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Photographer: Toru Hanai/Bloomberg
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新ルールで消えるカラ需要、社債発行市場の透明化で問われる意識改革

  • 発行体への投資家情報の提供を義務化、社債の適用第1号は今週登場
  • 新規則は最低限、改善は関係者の意識次第-野村証の村上部長
Buildings and the Sumida River are seen from the viewing deck of the Tokyo Skytree, operated by Tobu Railway Co., in Tokyo, Japan, on Friday, Dec. 25, 2020.
Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

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日本の社債発行市場が透明性向上に向け大きな一歩を踏み出した。横行していた引受会社の需要水増し報告を禁じる新規則が1月1日に施行され、発行企業は正確な需要情報による意思決定が可能になり市場の価格発見機能が高まる。規則適用第1号の社債は早ければ14日に登場する。

  新発債市場での引受会社のカラ需要報告と売れ残り(募残)隠しは、発行体に販売能力がないと判断され、その後主幹事から外れることを恐れた長年の慣行で、公には存在しないとされる公然の秘密だった。

  機関投資家を含む起債関係者への取材を基にブルームバーグが集計したところ、2018年4月から昨年末までに起債されたリーグテーブル対象の社債1784案件のうち、少なくとも約15%、265案件が売れ残った。

  複数の起債関係者によると、この中には発行額を増やしたり、発行額の8割以上を証券会社が在庫として買い取ったりした事例があった。募残の比率が30%を超える月もあったが、発行企業には常に完売と報告されてきた。

社債の売れ残り比率の推移

規則導入控えて低下

ブルームバーグ

リーグテーブル対象案件をサンプルに算出。売れ残り比率=募残件数/起債件数

  その弊害は大きい。発行企業は実態と異なる需要情報を基に資金調達額の増減判断を強いられ、内情を知る一部投資家への割引販売で投資家間での不平等も生じる。市場の価格発見機能をゆがめる売れ残り(募残)隠し問題の是正を目指し、日本証券業協会は新規則で、主幹事証券会社に対し、銀行や保険会社などの主要投資家と10億円以上購入した投資家の名前や販売額を企業に正確に伝えることを義務付けた。

  対象は主幹事を指名して機関投資家向けに公募される地方債、財投機関債、社債、サムライ債。ただ、適用は、発行額100億円以下の案件は7月からで、地方債は4月以降。違反すると非公表の警告、悪質なケースは実名公表などの処分の対象となる。これにより、投資家情報の共有を企業と確約した場合でもダミー投資家や小口投資家の購入額水増しで完売を装ってきた手法が事実上使えなくなった。

  規則制定のために日証協が立ち上げたワーキング・グループ(WG)を担当した自主規制本部の宮脇隆宗氏は、新規則によって発行条件決定の透明性が向上し需要と販売結果の比較検証も可能になると指摘。「わが国の社債市場は海外と比べて小規模であるが、施行を機に市場の活性化が進展していくことを期待したい」と語る。

  地方債市場などでは規則導入を待たずに透明性の高い手法での起債が相次ぎ、引受会社も1億円の購入でも発行体に詳細情報を報告するなど、起債手続きの透明化に向けた自主的な動きも広がってきた。

課題

  新規則では当初議論されていた欧米で主流のPOT方式の導入が見送られ、各社が個別に需要情報を発行体に報告するにとどまった。主に電子システムに入力して発行体と全引受会社が投資家情報を共有するPOTと比べると、引受会社は各情報を手作業でまとめる上、報告様式も各社で異なり作業が煩雑化している。

  ある引受会社の関係者は、自社の売れ残りを回避するためにできるだけ早く投資家の注文を取り付ける、いわゆる「握り」の争奪戦が激化するだろうと話す。公式には売れ残りは存在しないという立場だとして匿名を条件に語った。

  引受会社の買い取りという後ろ盾がなくなり、新発債の利率は金融市場の環境の影響を受けやすくなる。発行水準が月内で統一される地方債や財投機関債の慣習も維持が難しくなり、起債タイミングの分散や需要調査の短縮化も課題だ。

新規則は最低限

  日証協のWGで主査を務めた野村証券の村上朋久・シンジケート部長は、新規則がまとまった背景には各社が市場をより良くするという方向で一致していたことがあると指摘。「今回は最低限の規則を作ったにすぎない。市場の健全性を維持するという意識を持ち続ければ、新たな規則や見直しといったさらなる負荷なしに市場は発展していくだろう」と述べた。

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