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「3つの密」回避でコロナ引き続き抑制できるか-感染拡大で正念場

  • コロナ感染拡大抑制に寄与も押谷仁教授は懸念-インタビュー
  • 自粛疲れか、東京都含めコロナ新規感染者が最多更新

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新型コロナウイルスがどう広がるのかを巡り、東北大学大学院医学系研究科・微生物学分野の押谷仁教授が春の段階で示した「3つの密」の理論には当時、冷ややかな反応があったものだ。だが今では、コロナ感染拡大抑制に密閉・密集・密接を避けるべきだとのアプローチの有効性を世界が認識するようになっている。

  このアプローチは、高齢者の多い日本がロックダウン(都市封鎖)せずに多数の死者を出さずに済んできた状況に寄与したが、気温が低くなる季節を迎え、その真価が問われている。押谷氏は感染拡大が急速に広がる事態への対応準備が日本は整っていないのではないかと危惧している。

  押谷氏はブルームバーグ・ニュースとの英語によるインタビューで、「人々の懸念が薄らいでいる」と述べ、「重症例や死者が急激に増えるかもしれない」と懸念を示していた。

Japan's Leading Virology Expert Hitoshi Oshitani Interview

押谷仁教授

Photographer: Shoko Takayasu/Bloomberg

  コロナ感染がどう広がっていくかへの洞察力のおかげで、押谷氏は「日本モデル」を世界に紹介する大使的存在となった。他国が手洗いや接触回避を重視したり、マスク着用の是非を議論したりする中、押谷氏は春の段階でクラスターの追跡と「3密」回避の徹底に集中した。その結果、日本の感染者および死者の数は米国や多くの欧州諸国を大きく下回っている。

  ただ、ここにきて、新たな感染者数は記録を更新している。19日の全国の新たなコロナ感染者数は過去最多を更新。東京都も同日、534人の感染者が確認されたと発表し、前日の493人に続き2日連続の過去最多となった。

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  押谷氏はパンデミック(世界的大流行)という未知の脅威で人々が習慣を変えざるを得なかった春に比べ、今は人々の行動に影響を与えるのが難しくなってきていると不安視する。しかも日本には外出禁止を強制できる法律はなく、あくまで自粛頼みだ。

  押谷氏は「このウイルスが向こう数カ月、恐らくは向こう数年、消えることはないと思うので、向き合っていく最善の方法を見つける必要がある」と発言。「この最適解を見つけることにわれわれは引き続き苦労している」という。

  当初から押谷氏は、新型コロナが重症急性呼吸器症候群(SARS)とは違って、撲滅できるものではなく制御することしかできないとの立場を取っていた。

  政府分科会メンバーで東京大学医科学研究所・公共政策研究分野教授の武藤香織氏は2月末に専門家会議から見解を出した際、「3密」の原型に当たる表現を入れたが、それを提案したのは押谷氏だったと説明。同氏が「このウイルスをたたきつぶしても仕方がなく、人間の側が現在の文明のあり方を根底から見直す必要性にも言及されていた」と振り返った。

Tokyo Cases Hit Record as City Plans to Raise Virus Alert

高齢化社会の日本の感染者は計12万人余り、死者は2000人未満

Photographer: Soichiro Koriyama/Bloomberg

  押谷氏は西浦博北海道大教授(当時)とともに、保健所やクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」からのデータを分析したり世界保健機関(WHO)の関係者と協議しながら、新型コロナが感染する経路の可能性を突き詰めていった。また、自身がWHOで感染症研究を行った経験から、コロナも飛沫や接触で通常感染するインフルエンザ同様にウイルスが至近距離なら空気中に漂い感染するのではないかと考えた。こうして、換気の悪い室内ではうつりやすいとして、3密の戦略が生まれた。WHOが空気感染の可能性を排除できないとしたのは7月に入ってからだ。

  国立保健医療科学院健康危機管理研究部部長の斎藤智也氏は押谷氏の理論は当初、同氏の「想像」や「妄想」と多くの人に受け止められていたと述べる。

  だが今や、押谷氏は公衆衛生の世界で講演者として引っ張りだこだ。先週は200人を超える米国の州・地方当局者を前にウェブ講演で日本のコロナ追跡方法についてのデータを共有した。世界中のメディアからのインタビュー依頼も引き受けている。

  そんな押谷氏が真剣に危惧するのは、コントロールできないほどの感染拡大を引き起こしかねないクラスターを見逃すことだ。クラスターは実際、国内の多くの場所で発生しつつあり、感染拡大抑制のため3密を回避するモデルが限界点に達しかねない恐れがある。そうなっても強制措置を発動できない日本では、人々がコロナ疲れを振り切り自粛してくれることに期待するしかない。

  「1-2週間で症例数はいつでも急増しかねない」と押谷氏は話し、「ある一定の水準に到達するまで待てば、遅すぎるかもしれない」と語った。

原題:The Scientist Who Saved Japan Once Now Battles a New Virus Surge(抜粋)

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