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留学行けない学生通うNY大の中国校、「学問の自由」巡り環境変化も

  • 「NYU上海」はニューヨーク大と華東師範大学の共同事業
  • 共産党の役割強化との指摘もある「公民教育」、NYU上海で必修

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中国蘇州出身のニベア・スンさんは今年秋、マンハッタンのグリニッチビレッジでの生活を体験しながら、ニューヨーク大学(NYU)で心理学とジャーナリズムを学ぶことを楽しみにしていた。だが19歳の彼女が今通うのはウィーワークの貸しスペースを使った上海の教室だ。新型コロナウイルス感染症(COVID19)の渡航規制で米国の査証(ビザ)が取得できない学生向けにNYUが用意した新しいプログラムの授業を受けている。「最初は少し違和感」を覚えたスンさんだが、今は慣れつつあるという。

  NYUは中国の華東師範大学と2012年に始めた共同事業のおかげで、上海で学生を受け入れることができる。学生2000人近くが学ぶ「NYU上海」はNYUとは別の学位授与機関。教員の一部はNYUと共通だが、入学手続きと運営は独自で、多くの学生を交換留学生としてニューヨークに送り出している。一時的に2800人余りを追加で受け入れているが、その大半がニューヨークに留学するはずだった中国人学生だ。

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NYU上海はニューヨーク大学と華東師範大学との共同事業

写真家:Yan Cong / Bloomberg

  中国以外のアジア地域では、外国の大学が現地の大学や民間企業、投資家と共にキャンパスを設立して収益を得る。だがこうしたビジネスモデルは、教育面での政府のガードが堅い中国ではうまく機能しないと、国際教育コンサルティングを手掛けるシンガポールのアルムノのパートナーであるマイケル・バートレット氏は言う。

  欧米の多くの大学は、代わりに中国の教育機関と連携する。スンさんのように出国できない学生の受け入れで、こうしたパートナーシップは、外国の大学がかなりの収入を維持するのに寄与している。一般的に学資支援の対象にならない中国人学生は授業料全額を支払うのが普通だ。NYU上海の学生は夜中に地球の裏側で行われている授業に「ズーム」を介して出席する必要もない。COVID19の感染がおおむね封じ込まれている中国では対面で授業が行われている。

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NYU上海のラウンジ

写真家:Yan Cong / Bloomberg

  経営学修士課程入学審査協議会(GMAC)の調査ディレクター、ラウル・チョウダハ氏によれば、米国では18-19年度、外国人学生110万人のうち3分の1が中国からで、こうした中国人学生は米国の大学に140億ドル(約1兆4500億円)の収入をもたらした。中国人留学生が減れば、すでに財源に苦しんでいる米国の高等教育にとっては痛手だ。

  ただ、昨年度予算が35億ドル(病院・医学部を除く)だったNYUにとって、上海キャンパスの重要性は収益を生むかどうかではなく、コロンビア大学などアイビーリーグ校に対抗して世界的評判を高め、有能な学生を確保できるかどうかだ。NYU上海はNYUにある程度の資金を送り、NYUが交換留学生を受け入れる際にかかる費用を負担しているが、財政的に独立し、利益の共有もないと説明する。

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2000人近い学生がNYU上海に通う

写真家:Yan Cong / Bloomberg

  9月にはニューヨークのジュリアード音楽院が天津ジュリアード学院を開校。また中国教育省はジョージア工科大学と天津大学のパートナーシップを3月に認可し、深圳校が来年開校予定だ。

  だが、NYUロースクール米国アジア法律研究所を設立し今は教授職を退官し名誉職に就いているジェローム・コーエン氏は今年1月、共産党の役割強化に向け変更された大学認可要件に触れ、中国政府の統制強化による学問の自由への脅威について自身のブログで警告。中国に投資している外国の大学は「中国における現代教育の現実を世界のために暴くべきだ」と呼び掛けた。

  NYU上海は昨年、中国人学生に「公民教育」の受講を義務付けた始めた。中国の他の大学で行われている必修の政治教育と同様の課程だ。「中国で中国公民として生き残るためには政治的リテラシーを持つ必要がある」と話す華東師範大学の共産党委員会書記を務めた童世駿NYU上海校長によれば、公民教育は「中国人学生のための中国の教育の本質的部分」だ。

  恩恵はあるものの、中国との関係を再考した大学もある。米コネティカット州ミドルタウンにあるウェズリアン大学は19年、上海での共同事業を始める方針を取り下げた。その直前、同大学長は「学問の自由と多くの関係する問題を巡る深刻な懸念」に言及していた。オランダのフローニンゲン大学は18年、教職員と学生から成る大学評議会内のサポートが不十分だとして中国キャンパスの計画を破棄した。

  ボストンカレッジ国際高等教育センターを創設したフィリップ・アルトバック氏は、中国と欧米諸国の関係が悪化し、共産党の総書記でもある習近平国家主席が高等教育に対する政府の統制を強める中で、欧米と中国の共同事業にとっての環境が悪くなりつつあると指摘。中国で事業拡大を考えている大学は「ずっと慎重になるだろう。外国の機関と中国の大学との関係の在り方は大きく見直されるだろう」と語っている。

原題:NYU, Duke Retain Lucrative Students With China-Based Campuses(抜粋)

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
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