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【コラム】新型コロナ変異種に先手を打つ方法-ファゼリ

2020年は幸運な年として数えよう。新型コロナウイルス感染症(COVID19)が世界で180万人近くの命を奪い、多くの国の経済に打撃を与えていることを踏まえれば、これは奇妙に聞こえるだろう。ここで言う「幸運」とは、米ファイザー・独ビオンテックおよび米モデルナの2つのワクチンが90%を超える有効性を示し、緊急使用許可を得たことに関連している。

  これを可能にしたのは科学と技術の飛躍的進歩であり、パンデミック(世界的大流行)の終わりを早めることも十分にあり得る。他のワクチンもこれから登場する。しかし残念なことに、この早期の成功が慢心につながるリスクがある。

  新型コロナも他のウイルスと同様に変異を繰り返しており、時間の経過と共にワクチンが効きにくくなる変異種が出てくる可能性がある。だからこそ、人類がウイルスの変化にうまく対処するためは、世界的かつ協調的な監視の取り組みが必要なのだ。だが悲しいことに、それはまだ起きていないようだ。

  英国はこの監視の取り組みで大きく先行している。同国の研究チームは感染者から分離されたウイルスの全遺伝情報(ゲノム)解析を15万件余り行い、ウイルスのタンパク質に多くの変化を確認した。その中には、専門家が感染力の強さを懸念する「B.1.1.7」と呼ばれる変異種も含まれる。

  特に印象的なのは「B.1.1.7」が計23の変異を起こし、ウイルスの表面にあるスパイクと呼ばれる突起状のタンパク質の形も変化させていたことだ。ファイザーとモデルナのワクチンを含む多くのワクチンは、このスパイクを標的としている。この変異種に既存ワクチンが効きにくいという確たる証拠はまだないが、懸念を引き起こすものだ。

  筆者はワクチンが広く普及した後に「エスケープ」変異が起きることを懸念していたが、こうした変化は広範な予防接種が行われていなくても起きているようだ。問題は、英国で起きている変異は把握できているものの、データが十分に追跡されていないため、欧州連合(EU)や米国、アジアで他の変異種がどれほど広がっているか分からないことだ。新型コロナを効果的に制御するためには、これを変える必要がある。

  すべきことは3つある。まず、世界中の政府が協力し、英国と肩を並べるぐらいウイルスの監視を強化する必要がある。そうすれば、ワクチン接種に対する反応の変化をより効果的に評価できるようになる。「B.1.1.7」にもワクチンが有効かどうかは遠からず分かるだろう。しかし、今後ウイルスに驚かされないようにするには、世界中で発見されるあらゆる変異種のワクチン免疫に対する反応を評価する必要がある。

  これはインフルエンザウイルスとの闘いで既に実施されていることであり、われわれは新たなワクチンを毎年開発している。必要に応じ、新型コロナでも同じことをすべきだ。さらに、懸念すべき変異のタイプについて世界で共通のルールを持つ必要もある。例えば、ワクチン候補の開発を新たな変異種が見つかるたびに行うのか、既存ワクチンの有効性が低いことが検査で示された変異種のみに対象を絞るかなどだ。

  次のステップは、ワクチンメーカーが政府と緊密に連携し、懸念すべき新たな変異種に対応するワクチンを確実に開発することだ。これにはコストも労力もかかるが、ファイザー・ビオンテックやモデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)、アストラゼネカやジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の「ウイルスベクター」など、新たな技術を使っている場合は相対的に低コストで済む。こうした技術は新たなワクチン候補を2カ月以内に迅速に開発するのに役立つ。

  パズルの最後のピースは、新たなワクチンの配布を巡る規制の枠組みだ。ここでも、インフルエンザワクチンで既に実施していることが使える。企業、規制当局、政府は新たなワクチンの実用化に向けた大規模な後期臨床試験を待たなくて済むよう、一連の簡素なルールを策定する必要がある。

  筆者はこれら全ては実現可能だと楽観している。英国では既に広範なゲノム解析を行っている。活気を取り戻した米疾病対策センター(CDC)の存在は強力な援軍となるだろう。さらに中国やEUなどの国・地域が加われば、世界規模のコンソーシアムが組織的にウイルスを追跡することが可能になる。医薬品業界やバイオテクノロジー業界は迅速に行動する能力と意欲を示している。

  初期のワクチンでこれほどの朗報があったのに、ウイルスとの闘いで最終的に負けてしまうとすればもったいないことだ。それが回避できる場合はなおさらだ。われわれは一刻も早く行動しなくてはならない。

(サム・ファゼリ氏はブルームバーグ・インテリジェンスの医薬品業界担当シニアアナリストで、欧州・中東・アフリカのリサーチ責任者。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:
How to Stay Ahead of a Mutating Virus: Sam Fazeli(抜粋)

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