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経済の先行き握るシニア消費に陰り、コロナ不安で「原宿」も閑古鳥

  • GoToトラベルの一時停止で景気回復ペースはいったん鈍化へ
  • 65歳以上が個人消費支出全体の約4割を占める

新型コロナウイルス感染症の拡大防止と社会経済活動の両立を目指す菅義偉首相だが、足元で感染者数が過去最多を更新する中、首相肝いりの観光支援事業「GoToトラベル」は一時停止の決断を迫られた。

  今後数カ月にわたって景気回復の足取りを維持するためには、菅首相は同世代のシニア層にもっと消費を増やしてもらう必要がある。人口の約29%、個人消費支出の約4割を占める65歳以上の高齢者は、日本経済にとって最大の原動力だからだ。

   

Sugamo Shopping Area As Japan’s Stimulus Success Lies in Hands of Senior Spenders

巣鴨地蔵通り商店街

Photographer: Soichiro Koriyama/Bloomberg

  ただ、新型コロナ感染による死者数の割合が最も多いのもこの年齢層だ。政府の追加経済対策では、ポストコロナに向けた脱炭素社会の実現や官民のデジタル化など経済の構造転換に予算が重点的に配分されているが、短期的には高齢者が近所や国内旅行で安心して消費活動できる環境を整えられるかどうかにかかっている。

  GoToトラベルの一時停止で景気回復ペースはいったん鈍化するだろう。その一方、同事業は来年6月末まで延長することが決まっており、シニア層の貢献によって同事業がいずれ景気回復を後押ししてくれることを政府はなお期待している。

  GoToトラベルでは旅行代金の最大35%割引に加え、15%相当の地域共通クーポンが付与される。普通なら時間に余裕のある健康な高齢者がこの制度の恩恵を最も受けるだろう。もっとも、コロナの新規感染者数が過去最多を更新し、重症者も増える中にあっては、同事業の一時停止が高齢者に外出を一層思いとどまらせることになりかねない。

高齢者の影響力高まる

年齢階級別の消費支出の割合

出所:総務省

  大阪市老人クラブ連合会の野口一郎理事長(79)は、大阪府知事が高齢者に不要不急の外出自粛を呼び掛けた翌日の電話インタビューで、「若い人なら大丈夫だが、やはり感染したら自分たちの身が危ないと思っている」と語った。知人の1人がコロナ感染症で亡くなったという。

  国内のコロナ感染者数は14日までの1カ月で56%増加し、12日には初めて3000人を超えた。国立社会保障・人口問題研究所によると、12月7日時点でコロナ感染による死者数の96%が60歳以上となっている。

  第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、高齢者が消費を一時停止ということになると、「その影響はかなり大きい」と指摘。「高齢者は自身が一番危険だということを認識している。医療体制が十分でない中でのこういった発表はかえって不安を増幅させる」と語った。

  年末年始は消費や帰省などの旅行が活発になる時期だ。足元の感染者数の増加、そしてGoToトラベルの一時停止は最悪のタイミングで訪れた。

「おばあちゃんの原宿」

  「おばあちゃんの原宿」として知られる巣鴨地蔵通り商店街。ここで創業50年のカバン店を家族経営する木崎禎一氏によれば、客足はコロナ感染拡大を機に急激に減少した。今年の売り上げは前年を約70%下回っているという。 

  同商店街の振興組合で理事を務める木崎氏は、「一番厳しいのはいつ終わるのかが全く分からないところ」だと言う。公衆衛生に気を配る中、「自分が感染するかどうかよりも経済の方が心配だ」と語った。

Sugamo Shopping Area As Japan’s Stimulus Success Lies in Hands of Senior Spenders

巣鴨地蔵通り商店街振興組合の木崎禎一理事

Photographer: Soichiro Koriyama/Bloomberg

 

  前回の感染増加の波があった9月、65歳以上の消費支出は前年同月比12%余り減少した。若い世代の消費がほぼ変わっていないところを見ると、高齢者の方が感染者増加のニュースに敏感なことがうかがえる。

  日本銀行は10月の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、2020年度の経済成長率見通しを下方修正した。景気回復のペースが緩慢なものにとどまる可能性が高い理由として、「高齢者らを中心に慎重な支出行動が続く」と説明している。
 
  個人消費は国内総生産(GDP)の5割超を占める。10-12月期は50年ぶりの高い成長率を記録したものの、それでもなお20年に失われた成長のほぼ半分は取り戻せていない。

  東北大学大学院高齢経済社会研究センター長の吉田浩氏は、旅行は多くの高齢者が楽しめる主要な経済活動だと指摘。一般的に高齢者がスポーツカーやぜいたく品をどんどん買ったりしないように、「消費は余暇と結びついている部分が大きい。外出をしないと急に支出が下がってしまう」と述べた。

  吉田氏によれば、高齢者への感染警戒が連鎖反応をも引き起こしている。感染リスクを抑えるために若者も行動自粛を求められるほか、医療提供体制の拡充が求められることで、「労働の増大を通して日本経済が重荷を負うということが起きている」と語った。

原題:
Japan’s $707 Billion Stimulus Hinges on Elderly Spending Money(抜粋)

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