見方を示した。

  ビルや橋、自動車など既存のものに使われている鉄が資源として蓄積されており、今後発生する鉄くずを電炉を使ってリサイクルすることで国内の鉄需要を賄うことができるとしている。

排出量が多い鉄鋼業

国内のCO2部門別排出量(2019年度)

出所:国立環境研究所

  鉄鋼業の二酸化炭素(CO2)排出量は日本全体の14%を占め、製造業の中で最も多い。鉄くずを溶かして再生する電炉は製造時のCO2排出量が高炉の4分の1にとどまるため、生産を電炉に置き換えていくことで排出削減につながる。

  電炉材の用途は建築材料など汎用(はんよう)品に多く、自動車向けなど高級鋼の材料開発が課題となっているが、小宮山氏は「技術的な問題はいずれ解決し、本質的な問題ではない」と分析している。

  政府は4月22日、30年度に向けた温室効果ガス排出削減の従来目標を引き上げ13年度比で46%減にすることを決定。昨年10月には50年までに排出量を実質ゼロにする目標を掲げており、世界各国で気候変動に対する野心的な目標が相次いで打ち出される中で日本も対応を迫られている。

電炉でも脱炭素の取り組み

  電炉業界では、使用する電力を再生可能エネルギー由来の電力に切り替えるなど脱炭素への取り組みがすでに始まっている。電炉はこれまで電気料金が安い夜間を中心に操業していたが、太陽光発電で電力が余剰になる昼間に生産をシフトする動きもでてきている。

  電炉最大手の東京製鉄によると、同社では今年度から北九州市の工場で、天候や電力需給に合わせて操業日を設定する仕組みを取り入れたという。

Mitsubishi Research Institute Chairman Hiroshi Komiyama

三菱総合研究所・小宮山理事長

Source: Mitsubishi Research Institute, Inc.

  電炉に加えて切り札となりそうなのが、石炭の代わりに水素を使う水素還元製鉄技術の開発だ。高炉では石炭を蒸し焼きにしたコークスを熱源としているほか、鉄鉱石から酸素を取り除くための還元材としても利用している。その反応過程で酸素とコークスの炭素が結びつきCO2が発生する。そのために鉄鋼業界が製造業で最も多くCO2を排出している。

  炭素の代わりに水素を還元材として利用すれば、水素と酸素が結びついて作られるのは水であることから、CO2の排出を抑制することができるというのが水素還元製鉄の技術だ。

  小宮山氏は、日本の水素還元製鉄の技術力を評価する一方で、国内では水素や電気代などのコストが非常に高く、世界的に見て競争上不利だと分析する。

  鉄鉱石に加え、コスト競争力のある太陽光発電からの電力を使ってクリーンな水素を作れるなど条件の整ったオーストラリアが水素製鉄に適していることから、「オーストラリアで日本がこれまで培った技術を生かして行うことが得策」との考えを示した。

  日本鉄鋼連盟は2月、政府の脱炭素の方針に呼応する形で、鉄鋼業界も50年までにCO2実質排出ゼロを目指す方針を打ち出した。

  同連盟の橋本英二会長(日本製鉄社長)は、国内鉄鋼各社が世界の開発競争に遅れたら「極めて深刻な状況に陥る」と危機感を示す。政府に対し安価で安定的な水素やクリーンな電力の供給体制整備に加え、研究開発や新設備に対する支援を求めている。

高炉が主流の日本

世界諸国の炉別粗鋼生産比率

出所:Worldsteel

  戦後のものづくりを支えた鉄鋼業は、時代の変化を経て大きな変革を迫られている。人口減少に伴う需要縮小や国際競争激化を見据え、日本製鉄とJFEスチールはすでに国内の老朽化設備の合理化を進めており、今後数年間で両社で5基の高炉を休止する。

  立花証券の入沢健アナリストは、今後高炉の追加削減に向けた議論が進展する可能性があるとみている。「高炉を営む会社の経営は非常に厳しくなるだろう」と指摘した。

  同氏は、50年頃まで高炉が存続するかについては顧客が求める製品の素材選択によるところが大きいと予想する。自動車メーカーのような「顧客がハイテン(高張力鋼)など高性能なものを求めれば、高炉の存在意義はある」と話した。

  一方で、自動車メーカーが電気自動車へかじを切るタイミングで素材を鉄からアルミに切り替えたり、電炉材の技術革新が起きたりすれば「高炉がいらなくなる可能性も十分ある」との見方を示した。

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