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東京五輪、成否分けるのは接触遮断か-危険と隣り合わせのコロナ禍で

  • 「ポストコロナ」時代の幕開けか、それとも感染を広げるイベントか
  • 五輪期間中の感染症には先例-リオ大会はジカ熱流行のさなかに開催

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東京五輪・パラリンピックは延期や相次ぐスキャンダル悪評などを乗り越え、7月23日に開会式を迎える方向にある。しかし、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が続く中で、大会をいかに安全に開催するかといった真の難題が残っている。

  東京大会は海外からの一般観客なしで行われることになったが、それでもアスリートやコーチ、国家代表チームのスタッフのほか、メディア関係者、エッセンシャルワーカーなど6万人余りが200カ国余りから東京に集結する。これらの国々ではコロナの感染率やワクチン接種の進展具合、変異株感染の動向がそれぞれ異なる。

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聖火リレーで走者を務めた元バレーボール女子五輪代表の大林素子さん(福島県会津若松市、3月26日)

  感染症モデルを専門とする米テキサス大学オースティン校のスペンサー・フォックス研究員は、「入国者数や世界中で流行していることを踏まえると、五輪大会が感染件数の大幅増加につながり、帰国者を通じて国際的に感染を広げるイベントとなる可能性があることは確かだ」と指摘。「講じられている予防措置は素晴らしいが、感染の確率をゼロにはできない」と述べた。

  東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)は、東京大会の成功に向けた対策を規定したプレーブック(ルールブック)の初版を公表済み。ステークホルダー(利害関係者)ごとに大会期間中の競技や移動、接触などのルールを定めたものだが、隔離とワクチンという封じ込めに重要な2点は排除され、これら抜きでは感染が広がりかねないと専門家は指摘する。

  実際そうなれば、オリンピックが日本国内に感染を広げる流行の中心地になりかねないだけでなく、新たな変異株が世界中から集まる場にもなりかねない。選手が感染して帰国すれば、パンデミックを悪化させる恐れもある。

  他の先進国と比較すれば、日本の感染率はかなり低いが、国民のワクチン接種は始まったばかりで、英国や米国などのほか、アジアの一部に比べても数カ月遅れている。最終的に五輪のため日本に入国する人数を含め、まだ分からないことが多いほか、日本人の観客をどれぐらい受け入れるかも決まっていない。プレーブックの最終版は6月に出る予定で、感染率の今後の推移次第でもっと厳しい措置が講じられる可能性もある。

  大会組織委員会は電子メールで、コロナウイルスを巡る状況は常に変化しており、日本政府と東京都、他の利害関係者の努力によって感染拡大を和らげることができるよう期待していると説明した。

「バブル」空間の確保

  この1年間で世界で行われたスポーツイベントには成功ストーリーもあれば、慎重を促す例もある。

  大会の運営者は、米プロバスケットボールNBAの成功例に倣うことを期待している。NBAは2020年夏・秋の3カ月間、競技を行ったが感染者は出なかった。ただ、NBAの試合はフロリダ州オーランドのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートの施設を外界との接触遮断のための「バブル」として利用し、関わったのはスタッフやコーチを含めても1000人未満だった。

  今年のテニス全豪オープンで開催者は感染対策に真剣に取り組んだ。選手には検査を求め、到着後の隔離も義務付けた。それでもメルボルン行きのチャーター便の一部で選手や支援スタッフに感染例が見つかった。大会とは無関係の市中感染の急増を受け、一時は途中から無観客試合となった。隔離や不十分な練習時間が原因とされる選手の負傷もあった。

  このイベントの結果、現地の感染拡大や選手の間での感染といった事態は生じなかったが、どれほど厳重に予防措置を講じても、どんなことが起こる可能性があるかを示す形となった。

  種目ごとにリスクの度合いも異なる。米プロフットボールNFLでは試合中の選手のウイルス感染がなかったことを研究結果は示した。ただ、高校のレスリング大会は感染の急拡大を引き起こした。東京五輪は33競技が42の競技会場で開催される。

Olympics Stadium and Other Venues As Coronavirus Cast A Shadow Over Travel and Tourism

東京五輪の選手村

五輪期間中の感染症流行例も

  対応をさらに複雑にするのはオリンピックの親睦的な性質だ。選手村は人々が交流するよう設計されている。長時間の会話や集団での食事は禁じられるが、こうしたルールをどのように順守させるかは不透明。アスリートの大半は20代で、一部はまだ10代だ。こうした若年層でのコロナウイルス伝播はより顕著でコントロールが難しい。

  シンガポール国立大学公衆衛生学部のアレックス・クック准教授は「プレーブックは書かれているが、どれだけ厳格に実施されるかは不明だ」と指摘した。

  大会の円滑な運営にはボランティアのほか、調理や清掃、行事進行などのため常時、接触遮断の「バブル」を出入りする現地スタッフが必要で、大会組織委員会と東京都によれば、その数は恐らく15万人余りに上る見通しだが、その扱いは不明で、プレーブックにも明確な指示はない。

  過去にも五輪期間中の感染症流行の例はある。18年の韓国・平昌冬季五輪では約200人のアスリートがノロウイルスに感染。その2年前のブラジル・リオの夏季大会はジカ熱流行のさなかに開かれた。12年のロンドン五輪では選手1万568人のうち300人余りが呼吸器疾患にかかった。

Brazil Zika Call To Postpone

蚊が媒介するジカ熱予防のため殺虫剤散布を準備する作業員(16年1月、リオデジャネイロ)

  米フロリダ大学でアスリートを含むコロナ対応措置を統括している疫学者のイェルネ・シャピロ氏は、「これはコロナウイルスがなかったとしても大きなタスクだ」と指摘した。

検査頻度高めることが最善の方法

  リスクを減らす戦略はある。日本に入国する際にはコロナ検査で陰性が求められるほか、少なくとも4日ごとに追加検査が義務付けられる。五輪のようなイベントでは、検査頻度を増やすことが感染拡大阻止の最善の方法と考えられると専門家は指摘する。大会組織委員会の橋本聖子会長は、検査頻度の増加を検討中であることを示唆している。

  米ジョンズ・ホプキンズ健康安全保障センターのアメッシュ・アダルジャ氏は「全員がワクチン接種するのでなければ、一連の検査とバブルの組み合わせがベストだ」との考えを示した。

  幾つかの国では大会に参加するアスリートやその他関係者のワクチン接種が既に始まっている。一部の国家代表チームの場合、感染抑制ルールはプレーブックよりも厳しいかもしれない。また、大規模で換気のよい施設で観客数を制限して行われるため、リスクはさらに減ると考えられる。

Novel coronavirus / PCR test at Haneda Airport in Tokyo, Japan

羽田空港で出国前にPCR検査を受ける乗客(1月8日)

  それでも誰もが納得しているわけではない。スクリプス研究所のエリック・トポル所長は「もちろん、参加者とスタッフ全員がワクチン接種を受けていれば理想だろう」と指摘しつつ、「バブルのモデルはNBAでは機能した」が、東京五輪の「シナリオで再現できるかははっきりしない」と述べた。

原題:The Olympics Is Relying On a Giant Virus Bubble. It Could Burst(抜粋)

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