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世論を味方に付けられない五輪広報、問われる危機管理と開催意義

  • 対応シナリオの明示が基本、根底に「黙認期待」の政治手法と識者
  • 説明求められるコロナ禍開催、五輪精神の具現化-消えた経済効果

東京五輪・パラリンピックは、海外からの観客受け入れを断念し、新型コロナウイルス禍で安全を最優先した大会の実現に向けてかじを切った。しかし、専門家らは大会組織委員会の広報体制は危機管理の視点に欠けており、このままでは今夏の開催に否定的な7割の世論を覆すのは難しいと指摘する。

  「新型コロナ禍を危機と認識すべきところを平時の広報で済ませてきた」。危機管理コンサルタントの山口明雄氏は、組織委の情報発信に苦言を呈する。「危機管理広報」の対応では起こり得る危機への対応策(シナリオ)を説明し、国民をはじめ利害関係者の理解と協力を得ることが基本だという。

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国立競技場と五輪マーク

  菅義偉首相は、開催に向けた決意を「コロナに打ち勝った証しとしての五輪」とだけ説明。組織委の森喜朗前会長も感染拡大懸念に対し、「仮定の話はしない」と繰り返してきた。武藤敏郎総長は11日の国際オリンピック協会(IOC)総会で、ワクチン接種時期に関して相次いだ諸外国の委員からの質問に「政府から明示がない」と述べるにとどまった。

  山口氏は、対応シナリオを用意しているかだけでも言及すべきだったと述べ、日本の五輪運営は「表面的に頭を下げていれば国民も黙認してくれる」という政治手法が根底にあると分析。リスクや具体的対応策について丁寧な説明を欠いてきたため、これを早期に改める必要があると話す。

<山口氏が指摘する「広報戦略の問題点」>

組織委の対応結果
リスクを「仮定の話」と門前払い不信感を生む
政府、組織委、東京都が統一感のない発信五輪の顔不在、情報の混乱
「何が何でも五輪」と主張根拠の説明なしには理解得られず

  開催まで4カ月余りに迫る中、朝日新聞が20、21両日行った世論調査によると、五輪開催については「再び延期」が36%(前回2月調査では43%)、「中止」が33%(同31%)で、「今夏に開催」は27%(同21%)にとどまった。

  2月に就任した橋本聖子会長は世論を踏まえ、アスリートが「迷うことなく夢の舞台に立てるよう空気を変えていく」と述べ、森会長時代にはなかった週1回の定例会見を始めた。組織委や国際オリンピック委員会(IOC)は4月中に国内観客(会場動員)数の上限を決めるとともに、感染対策なども適宜、更新していく予定だ。

情報量が鍵に

  広報コンサルタントの石川慶子氏は、組織委の広報部門が森前会長の発言をコントロールできず、イメージが悪化し続けたと指摘。会長が橋本氏になってからメディア対応は丁寧になったが、拡散したネガティブな情報の影響を打ち消し、プラスに変えるには広報対応に改善が必要とみている。

  戦略広報では情報量が鍵となり、ネット上の誤認情報には、それを上回るポジティブ情報の発信が必要という。石川氏は「情報を分析して効率的に媒体を選べば、今からでも改善できる」と述べた。情報を届けたい層に影響力を持つ「インフルエンサー」の活用なども選択肢になるとしている。  

  組織委は新型コロナに対する不安の払しょくが国民の理解を得るための前提だとし、安心安全な運営を最優先課題と位置付けている。25日からの聖火リレーでは、コロナ対応の専門チームを発足。沿道の密集に関する基準を設けると共に、実施本部が警察と協力して注意指導する体制を構築した。

  組織委広報の高谷正哲氏は「コロナを取り巻く状況は刻々と変化しており、政府、東京都、関係自治体による一連の対応により感染状況が改善することを期待している」とした上で、組織委は「今夏の安全で安心な大会開催実現に向け、引き続き政府や都、関係自治体と緊密に連携し、万全の体制で準備に尽力する」と述べた。

<石川氏が指摘する「広報戦略の問題点」>

組織委の対応結果
トップとの希薄な連携森前会長の会見では発言のコントロールできず
効率的な発信ができていない臆測による情報の独り歩き
ステイクホルダーが不明確ターゲット層に情報届かず

問われる開催意義

  3大会連続で五輪出場経験のある元陸上選手の為末大氏は、組織委に「なぜ五輪をするのかきちんと言ってほしい」と語る。コロナ禍での五輪・パラリンピックは従来とは違う意義が問われており、世論は開催の必要性と感染リスクとを「てんびんにかける時期に入っている」との考えを示した。

  スポーツコンサルタントの春日良一氏は、政府や組織委は「これまで経済効果をうたってきたが、新型コロナで効果が見込めず説得力がなくなった」と指摘。スポーツを通じた人権意識、相互理解や平和への貢献など日本は五輪精神に向き合ってこなかったため、説明に説得力を持たせられないでいると分析している。

  春日氏は、橋本会長は五輪精神を理解して発信に努めているとしながらも、既に国民の心が離れてしまっている中での取り組みは簡単ではないと語った。

東京五輪・パラリンピックの意義とは

<為末氏>

  • ポストコロナに向けた「ゲームチェンジ」の役割、調整や工夫で国際イベントを行う日常への試金石
  • 民間交流の再開、グローバルな連携で価値を見いだす

<春日氏>

  • 分断強いられる中で「人とつながり努力する」機運の醸成
  • 国家の分断を緩和、2018年平昌五輪での南北朝鮮合同チームのような平和的貢献も
  • 五輪憲章の浸透、女性蔑視発言は五輪精神が絡んだことで世界的に問題視され、意識が高まった
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東京大会の聖火リレートーチ

  25日には、47都道府県を駆け巡る聖火リレーが福島県からスタートする。組織委の武藤氏は22日夜の会見で、「五輪が行われることを実感してもらう重要なイベント」であり、聖火リレーを成功させることで「国民が五輪のコロナ対応への理解を深めてもらえれば」と期待を寄せた。

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