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アントIPO中止、フィンテックの世界的課題も浮き彫り-金融摩擦で

  • 技術革新ペースが速く、当局追い付けず-アントの件はその点も反映
  • 当局はイノベーション促進とシステミックリスク管理の両立に苦慮

新興フィンテック企業が中央銀行や伝統的な銀行業の領域を脅かしており、世界的に金融摩擦が表面化しつつある。中国のアント・グループによる最大規模の新規株式公開(IPO)に地元当局が土壇場で待ったをかけたのはそれを示す最も劇的な事例となった。

  アントIPOの中止は中国特有の国内事情を示す手掛かりであるにとどまらず、イノベーション(技術革新)のペースに監督当局が世界的に追い付けていないことも反映している。フェイスブックの独自仮想通貨「リブラ」プロジェクトやドイツのワイヤーカード破綻など警鐘は鳴らされており、対応の必要性は増している。

Ant Group Headquarters as Fintech Giant Plans $17.5 Billion Hong Kong IPO

浙江省杭州にあるアント・グループ本社

撮影:Qilai Shen / Bloomberg

  国際決済銀行(BIS)のカルステンス総支配人は今週、こうした課題に言及。「産業革命で経済の構造変化が生じるのに1世紀かかったが、技術の進歩でこれがほんの数年で起きている」と指摘した。

  カルステンス氏は2日に開かれたフォーラム「香港フィンテックウイーク」で、「ビッグテックは小さ過ぎて気にもならない存在だったが、数年後には大き過ぎて無視できなくなった。今では大き過ぎてつぶせないところまできている」と述べた。

Online Boom

While total retail sales fell this year, online sales were up almost 10% in the year through Sept.

Source: China's National Bureau of Statistics

  中国ではデジタル決済や金融サービスが普及しており、日常生活にも浸透している。会社員はQRコードを読み取って朝のコーヒーや昼食の代金の支払いを済ます。今では小売りの購入全体の約30%がオンラインで行われ、春節(旧正月)連休に家族や友人に配るお金「紅包」もデジタル決済だ。

  実際、中国ではアリペイ(支付宝)やウィーチャットペイ(微信支付)など民間主導の技術を活用してキャッシュレス化が大幅に進んでいる。膨大なデジタル利用者の基盤を使って融資から決済に至るサービスを提供するアントは今週、350億ドル(約3兆6300億円)という史上最大規模のIPOを実施し、金融イノベーションにおける中国のリーダーシップを誇示する機会とするはずだった。

  こうしたフィンテックの役割拡大は高い評価を受けてきた。中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁はフィンテック企業が金融システムに持ち込んだ「効率性」に言及。一方、BISが公表した研究論文は経済に圧力がかかった際にフィンテック企業が規模が小さめの企業に対していかに資金を供給できるかを示した。

People's Bank of China Governor Yi Gang Exclusive Interview

中国人民銀行の易綱総裁

撮影:Qilai Shen / Bloomberg

  だが、独立した決済事業者やデジタル通貨のクリエーターから生じる課題や危険性もある。それは当局の管理が及ばないという点であり、中国だけでなく国が協調して対応に乗り出している。

  最終的に規制を明確化すればフィンテックの拡大が妨げられることはなく、プラスに作用する可能性がある。金融安定理事会(FSB)メンバーを務めるオランダ中銀のクノット総裁は「規制が一定の信頼を提供する」と語る。

  しかし、監督当局がイノベーションのペースに追い付くようになるまで、アントのIPO中止やワイヤーカードを巡る不祥事のような事態が再び生じる可能性は高い。

  米財務省の元中国専門家で、現在はTCWグループのアナリストを務めるデービッド・ロービンガー氏(ロサンゼルス在勤)は、「投資家にとっての教訓は、金融監督当局がイノベーションの促進と規制逃れ・システミックリスク増大の管理との間で適正なバランスを取ることにいまだに苦慮しているという点だ」と指摘。「一方向に過度に振れれば最終的には揺り戻しが起きる」と述べた。

原題:
Ant’s Canceled China IPO Highlights Global Fintech Challenge(抜粋)

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