, コンテンツにスキップする

10兆円大学ファンド、低金利下の運用にジレンマ-収益か安定か

更新日時
  • 目標収益はGPIFの3%下回る可能性、ハーバード大は7.3%
  • 国力低下の歯止めに期待、「金がない限り絵に描いた餅」と発案者

政府が創設する10兆円規模の大学ファンドは、低金利環境での運用が課題だ。研究者支援のために収益性を追い求めれば損失リスクは避けられないが、安定運用に徹し収益率を低く設定し過ぎれば、国力低下を食い止めるための資金調達という本来の目的を果たせなくなる。

  専門家への取材や政治家の発言によれば、大学ファンドが目標とする収益率は3%を下回る可能性がある。3%は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の過去20年の平均収益率と同水準。安定収益確保を主眼とするGPIFは国内外の株式・債券への投資が中心で、不動産や未公開株などに代表されるオルタナティブ(代替)資産の上限は5%にとどまる。

  米国主要大学ファンドでは利益を追求して代替資産へ7割を投じる場合もあり、直近でハーバード大学は7.3%、イエールは6.8%、スタンフォードは5.6%の収益率を上げる。ハーバードのファンド規模は419億ドル(4.4兆円)で、規模は半分でも収益額は日本の大学ファンドと同じになる計算だ。

 Yahoo Japan Chief Strategy Officer Kazuto Ataka

大学ファンド構想を発案した慶応大学の安宅和人教授。ヤフーのチーフストラテジーオフィサー(CSO)でもある

Source: Kazuto Ataka

  大学ファンド構想を発案した慶応大学の安宅和人教授は、海外から主要7カ国(G7)「引退国」と評された日本の名誉挽回に向け、「足りていないのは金。結局、人を育てる金がない限りは、どれほど素晴らしい計画があっても全ては絵に描いた餅」と述べた。

「20年後に20兆円」

  ファンドの資産構成割合など運用の基本的な考え方は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)に設置する「資産運用ワーキンググループ」で検討する。元本4.5兆円分は予算計上されており、21年度中に運用を開始。早期に10兆円まで積み増し、23年度には運用益による大学支援を開始する予定だ。

  安宅教授は、大学ファンドが収益率7%を上げることを念頭に、「運用益から毎年数千億円ずつ予算を出していって、20年後に20兆円、40年後に40兆円、60年後に80兆円規模になる」と試算。「ハーバードのような運営をするなら、60年後には基金は数百兆円になっているはず」と期待を膨らませる。高等教育運営のための基金創設は、「初代文部大臣の森有礼さんのころからの悲願」だとも述べた。

  一方、萩生田光一文部科学相は先月の参院文部科学委員会で、「背伸びをして3%というターゲットを決めるのではなく、たとえ低くても安定的にきちんと毎年計画的に大学や博士課程に資金が供給できる仕組みを作っていく」と保守的な姿勢を示した。

  麻生太郎財務相も9日の閣議後会見で、「金を持たしたら必ずもうかるというのは大きな間違い」と指摘。所管省庁には「短期的な市場動向よりも長期的な観点からリスクをきちんと抑制しつつ、収益を得る確実な方法を考えてもらわなければならない」と述べた。

主要国政府の科学技術予算

出所:科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2020」

  大学ファンド創設の背景には、科学技術という観点での国力低下という危機感がある。科学技術関連予算が米国の4分の1、中国の7分の1となる中、1990年代に世界4位だった引用数などを基準にした上位10%論文数は11位に低下。新幹線やウォークマン、音楽用コンパクトディスク(CD)といったイノベーションがもたらしてきた日本の存在感が過去20年で薄れ、日本企業は時価総額上位から脱落した。

  慶応大の安宅教授は、「真に異質な科学技術競争が起きているときに、日本は乗り遅れているばかりか、希少な才能と情熱の多くを大切に育てることなくドブに捨てている」と批判。国力に見合った資金を投下することで、「技術的プレゼンスを持ったプレイヤーが現れ、論文のプレゼンスも上がっていかないと、日本に国力に見合う新しい富はやってこない」と危機感を示した。

(麻生財務相のコメントを入れて更新します)
    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE