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ソフトバンクG孫氏の「マネーガイ」、グリーンシル氏は英雄から転落

  • ソフトバンクGのグリーンシルへの投資額は15億ドル
  • グリーンシル崩壊はソフトバンクGの負のシナジー映す-アナリスト

2020年2月、ソフトバンクグループの孫正義社長はインドネシアを訪問し、同国の新首都開発プロジェクトで数十億ドル規模の投資を提案した。このとき側近の1人として同行したのが孫氏のお気に入りだったレックス・グリーンシル氏だった。

  ソフトバンクGは当時、グリーンシル氏が創業したサプライチェーンファイナンス会社のグリーンシル・キャピタルに15億ドル(約1600億円)投資していた。現地のテレビ映像によれば、インドネシアのジョコ大統領と会談した際、孫氏はグリーンシル氏のことを「マネーガイ(お金の専門家)」と紹介した。

  しかし1年後、マネーガイは「金食い虫」に変わった。グリーンシル・キャピタルの倒産は近年では最も注目を集めた金融破綻の一つで、スイスの大手銀行や日本の大手金融機関2社、英国の大富豪らに大きな衝撃を与えた。

SoftBank CEO Masayoshi Son Presents Third-Quarter Results

孫正義氏

  米ウィーワークへの投資と並び、ビジョン・ファンドの歴史の中で最悪の結果となり、孫氏は投資損失の計上を迫られている。ただ、韓国電子商取引のクーパンの新規株式公開(IPO)や中国配車サービスの滴滴出行の評価額上昇などで同ファンドの利益は300億ドル以上となり、ソフトバンクGをよく知る関係者によると、同社が過去最高の四半期業績を記録することを阻むことはないだろうという。

  しかし、グリーンシルの問題はスタートアップ企業に対し多額の資金を投入し、投資先企業が互いに協力することで成長を促すという孫氏の戦略のリスク面を強調するものだ。東京のソフトバンクGの広報担当者も、ロンドンのグリーンシル・キャピタルの広報担当者もコメントを控えた。

  孫氏とグリーンシル氏の関係は偶然から始まったもので、事情に詳しい関係者によれば、ビジョン・ファンドのそれほど上級ではない幹部がグリーンシル氏の紹介を求めて連絡したのがきっかけだった。その後ソフトバンクGは19年5月までにグリーンシル・キャピタルに8億ドルを投資し、同年10月にはさらに6億5500万ドルを投じた。

  事情をよく知る幹部によると、80社以上あるソフトバンクGの投資先企業の中でグリーンシル・キャピタルは最大手には程遠い規模だったが、すぐに2人は定期的に会話するようになったという。孫氏は自社のイベントで、投資先企業との協力関係の構築が期待される一例としてグリーンシルを紹介した。

  グリーンシル氏は、米ウィーワークの共同創業者で元最高経営責任者(CEO)のアダム・ニューマン氏や、最近では人員削減を余儀なくされたインドのオヨホテルの創業者リテッシュ・アガルワル氏と同様の好待遇を受けた。19年のソフトバンクGの株主総会でのプレゼンテーション資料には3人の写真も掲載され、「人類史上最大の革命 」におけるAI起業家集団と紹介された。

  注目を浴びたグリーンシル氏自身も、孫氏とのやり取りがあることについて自慢していたとグリーンシル・キャピタルの幹部も明らかにした。

  現在は削除されているが、グリーンシル氏はビジョン・ファンドのホームページで以前、「ソフトバンクGのビジョン・ファンド・ファミリーへの参加で得られる素晴らしい経験の一つは、ネットワークや資本、アドバイスだけではない。マサがパートナーであり、メンターになってくれることだ」とコメントしていた。

  さらに、「マサは私たち、特に私と一緒になってコアビジネスについて考え、グローバル市場における不平等だったり挑戦すべき課題にどう取り組むかを考えてくれる」とも述べていた。

  グリーンシル氏は、孫氏が掲げる「群戦略」の重要な部分を担うようになっていった。群戦略は、世界を主導するテクノロジー企業に経営権を握らない程度の投資を行い、企業同士の協力を促すもので、スタートアップ企業にウィーワークのシェアオフィスのネットワークを利用させたりすることがこれに当たる。グリーンシル氏が果たした役割は、事業でつまずきそうなスタートアップ企業が多額の担保を設定しなくても、容易に低利融資を受けられるようにすることだった。

Lex Greensill

グリーンシル氏

 

  米銀大手モルガン・スタンレー出身のグリーンシル氏(44)は11年に起業し、売掛債権を担保にした短期の融資を手掛けた。だが、事情をよく知る関係者らは、ソフトバンクGが出資する企業への一部の融資では売掛債権ではなく、将来の売り上げ予測に基づいて実行されていたと語った。

  営業資料や事情に詳しい関係者らによれば、一部の投資家に対しては、ノートと呼ばれる債券のような商品に組成されたローンが取引の裏付けとして提示されていた。関係者らによると、投資家らには短期の債権による運用と映ったという。

  こうしたローンの多くがクレディ・スイスのサプライチェーン・ファンドを通じて行われ、投資家から集めた資金は100億ドルに上る。資金の借り手にはオヨやモバイル向けソフトウエア開発のフェア・フィナンシャル、新興建設企業のカテラなどが入っていた。

  ソフトバンクGはクレディSのファンドにも投資していたため、利益相反の疑念が浮上。クレディSの内部調査の結果、ソフトバンクGは同ファンドから7億ドルを引き揚げた。

  東京に拠点を置く投資調査会社、レッドエキス・ホールディングスのカーク・ブードリー代表はブルームバーグの取材に対し、「ビジョン・ファンドが投資する企業の中にスタートアップ企業が流動性を容易に得られる会社があることは良いことではないかもしれない」と話した。

  簡単に資金調達ができれば、「フィードバックが混乱し、正しく物事が進んでいるかどうかが分からなくなる」ため、グリーンシルのローンを負のシナジー効果の一例とブードリー氏は指摘。「最終的には、彼らが得た正のシナジーも無意味なものになるかもしれない」と語った。

  インドネシアのボルネオ島に建設される新首都やサウジアラビアの紅海沿岸に建設されるムハンマド・ビン・サルマン皇太子の新都市への数十億ドル規模の投資を孫氏が申し出たのは、そうしたシナジー効果の追求だったと言える。

  孫氏の夢はカテラやオヨ、配車サービスのスタートアップ企業であるオラやグラブ、中国のAI最大手で顔認証を手掛ける商湯科技(センスタイム・グループ)など出資先が契約を獲得することだ。これらの企業に資金を提供するはずだったのがグリーンシルだった。

  ビジョン・ファンドに詳しい関係者らによると、会議やプレゼンテーションの場ではいつもグリーンシルの社名があった。スタートアップ企業にはよくあることだが、ディールチームが提案する新しい投資アイデアについてマネージング・パートナーが口を挟む際には、流動性に焦点を当てた質問が出された。最終的にそうした議論の矛先が向かうのはグリーンシルだったと関係者は話した。

  孫氏とグリーンシル氏の関係は、インドネシアの出張から1カ月が過ぎた20年3月には悪化し始めた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響でサプライチェーンが圧迫されると、投資家らはグリーンシル氏にとって最大の資金源であったクレディ・スイスのファンドから数十億ドルを引き揚げてしまった。

  両氏の会話を知る立場にある関係者らによると、グリーンシル氏は孫氏にソフトバンクGの投資先企業に提供する資金の返還について相談した。週に一度の電話連絡は突然途絶えてしまったという。

  ドイツ銀行出身でビジョン・ファンドのグリーンシル投資を担当するマネージング・パートナーだったコリン・ファン氏は、ロンドンオフィスの向かいにあるサボイホテルでの会議に出席することはなくなった。

  事情に詳しい関係者によると、ファン氏はほかの投資案件に集中しなくてはならなくなった。ビジョン・ファンドを担当するソフトバンクGの広報担当者によれば、同社のほかの社員が引き続き参加して、グリーンシルの経営陣と懸念を共有した。しかし、この件をよく知る関係者2人によると、グリーンシルの取締役会にオブザーバーとして参加を続けた2人のソフトバンクG幹部はメモを取ることに終始し、質問することはあまりなかった。

  20年12月になると、グリーンシルはさらに資金繰りに窮した。ソフトバンクGは4億ドルを追加でグリーンシルに投資することで、カテラの債務を帳消しにする取引を行った。グリーンシルはこれをクレディ・スイスのファンドのノートの償還に充てた。そしてソフトバンクGはカテラに2億ドルを追加投資した。

  レッドエキスのブードリー氏は、「ソフトバンクGはウィーワークの失敗の後、損の上塗りのようなことはしないと約束したのに、再び同じことを繰り返している」と話す。

  関係者によると、ソフトバンクGの昨年末時点のグリーンシルの保有比率は約25%だった。同社は3月8日、英国で再建型倒産手続きを申請したが、ソフトバンクGは現時点で11億5000万ドルの債権者でもある。

  ファン氏はビジョン・ファンドで、グリーンシルが融資していたフレックスポートとフェア・フィナンシャルへの投資を担当していた。同氏は1月、同ファンドのマネージング・パートナーを退き、シニア・アドバイザーに就任したが、その理由は明らかにされていない。

  一方、クレディ・スイスは現在、グリーンシルとの取引に関連してトマス・ゴットシュタイン最高経営責任者(CEO)を含む取締役会メンバーの責任を調査している。ドイツの規制当局は、ブレーメンにあるグリーンシルの銀行が英国の実業家サンジーブ・グプタ氏と関連ある資産をどう計上したかなどの調査を行うよう検察当局に要請した。

  これについてグリーンシルは、資産の分類方法は弁護士のアドバイスに従い、規制当局の要請にも従うとしている。

  インドネシアの投資案件について、孫氏はまだ約束を果たせていない。彼が今注力しているのは、投資先の電子商取引会社トコペディアと同国で配車サービスを展開するゴジェックとの合併だ。話がまとまれば、一定の利益を計上する可能性がある。

原題:Masayoshi Son’s ‘Money Guy’ Lex Greensill Went From Hero to Zero 

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