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【コラム】銀行業界、在宅勤務の限界にぶつかる-マルティヌッツィ

ウォール街とロンドンの金融街シティーの大手金融機関は、新型コロナウイルス後の世界(そこにたどり着けると仮定して)でどう業務を進めていくか見直している。変化が起きるのは間違いない。新型コロナ感染が収束したとしても、オフィス以外で働くことはもはや例外ではなくなるだろう。銀行は都市部での多額の不動産コストを節約することを考え、従業員はより良いワークライフバランスを考えることになるだろう。

  ニューヨークやロンドンのビジネス街が比較的空いているのを目の当たりにすれば、この変化を地殻変動だと考えるのも無理はない。しかし、取締役会が持つ「通常業務」の概念の回復力を過小評価すべきではない。世界最大手行の幾つかと話してみると、新しい働き方は旧来の働き方とそれほど変わらないかもしれないという印象を受ける。

  新型コロナによって急速に広がった在宅勤務により、人はオフィスでの方が一生懸命に働くという神話は崩れ去った。台所や空き部屋に急場しのぎで作ったデスクからでも、重要なビジネスはかなりうまく行われた。投資銀行は春先の証券取引の急増にも目立った問題なく対処した。

  このことは、ミリ秒単位で競う金融の最先端分野でさえ、必要ならリモート勤務で対応可能であることを示すものだ。ビデオ会議アプリや超高速インターネット接続などのテクノロジーは前例のない需要急増に十分持ちこたえた。

  一部の銀行は新型コロナ時代を迎える前から在宅勤務を促進していた。イタリアのウニクレディトは2014年、コスト削減の一環として週1日の在宅勤務の選択肢を一部従業員に提供した。当初こそ技術的な問題や心理的抵抗も見られたが、最終的には数千人が参加するほどの人気となった。同行は新型コロナとは関係なく、多くの従業員に週2日の在宅勤務を恒久的な選択肢として提供し始めた。

  多くのオフィスワーカーは似たような選択肢を歓迎するだろう。モルガン・スタンレーが欧州の幅広い業界を対象に最近実施した調査では、27%の従業員が週3日ないし4日のリモート勤務を喜んで受け入れることが示された。

  しかし、筆者が話したウォール街の企業によれば、未来の銀行はそこまで融通の利く存在とはならなそうだ。バックオフィス担当者など従業員の10%は常にリモート勤務になるが、ほとんどの銀行員(最大8割)は恐らく、多少の柔軟性を手に入れるだけにとどまるとみられる。週1回もしくは最大で月に1週間までリモートで働くことが認められる程度かもしれない。

  銀行は依然として、多くの職務の担当者がオフィスで働くことを望むだろう。例えば、トレーディングだ。パンデミックで市場が混乱の極みにあった春先でも技術的には在宅での証券取引は可能だったが、規制当局はコロナ後にはトレーダーの監視とコンプライアンスを強化したがると思われる。

  シニアマネジャーもオフィスで働くことが求められそうだ。同僚と物理的に近い場所で働くことで最も恩恵を受ける新入社員も同様だ。オフィス勤務ならマネジャーは若手行員を顧客との会議に同行させるだろうが、ビデオ会議に参加させることは考えにくい。自宅キッチンで合併・買収(M&A)について教えたり、学んだりすることもありそうにない。

  大手行の一部ではすでに、在宅勤務への本格的移行に対する熱意が冷めつつある。UBSグループは、どの時点においてもリモート勤務する従業員の割合は最大で3割強とみている。ウォール街の企業2社と大手人材会社1社も筆者に対し、同様の水準を見込んでいると語った。

  目を見張る数字に映るかもしれないが、多くの銀行員にとってこれは恐らく、柔軟な働き方への自由がわずかに増したにすぎないだろう。グローバル企業3社で勤務した経験のあるシニアバンカーによると、パンデミック以前のオフィスの多くでも出社している人の割合は75-80%程度だったという。

  また、オフィス勤務と在宅勤務のハイブリッド型ライフスタイルが銀行員にとって喜びに満ちた自由を意味するかと言えば、そうではない。監督は必然的に強化されることになる。

  さらに、仕事と家庭の境界線がより曖昧になれば、ワークライフバランスは改善されないどころか、悪化するかもしれない。M&A業務の担当者からコンプライアンスやITの専門家まで、過去5カ月にわたり在宅勤務をしている銀行員の間では、すでに働き過ぎが最大の懸念事項の1つになっている。

  多くの銀行員にとって、ハイブリッド型勤務への移行は革命と呼ぶべきものではなく、進化程度にとどまるのではないか。新たに手に入れる自由には制限が付き物なのだ。 

 (エリザ・マルティヌッツィ氏はブルームバーグ・オピニオンの金融担当コラムニストです。以前はブルームバーグ・ニュースで欧州金融担当のマネジングエディターでした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:
Bankers Hit the Limits on Working From Home: Elisa Martinuzzi(抜粋)

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