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Photographer: Kentaro Takahashi/Bloomberg
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危機のJALが背負う「雇用死守」の十字架、コロナ後の明暗分けるか

  • 従業員を裏切るな、赤坂社長に雇用の維持求めるメール-大田元専務
  • 破綻後のJALは稲盛氏の下で団結し復活、コロナ禍もリストラせず
Visitors look out from an observation deck at Haneda Airport in Tokyo, Japan, on Sunday, Oct. 25, 2020. The global airline industry is facing a painfully slow recovery from the ongoing effects of the pandemic as carriers slash jobs and secure funds to ride out the crisis.
Photographer: Kentaro Takahashi/Bloomberg

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新型コロナウイルスの感染拡大で厳しい状況が続く航空業界にあって、日本航空(JAL)には「雇用の死守」という重い命題が課せられている。10年前の破綻からの再建を成し遂げたカリスマ経営者の理念を受け継いだ経営陣は、終わりが見えないコロナ禍で選択肢が限られた難しいかじ取りを迫られている。

Japan Airlines Fly Sightseeing Flight With Unused Plane

成田空港カウンターで顧客に対応するJALの従業員(9月26日)

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  「雇用は絶対に守ってほしい」。JALの大田嘉仁元専務執行役員は今年春、赤坂祐二社長にメールを送った。新型コロナで移動が制限され、航空業界への深刻な影響が見込まれたためだ。大田氏は2010年に会社更生法を申請したJALの会長に政府の要請で就任した京セラ創業者、稲盛和夫氏の右腕としてともに再建を主導した。

  仏教徒でもある稲盛氏はJALの企業理念を「全社員の物心両面の幸福の追求」と定めて社員の信頼を勝ち取り、急激に収益力を回復させて破綻から2年半余りで再上場にこぎつけた。コロナ禍で巨額の赤字を見込む中、希望退職を公表したANAホールディングス(HD)と違ってリストラには手をつけていない。

JAL、今期最大2700億円の純損失見込む-コロナ禍で再上場後初 (3)

  大田氏は都内でのインタビュ-で、JALでは業績回復後も雇用維持を重視して給料を上げてこなかったとし、「すぐにそれで希望退職とかをすると従業員を裏切ることになる」と経営陣の対応を評価。赤坂社長からの返信も雇用維持の重要性について概ね同意する内容だったと明らかにした。

  世界規模の新型コロナ感染拡大で、各国が厳しい渡航制限を続ける中、航空会社の収入は激減。海外では英ヴァージンアトランティック航空など経営破綻に追い込まれる会社も出ている。

  欧州最大手のルフトハンザ航空はドイツ政府の救済措置で90億ユーロ(約1兆1370億円)の資本注入を受け、エールフランスKLMもフランス、オランダ両政府から金融支援を得た。韓国では大韓航空がアシアナ航空を買収する方向だ。シンガポール航空やタイ国際航空も早期退職を募集するなど多くのエアラインが生き残りに懸命だ。

Japan Air May Have Its Turnaround Plan Approved Next Month

稲盛和夫氏(都内、2010年7月28日)

Photographer: Toshiyuki Aizawa/Bloomberg *** Local Caption *** Kazuo Inamori

  一方、JALやANAHDなど国内航空会社は金融機関の融資や空港使用の引き下げなどで支援を受ける一方、公募増資や劣後ローンによる財務強化を図っている。JALでは人員のグループ外への出向や、新規事業による売上高創出などを通じ、グループで約3万5000人の従業員の雇用に手をつけず未曽有の危機を乗り切ろうとしている。

みんなで一緒に

  経営破綻した経緯からJALは他社に比べて債務が少ない優位性があるほか、部門ごとの採算性を重視する稲盛氏の指導の下で営業利益率10%を超える航空業界でもまれな高収益企業に変貌を遂げた。

  大田氏は、昔のJALは無責任体質がまん延し、社員同士の足の引っ張り合いで匿名の内部告発文が飛び交うような「腐っている」状態だったという。

  再建の成功は「人としての正しさ」や「利他の心」を説いて団結を求めた稲盛氏の思想に社員が共鳴したためだとし、少し苦しくなったからといって「労働者はコストだからいらん、みたいなことを言い始めたら一体感がなくなる。調子が良くなった時にあの時は仕方なかったからごめんね、と言っても誰もついてこない」と指摘する。

Yoshihito Ohta

京セラでは長く稲盛氏の秘書を務めた大田嘉仁氏

Source: Yoshihito Ohta

  大田氏によると、稲盛氏は経営理念に背いて人を切って生き残るぐらいならばむしろ倒産を選ぶとの考えを持っているという。巨額の負債を抱えて行き詰っていた破綻前と比べると今はまだましだとし、雇用を守って「それでもしつぶれるんだったら、もうみんなで一緒につぶれて行こう」というぐらいの厳しさで経営に当たるべきとした。

  JAL広報担当者は雇用維持の理由について「需要回復時の反転攻勢に備えて安全やサービスの質を高めるための教育や訓練を実施する。また、これまで携わることのなかった業務に就く機会を設け、社外のノウハウ取得やマルチタスク化など、今後に活かせるように時間を有効活用する、というのが基本的な方針であるため」とコメント。需要減が長期化した場合でもリストラは「現時点では考えていない」とした。

長期化なら命取りにも

  東京大学名誉教授で会社論に関する著書もある岩井克人氏はJALのスタンスについて、倒産を経験したため人材の確保などに苦労したことが影響しているのではと指摘。近年は事業拡大でANAに遅れを取っていたことが今になって「少し幸いして雇用を守るということが可能になったという皮肉な面もある」と述べた。

  株主利益の最大化が会社の唯一の目的とされてきた米国でも最近は従業員などステークホルダーの利益も配慮すべきとの考え方が芽生え始めており、JALの姿勢は日本の会社の典型であると同時に世界の潮流になるかもしれないと話した。コロナ禍が長期化した場合はそれが命取りになる可能性もあり、「ある意味賭けだ」と述べた。

  政府の成長戦略会議の有識者メンバーでもある竹中平蔵慶応大学名誉教授は、苦境に置かれる国内航空大手について資本注入や合併も視野に入れるべきだと主張している。

  このことについて大田氏は、日本の経済規模を考えると航空会社は2-3社は必要とし、統合で1社独占になると弊害も大きいため「競争で切磋琢磨していくのが正しい」と独立を維持すべきとの考えを示した。ANAHDも生き残る力は十分にあり、コロナ後には日本の2社の存在感が高まるのではないかと述べた。

  新型コロナが今後も収束せず、「本当に最悪の事態になったらそれはそうは言ってられないときもあるのかもしれない」としながら、「今から考えても仕方がない。乗り切れると。右往左往せず腰をどんと据えてやった方がいい」と話した。

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