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トランプ氏はいかにして米国を失ったか-ジレンマ抱えた共和党

  • 米国の有権者、CEOを更迭したが取締役会はそのまま残した
  • 共和党の政治からおとなしく身を引くつもりのないトランプ氏

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ドナルド・トランプ氏は結局、最も望んでいたものを手に入れた。自分が主役の大統領選挙だ。各州で自身への不信が広がっている兆候にもかかわらず、かつてテレビ番組で全米の人気を博したトランプ氏は直観に従って同氏が描く米国像が本物だと有権者を説き伏せようとした。

  トランプ氏が集会や演説、広告、ツイートを通じて描いてみせたのは、新型コロナウイルスが消えつつあり経済が力強く復活、黒人とヒスパニック系の国民はかつてない豊かさを享受し、郊外に住む女性は大統領の保護を歓迎し、大統領の敵は自分を恐れている、そんな米国だ。米国民はそれがさらに4年間続くことを待望するはずだった。

  しかし 有権者はそんな虚像を信じなかった。前副大統領ジョー・バイデン氏の勝利は、振り返ってみれば最初から明らかだったことを浮き彫りにした。ほとんどの有権者にとって、トランプ氏の米国像は現実ではなかったし、望んでいるものでもなかった。 

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記者会見するトランプ大統領(2018年の感謝祭)

写真家:Mandel Ngan / AFP / Getty Images

  それでも、有権者はトランプ氏と共和党の両方にノーを突き付けることはしなかった。批判の矛先は主としてトランプ氏に向かった。民主党は下院での過半数を維持したが、議席数は減らした。上院は共和党が主導権を保持しそうな情勢だ。議会の構図は選挙前と変わらないことになる。

  つまり、米国の有権者は最高経営責任者(CEO)を更迭したが、取締役会はそのまま残したということだ。

新型コロナが「全てを変えた」

  トランプ氏は米国民の大多数の支持を得たことがない。2016年の選挙では得票数でヒラリー・クリントン氏に及ばなかったし、大統領就任後の支持率が50%を上回ったこともない。得意の貿易と移民の問題では、世論ははっきりとトランプ氏に背を向けた。数は少ないが声の大きい熱烈な支持者らの情熱をかき立てることはできても、反対派の反トランプ感情は根が深いことを選挙結果が示した。

  米国民23万6000人が新型コロナウイルス感染症で死亡し、今も1日に1000人が命を落としている。この危機に立ち向かう意思をほとんど示さない大統領に有権者は幻滅した。トランプ氏が制御できず無視しようとした新型コロナへの国民の恐怖が、トランプ氏のキャンペーン戦略を崩壊させた。

  カリフォルニア大学ロサンゼルス校のリン・バブレック教授(政治学)は、「新型コロナがこの選挙の全てを変えた。それ以外の何かが2020年の焦点だと考えるのは妄想にすぎない」と話した。

  

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ドライブイン形式の集会で演説するバイデン氏

写真家:Andrew Harnik / AP Photo

  トランプ氏の経済政策も支持を失った。新型コロナ危機の前の世論調査は、有権者が経済運営でバイデン氏よりトランプ氏を信頼していることを示していた。しかしそのリードは投票日までには消失。トランプ政権の代表的な成果である2017年の税制改革は、中産階級よりも裕福な個人や企業に利益をもたらすもので、広い層から支持されることはなかった。

Trusted to Better Manage the Economy

Who would better handle the economy as president?

Source: CNN polls.

  トランプ氏の貿易戦争にうんざりし、選挙前に追加景気対策を成立させられなかったことに失望し、ウォール街は反トランプ氏に回った。センター・フォー・レスポンシブ・ポリティクスのデータによると、証券・投資業界の従業員からの寄付はバイデン氏が7400万ドル(約76億5000万円)と、トランプ氏の1800万ドルを上回った。

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カマラ・ハリス氏とジョー・バイデン氏、新型コロナについて専門家の説明を受ける

写真家:Carolyn Kaster / AP Photo

  トランプ氏はバイデン氏に「過激派」や民主党左派に利用されている社会主義者のレッテルを貼ろうとしたが、これはバイデン氏の実績にそぐわず、有権者はバイデン氏の経歴をむしろプラスと受け止めた。トランプ氏が医師や科学者を攻撃し新型コロナ感染予防措置を公然と無視する行動の前に、バイデン氏のキャンペーンが時に盛り上がりに欠けることなど問題ではなくなった。

  無党派のクック・ポリティカル・リポートのアナリスト、デービッド・ワッサーマン氏は「バイデン氏は相手を自滅させるテクニックの上級者だ」と述べた。

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ウィスコンシン州でのトランプ氏集会

写真家:Mandel Ngan / AFP / Getty Images

  トランプ氏は、前回選挙で勝利の原動力となったミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアの3州を失った。同氏は最初から、敗北の準備をしていたかのようだった。インフラ整備やラストベルト(斜陽化した重工業地帯)の再生など前回選挙で約束した政策を実現できず、さらに新型コロナでリセッション(景気後退)に陥った経済への支援措置が7月に期限切れとなった後に新たな景気対策を成立させるために真剣に取り組まなかった。

  代わりに、任期の最後の1年に陰謀説を広めたり米国を分裂させる政策を推進したりした。黒人のジョージ・フロイドさんが警官に殺害された後、人種差別撤廃を求めるデモ隊を、自身の写真撮影のために連邦治安当局を投入してホワイトハウスすぐそばのラファイエット広場から排除したことも反感をあおった。

Trump Visits Church Across From White House That Was Hit by Fire

聖書を掲げるトランプ大統領(6月1日)

写真家:Shawn Thew / Bloomberg

  農業地帯の有権者、特に大学を出ていない白人男性のトランプ氏への支持が、民主党の上院奪還を阻んだが一方で、都市部と郊外では有権者の民主党への傾斜があった。特に、郊外に住む大卒の白人有権者はトランプ氏に強い反感を持った。

時代遅れの認識

  トランプ氏の失敗の1つは、これらの有権者に関する基本的な誤解だ。郊外の「主婦」たちは暴動を恐れており、都市部からの黒人の流入が不動産価格を下落させるのを心配しているというイメージは、時代遅れで間違っていた。

  共和党指導部は今後1年、トランプ氏敗北の理由と党としてどう対応すべきかの議論に明け暮れるだろう。しかしトランプ氏の敗北後も、支持者らに共和党が新しい道を行くべきだと納得させるのは容易ではないだろう。トランプ氏は負けを認めようとはせず、複数の州で票の集計を中止させようとした。これは同氏が共和党の政治からおとなしく身を引くつもりなどないことを明瞭に示している。

  共和党の存在意義を巡るジレンマはそこにある。前へ進むためには共和党指導者らは最終的に、トランプ氏とその支持者と共にあり続けるか、有権者が選択したように同氏に別れを告げるかを決めなければならない。

Black Lives Matter Trump

「ブラック・ライブズ・マター」のスローガン(ニューヨークのトランプタワー前)

Photographer: David Dee Delgado/Getty Images

原題:How Donald Trump Lost America(抜粋)

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