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福島の光と影、着実な復興でも戻らぬ町のにぎわい-東日本大震災10年

  • 水素エネルギーやロボットの最先端技術を推進するプロジェクト進む
  • 避難住民のうち戻る意志のない人が5割を超える-調査

2011年3月11日に発生した東日本大震災から丸10年。政府は多額の資金を投じて被災地に住民と仕事を呼び戻そうとしているが、福島県の復興は今なお道半ばだ。  

  スーパーや交通インフラなど生活基盤の整備から水素エネルギー研究施設の開設など最先端技術に至るまで、被災地では復興に向けてさまざまな取り組みが行われてきている。それにもかかわらず、帰還した避難住民はほんの一握りにすぎない。

Fukushima Seeks New Way Forward As Nuclear Cleanup Drags On

人けのない浪江町の通り(3月9日)

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  福島の一部地域では震災による原発事故の影響で立ち入り禁止区域が今も残り、復興作業が遅れている。東京電力福島第1原子力発電所の廃炉作業は30年から40年かかるとみられ、先行きには不透明感が漂う。

  浪江町に建てられた慰霊碑には、津波や地震で犠牲となった住民約200人の名前が刻まれている。福島第1原発から北へ約8キロメートルに位置するこの町の住民約2万1000人は、原発事故で拡散した放射性物質から身を守るため避難を強いられ、町は一夜にして廃墟と化した。  

  4年前に一部地域を除き避難指示が解除され、住民の帰還が認められた。ただ現在住んでいるのは1600人程度で、震災前の1割にも満たない。複数の調査によれば、避難住民のうち戻る意志のない人が5割を超えている。

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浪江町の様子。時計回り左上から除染現場、旧避難指示区域の家屋、放射線モニタリングポスト、倒壊した墓石

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg


  「震災前には戻らないんだから」と話すのは、家族で重機リース業を営む前司昭博さん(39)。妻の涼子さん(29)と暮らすつもりで19年に生まれ故郷の浪江町に家を購入した。

  前司さんは「どうしても帰ってきたい人は帰ってきている」と言う。「避難先から地域のために何かやらなければいけないという人は来ているけど、浪江に帰還して、地域のことをやっている若い同年代はいない」と語った。

空洞化

  新しい住宅や道路が整備された被災地は、32兆円の予算が投じられた世界で最もコストが高い復興プロジェクトの一つのショーケースだ。ただ、景気悪化と人口減少が特に深刻なこの地域は、震災の影響で空洞化という新たな難題に直面している。

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港に揚がった白魚を選別する漁師(浪江町・請戸漁港)

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

 

  日本の多くの地域が人口減少に悩まされている。中でも福島が目立っており、この10年で10%減り180万人となった。隣の宮城県は約2.5%減。入手可能な最新データによると、10年から18年までの福島の経済成長率はプラス8.1%で、宮城のプラス19%を下回る。  

  大和総研の鈴木雄大郎エコノミストによると、福島の生産能力の回復は他の地域に後れを取っている。製造業生産高は岩手で12年、宮城で13年に震災前の水準を回復したが、福島は17年までかかったという。

荒れ果てる古里、復興五輪の光届かず-原発避難者、帰還の夢遠く

  国内観測史上最大規模のマグニチュード9の地震を記録した東日本大震災。福島第1原発では津波による浸水で全電源が失われ原子炉の冷却が不能となり、3基で炉心溶融(メルトダウン)が起きた。16万人余りが避難を余儀なくされ、死者・行方不明者は約2万人に上る。

人口減少が目立つ福島県

出所:各県データ

  県北部の地域は津波被害が大きかったものの復興作業に早い段階で着手することができた。一方、放射能汚染の影響が残る一部の地域はいまだ復興のスタートラインにも立てていない。双葉郡の18年の製造品出荷額は震災前の4分の1程度にとどまる。食品の放射性物資検査は広く行われているが、福島産に対する風評被害が今なお残る中、浪江町の請戸漁港に活気は戻っていない。

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浪江町から見た東電福島第1原発

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  福島県の内堀雅雄知事は10日、「元の生活を取り戻すという部分と新しい未来に向けた部分を両立させることがこの地域の復興にとっては重要だ」と記者団に語った。  

  浪江町にはスーパーのイオンが19年にオープン。3月下旬には「道の駅なみえ」に無印良品が出店する。東京と福島を結ぶJR常磐線は昨年全線で運転が再開した。

水素エネルギーとロボット

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福島ロボットテストフィールドでドローン調査の準備をする作業員

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  福島では新たな産業基盤の構築へ地球環境に優しいエネルギーやロボット技術、テクノロジー産業を推進するプロジェクト「福島イノベーション・コースト」が進行中だ。

  浪江町には、かつての原発建設予定地に再生可能エネルギーを利用した水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が建設された。FH2Rは50年までに脱炭素社会の実現を目指す日本で大きな役割を担うことが期待される。

  南相馬市では、津波被害で住宅に適さなくなった土地に政府が約77億円を投じて「福島ロボットテストフィールド」を建設。強風環境下でのドローンの飛行やロボットによる水中インフラ点検などの試験が行われている。

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福島ロボットテストフィールド(南相馬市)

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  もっとも、東京ディズニーランドとほぼ同じ広さを持つ同施設の従業員は約40人にすぎない。FH2Rには常勤の社員はおらず、雇用も少ない。

  家業の木材業を再開するため浪江町に戻った朝田英洋さん(53)は、戻ってきても仕事はなく、求人不足が町の復興を妨げていると話す。震災時に30人いた従業員は現在21人だ。

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浪江町で暮らす前司夫妻

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  一方、震災前の従業員15人から70人に会社を大きくした重機リース業の前司さんは、求人を出しても地元では人が見つからないと語った。自身が懸命に取り組んできた地域復興の現状を伝えきれていないことに歯がゆさを感じている。

  「進んでいないとか遅いとか言ったら、それは違う」と前司さんは言う。原発爆発で「人もいない、信号機も全部止まり、音もしない無の町」に人が住めるようになり、「少しずつ活気が出ている」。

原題:Ghost Towns of Fukushima Remain Empty After Decade-Long Rebuild(抜粋)

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