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コロナに翻弄される小さなラーメン店、値上げか閉店か苦渋の選択も

  • 飲食店の倒産件数増加、コロナ感染拡大で最も打撃受けている業種
  • 需給に基づく変動価格制、ラーメン店の事業継続の助けになる可能性

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新型コロナウイルス感染拡大を受け客席のソーシャルディスタンス(社会的距離)確保など感染予防対策が求められる中、ラーメン店など小さな飲食店の一部は、値上げか閉店かを検討せざるを得ない状況に追い込まれている。

  新型コロナの大流行は、肘と肘がぶつかり合うような狭い店舗で、素早く手頃な価格で食事を提供するというバランスの取れたビジネスモデルに大きな打撃を与えている。一部の経営者が価格設定で工夫を凝らす必要性をようやく受け入れつつある一方、顧客に値上げを強いるよりも閉店を選んだ経営者もいる。

  

Japan Deflation Economy

「ラーメン王 後楽本舗」渋谷店

  依然として値上げに消極的な飲食店のこうした姿勢は、日本銀行が大規模金融緩和を7年余り続けてきた今でも、消費者や企業のデフレマインド払拭(ふっしょく)が容易ではないことを示唆している。主要な消費者物価がなお下がり続け、デフレ回帰を巡る懸念が再燃する中で問題となりかねない。

  コロナ禍で多くの飲食店が生き残りへの糸口を模索しているが、小さなラーメンチェーンの後楽本舗もそうした店の1つだ。

  後楽本舗は東京・新橋で20年余りにわたり豚骨しょうゆベースのスープに細麺を合わせた岡山中華そばを提供してきた。ここで勤務していた斎藤義久さん(61)によると、昨年末の売り上げは好調で、座席数26席で1日に500杯近く出た日もあった。

  

Japan Deflation Economy

ソーシャルディスタンスを確保する店内(後楽本舗・渋谷店)

Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  新型コロナ感染拡大で状況は一変した。5月後半まで続いた緊急事態宣言の下、新橋店は短縮営業を余儀なくされた。営業を続けるため斎藤さんの給与は最大40%程度減少したが、コロナ後の新たな状況に対応するために値上げを検討したことは全くなかったという。  

  斎藤さんは「値上げは選択肢になかった」と指摘。「お客さんもコロナによって経済的に影響を受けているかもしれない。それにも関わらずうちに来てくれているのかもしれない。そんな人たちにうちの苦しい状況を転嫁するのはおかしい」と打ち明けた。

  8月28日の営業を最後に新橋店は閉店した。

都内のラーメン価格はこの10年ほぼ変わらず

出所:総務省

備考:各年12月のデータを基に作成(2020年除く)

  新型コロナ感染拡大による打撃を最も受けているのが、後楽本舗やバーなどの小さな飲食店だ。こうした店は、座席数の制限などによる売り上げ減少や感染予防対策に伴うコスト増に苦戦しているが、需要の急激な落ち込みにも見舞われているため倒産のリスクが最も高い。

  帝国データバンクによると、日銀の企業資金繰り支援プログラム拡大や政府の大型景気対策が奏功し、4ー9月の倒産件数は前年同期を下回った。ただ、飲食店の倒産件数は増え続けて全体の約10%を占め、業種別で最多だった。東京商工リサーチによると、1-8月には飲食店の休廃業は前年比増加し1221件に上った。

          

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一風堂の「白丸元味」

Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

          

  日銀出身の渡辺努東京大学経済学部長は、「ほとんどの企業は価格を動かせないと考えている。今日のビールが100円なら明日も100円でしかありえない。それを前提条件にしてどう経営が成り立つかという発想でものを考えている」と説明。「いろいろなところで節約して、電気を消して、賃金も抑えてと、良い経営者はどんどん後ろ向きになっていく」と語った。

  経費をぎりぎりまで切り詰める中、一部の飲食店は新たなアプローチに生き残りをかける。

  東京・千駄ヶ谷の食事処asatteを経営する田中一央さんは5月末、経営の立て直しを思案して憂鬱(ゆううつ)な夜を過ごしていたとき、1000円前後のランチセットを混雑する時間帯に1500円に値上げし、午後2時半以降は800円で提供するというアイデアを思いついた。従業員はこの変動価格制を不誠実だとして猛烈に反対したものの、田中さんは店員ではなく自らのアイデアであることを明確にする文章を入り口に貼る条件と共に押し通した。

  田中さんは、感染症の収束が見通せない中で「ただ人数制限をするとジリ貧になるのは目に見えていた」と指摘。「値段の調整がこの危機に対応するための道具となった。コロナがなければこんなことは考えもしなかった」と述べた。

 

日本とユーロ圏のインフレ率はゼロ%を下回る

 

  変動価格制を選んだのは田中さんだけではない。主要な消費者物価が3月以降上がっていない国内で値下げ一辺倒ではなく価格の頑健性を求めている政策担当者に一筋の希望を与える芽が出始めている。  

  ラーメン専門店「一風堂」などを運営する力の源ホールディングスは、コロナ感染予防対策として店内の客数を平均約60%程度に制限している。

   

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一風堂の厨房

            

  同社広報グループの中村緑氏によると、営業再開後の売り上げがなお前年の5割程度にとどまる中、7月下旬に一部のセットメニューの値上げに踏み切った。一方、翌月には低価格志向の顧客に対応した新たなラーメンセットの提供を開始した。

  中村氏は「コストの上昇やコロナの影響で価格を維持するのは非常に大変だが、その中で当社としては選択肢を顧客に提供している」と語った。

原題:Tokyo’s Tiny Noodle Bars Close Up Shop Rather Than Raise Prices(抜粋)

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