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「バイ・マイ・アベノミクス」に投資家は一定評価、安倍政権の功罪

  • 企業統治改革は大きく前進、賃上げや女性活躍の取り組みは道半ば
  • 15年以降売り越しに転じた海外投資家の資金を呼び戻せるかが課題に

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「バイ・マイ・アベノミクス」(アベノミクスは買いだ)。退陣を表明した安倍晋三首相は2013年9月、米ニューヨーク証券取引所で投資家を前にそうスピーチした。12年末から8年近く続いた政権下で株価は上昇し、海外投資家からも一定の評価を得た。一方、労働市場改革などいくつかの課題は道半ばのまま、次の首相に引き継がれることとなった。

  安倍政権の経済政策への評価は「非常に高い」。ドイツ証券の小山賢太郎チーフ・エコノミストはそう総括する。日銀の異次元緩和とそれによる円安、企業統治(ガバナンス)改革、法人税率の引き下げなど「一貫して株式市場、金融市場全体に対して非常にフレンドリーな政策を続けてきた」と指摘。日経平均株価の7日終値は2万3089円95銭と、就任前の2.3倍に上昇している。

安倍政権下で日経平均株価は2倍に

ランプの精ジーニーを呼び出した

  海外投資家が特に評価するのは企業統治改革だ。香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメントの最高投資責任者(CIO)のセス・フィッシャー氏は「企業に変革を促した政策の数々は、いくら評価してもし過ぎるということはない」と最大級の賛辞を送る。

  オアシスのような「物言う株主」は少し前までハゲタカ・ファンドと警戒される存在だったが、今や日本企業の取締役会に社外取締役を送り込むほど市民権を得た。こうした変化の大きさに「アベはランプの精のジーニーを呼び出した。もう魔法のランプには戻らない」とフィッシャー氏は例える。

Japanese Prime Minister Shinzo Abe News Conference

会見で辞任を表明した安倍首相(8月28日)

  企業統治改革は、デフレ下で日本企業の株主資本利益率(ROE)が海外企業の約半分に落ち込む中、安倍政権が国際競争力復活を掲げて仕掛けた目玉政策の一つ。14年に経済産業省が公表した「伊藤レポート」で最低8%のROE達成を求めたほか、15年には上場企業への外部監視強化を目的にコーポレートガバナンスコードを導入。独立社外役員2人以上の選任を求めたほか、海外投資家との対話を強く促した。

  こうした取り組みは企業文化の変革や稼ぐ力の改善に大きく寄与した。12年末に5.68%だった東証株価指数(TOPIX)採用銘柄の平均ROEは19年末には7.48%に改善。欧州系ファンドCVCキャピタル・パートナーズの赤池敦史日本共同代表は、日本企業に「ガバナンスを守って良い仕事をするのが経営者の仕事なんだという意識が根付いてきたのが大きかった」と振り返った。

  一方、海外投資家の資金は15年後半以降、売り越し基調に転じた。レオス・キャピタルワークスのトレーダー、福江優也氏は「海外投資家が注目しているのは経済政策」と指摘。大胆な金融政策や機動的な財政政策などの「3本の矢」で始まったアベノミクスだが、15年に公表した新3本の矢では、子育て支援や社会保障を盛り込むなど社会政策が中心となった。福江氏は「アベノミクス期待で買われていたものが新3本の矢で全て売られた」と分析する。

2015年以降は売り越し基調に

外国人投資家による日本株の売買動向

出所:日本取引所グループ

注:2020年は9月4日時点、Tは兆

海外投資家を呼び戻せるか

  再び日本市場に海外投資家を呼び戻すことができるか。宿題は後継者の手腕に委ねられた。EY Japanの小林暢子パートナーは、安倍首相は賃上げにもっと取り組めたし、それが物価上昇につながったかもしれないと指摘。女性活用についても期待ほどの成果を出せなかったとした。政府は7月、指導的地位に占める女性の割合を20年までに30%にする目標を最大10年先送りする方針を明らかにした。

  ドイツ証の小山氏は安倍政権がやり残したこととして労働市場改革を挙げる。「当初目指した配偶者控除の撤廃や第3号被保険者制度の見直しができず、女性にパート勤務のインセンティブが残ったのは残念なポイントだ。外国人が安定して長期間働ける環境も整っていない。金銭解雇の導入も実現できずに終わった」。労働流動性確保や少子化による労働力不足など従来の課題を解決できなかったと指摘した。

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