ジャック・マー氏、行きつけのバーにも姿見せず-カリスマの不在続く
Bloomberg News-
マー氏は個人的な危険にさらされていないというのが地元住民の見方
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中国杭州市のマー氏ゆかりの場所を取材-アリババ本社には入れず
中国浙江省杭州市にあるアリババグループ本社からタクシーですぐの「HHBミュージック・ハウス」を木曜日の夜に訪ねると店内は混んでいた。来店客の誰もが同グループの共同創業者、馬雲(ジャック・マー)氏のファンのようで、アリババのモバイルアプリを使って同社をモチーフにしたカクテルを注文していた。客の多くは恐らく、昨年11月以降公の場に姿を見せていない最も有名な常連客に会えるかもしれないと期待していたのだろう。
アリババ幹部が2019年前半に開いたこのバーに馬氏は少なくとも月に1回立ち寄っていたが、昨年の遅い時期から来店が途絶えていると、バー従業員の1人が匿名を条件に明らかにした。店名の「HHB」は「ハッピー・ハニー・バジャー」の略で、ハニー・バジャーとはどう猛な闘争本能で知られるイタチ科のミツアナグマのことであり、「中国株式会社」のカリスマである馬氏自身にちなんで名付けられた。ロビーでは馬氏の伝記と弓で縛られた気性の荒そうなアナグマが飾られた野球帽も売られている。

アリババのイベントで馬氏が着用したコスチューム
写真家:フィーチャーチン/バークロフトメディア/ゲッティイメージズ
ステージ右側の壁に掛けられているのは「ジャックのショー」と書かれたネオンサインだ。毎年恒例となっている会社のイベントで馬氏が着ていたマイケル・ジャクソンとレディー・ガガ風のコスチュームもある。ギターとスタンドマイクは、馬氏が急に立ち寄ってもいいように準備されているようだった。
馬氏は昨年10月下旬に行ったスピーチで中国の金融当局を激しく批判した。アリババ傘下のフィンテック企業アント・グループの新規株式公開(IPO)が11月上旬に当局から突然止められて以来、馬氏の姿は公の場から消えた。アントのIPOは実施されていれば350億ドル(約3兆6300億円)規模と、史上最大となるはずだった。当局は先月下旬、馬氏の築いた企業帝国を巡る独占禁止に絡む調査に着手。同氏は出演を続けていたテレビ番組の収録にも参加しなかった。
ジャック・マー氏の姿見えず臆測招く-テレビ番組収録に参加せず
このため馬氏の所在を巡る臆測が一気に広がったが、アリババへの独禁調査に関して国内メディアの報道を中国政府が規制したことから、今はあからさまなうわさや観測は控えられている。アリババの広報担当者は馬氏がどこにいるかについてコメントしなかった。
中国、アリババ独禁調査に関する国内メディアの報道を検閲-関係者

アリババ発祥の地である古い集合住宅を訪れたが、中には誰もいないようだった
(出典:QuickTake)
交銀国際の洪灏チーフストラテジスト(香港在勤)は、多弁な億万長者が数カ月姿を見せないという事実は、低迷する株価の重しと見なされることから、投資家にとっては問題だと指摘した上で、馬氏は「おとなしくしているのだと思う」と語った。アントのIPO中止以降、アリババ株は20%余り下げ、馬氏の個人資産は最大117億ドル目減りした。
上海から高速鉄道で約1時間の杭州は、国内で最も革新的な民間企業の集積地の1つだ。現地取材で話を聞かせてくれた住民の一般的な見方は、馬は個人的な危険にさらされておらず、中国政府にはアリババ帝国を解体し、何千もの中小企業やサプライヤーを危うくする余裕は恐らくないというものだった。

HHBミュージック・ハウス
写真家:アレン・ワン/ブルームバーグ
アリババの関係者に実名での取材に応じてくれるよう説得するのも、馬氏ゆかりの場所での取材も難しかった。元従業員はまだアリババと取引しているとして短く話を切り上げた。現従業員の1人はいったんオフレコでのチャットに応じることに同意したものの、その後最近の厳しい社内管理で外国メディアと話すのは「都合が悪い」として断ってきた。
ブルームバーグの記者がアリババの敷地内に入ろうとすると、厳重に警備された入り口の前で警備員に止められた。ビジターセンターの入り口では、電子商取引について事業者研修を行う「淘宝(タオバオ)大学」で2、3のコースが行われる予定だと表示されていた。同社の広報担当者は2020年10-12月(第3四半期)決算発表前の取材禁止期間だとして、インタビューや社内見学を拒んだ。

HHBミュージック・ハウス
写真家:Imaginechina / AP Photo
馬氏が中国のアクションスター、李連傑(ジェット・リー)氏と共同で13年に設立した太極拳を教えるカルチャーセンター「太極禅苑」に入ることも許されなかった。杭州でも風光明媚な西渓湿地地区にある同センターに出入りする人はいたが、警備員は急ぎのビジネス会議が行われていると説明。たばこ休憩のため出てきた数人に聞くと、確かに会議が開催されているとのことだった。
馬氏が他の17人と共にアリババを創業した古い集合住宅を訪れてみると、隣人の女性はこの部屋はしばらく使われていないと語った。「湖畔花園」という複合施設内にあるこの場所で淘宝やアリペイ(支付宝)などのアプリが生まれ、重要プロジェクトの育成拠点としてよく使用されていたと地元メディアは伝えている。
原題:Jack Ma’s Local Bar Lacks One Thing: Its Most Famous Regular(抜粋)