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安倍首相が辞意表明、持病悪化で国政への支障考慮-最長政権に幕

更新日時
  • 「病気と治療抱えて国民の負託に自信を持って応えられない」と説明
  • 拉致問題は痛恨の極み、政権のレガシーは国民・歴史が判断
安倍首相

安倍首相

Photographer: Franck Robichon/EPA
安倍首相
Photographer: Franck Robichon/EPA

安倍晋三首相は28日の記者会見で、辞意を正式に表明した。持病の「潰瘍性大腸炎」が悪化したことから政治判断に影響が出るのを回避するのが理由。第1次政権と合わせると8年8カ月にわたって国政を担った歴代最長政権は再び首相自身の健康問題による突然の辞任によって幕を閉じることになった。

  官邸で開いた記者会見で、安倍首相は「病気と治療を抱え、体力が万全ではない」ことから、「国民の皆さまの負託に自信を持って応えられる状態ではなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきではない」と述べた。7月以降の新型コロナウイルス感染拡大が減少傾向に転じ、対応策をまとめたことから「新体制に移行するのであれば、このタイミングしかないと判断した」と説明した。

  在任期間を振り返り、「拉致問題を解決できずに痛恨の極みである」と指摘、憲法改正と日ロ平和条約交渉については「志半ばで断腸の思いだ」と語った。政権の政治的遺産(レガシー)に関しては国民、歴史が判断していくと指摘。政権の成果としては安全保障法制の制定や米国大統領の広島訪問実現、環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)の締結などを挙げた。

  安倍首相の辞意表明を受け、自民党は新総裁の選出に向けた準備に入った。世耕弘成参院幹事長は役員会メンバーの間では後継総裁を速やかに決めることを確認しているものの、具体的な選出方法については二階俊博幹事長に一任したことを記者団に明らかにした。世耕氏は「コロナ禍の中で政治が一刻たりともストップしているわけにはいかない」と語った。

  共同通信によると、二階幹事長は国会議員と都道府県連代表3人による投票で実施する方針を固め、党員・党友の投票は省略する。安倍首相は会見で、次の自民総裁選出方法は「執行部に任せている」と指摘、「後任は私が言うことではないと思う」と述べるにとどめた。

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官邸入りする安倍晋三首相(28日)

  安倍首相は17、24日と2週連続で東京・信濃町の慶応大病院を訪問。17日は日帰り検診を受け、24日は検査結果の結果を詳しく聞くとともに、追加的な検査を行ったと説明した。24日の検査の後、安倍首相は記者団に対し、「体調管理に万全を期して、これからまた仕事を頑張りたい」と意欲を示していた。

  28日の記者会見では6月の定期健診で潰瘍性大腸炎の再発の兆候を指摘され、先月中ごろから体調に異変が生じ、8月上旬に再発が確認されたと説明。24日に病院で診察を受けた際に辞任を判断したことを明らかにした。

  28日午後の東京株式市場では、安倍首相が辞任の意向を固めたと伝わり、日経平均株価の下げ幅は一時600円を超え、326円21銭(1.4%)安の2万2882円65銭で終わった。外国為替市場では一時1ドル=105円台半ばまでドル安・円高に振れた。債券相場も一時急落(金利は上昇)した。 

  後任候補としては党内では「ポスト安倍」に意欲を示してきた石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長、河野太郎防衛相のほか、菅義偉官房長官らの名前が後継候補として名前が挙がっている。共同通信によると、岸田、石破両氏のほか、野田聖子元総務相、下村博文選挙対策委員長が28日、総裁選出馬への意欲を示した。

  最大派閥の細田派会長を務める細田博之元幹事長は安倍首相の辞意表明は「大変残念なことだ」と語った。同派から後継候補を擁立するかどうかについては「そんなことは決めているわけではない」と語った。

  日本大学の岩井奉信教授(政治学)は後継については両院議員総会で決めるのか党員・党友投票を含めた総裁選を実施するかによって変わる可能性があると指摘する。両院議員総会の場合は「今の現場をやってきている継続性」を考慮し、菅官房長官を推す声が「強く出るだろう」と述べた。総裁選を実施する場合は「党員人気でいけば石破元幹事長、岸田政調会長とどちらかという話になってくる」と述べた。

Japan Chief Cabinet Secretary Yoshihide Suga Interview

菅義偉官房長官(27日)

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  2006年からの第1次政権では、持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、約1年で突然辞任。12年に再び自民党総裁選に出馬した際の記者会見では、健康問題について、「2年前に画期的な新薬が登場して、これによってすっかり難病を克服することができた。今は心身共に健康だ」と説明していた。首相は9月21日に66歳の誕生日を迎える。

歴代最長政権 

  安倍首相は昨年11月20日に通算在職日数が2887日となり、戦前の桂太郎氏を抜いて歴代最長となった。さらに8月24日には第2次政権発足からの連続日数も2799日と佐藤栄作氏を抜いて最長となった。自民党総裁としての任期は2021年9月だった。

  首相は昨年11月に歴代最長となった際に記者団に、「短命に終わった第1次政権の深い反省の上、政治を安定させるため日々全力を尽くしてきた」と指摘。残りの任期に取り組む課題については「デフレからの脱却、少子高齢化への挑戦、戦後日本外交の総決算、その先には憲法改正もある」と述べ、挑戦者の気持ちで取り組んでいくとの意欲を示していた。

  道半ばに終わった第1次政権と比較し、2次政権では「経済最優先」を打ち出し支持を集めた。12年の発足時、大胆な金融緩和などからなる経済政策「アベノミクス」を掲げ、リーマン・ショックで落ち込んだ日本経済の再生に力を注いだ。

  過去の政権では、支持率低下や景気の落ち込みを招く「鬼門」とされてきた消費増税については、14年4月に8%に引き上げ。その後、2度の延期を経て19年10月に10%へと、任期中2度目の引き上げに踏み切った。

  経済と並んで政権が看板政策と位置付けたのが「地球儀を俯瞰(ふかん)する」積極的な外交戦略だった。在任中に80の国・地域を訪問し、飛行距離は地球約40周分に達した。特にトランプ米大統領とは、趣味のゴルフを共にプレーするなど個人的な信頼関係を築き、19年5月には、令和初の国賓として同大統領を迎え、日米両国の蜜月ぶりを演出した。

U.S. President Donald Trump's Second Day In Japan

トランプ米大統領と安倍首相(2017年)

  その半面、父親の晋太郎元外相の遺志を引き継ぎ、任期中になんとしても解決したいとしていたロシアとの北方領土交渉は事実上棚上げ状態のまま。「あらゆるチャンスを逃さないで最終的には私自身が金正恩朝鮮労働党委員長と向き合わなくてはならない」として解決に意欲を示していた北朝鮮による拉致問題も進展していない。

  安全保障面では、「積極的平和主義」の下で、15年に集団的自衛権の行使を認める安保法制を成立させ、戦後政策の大転換となった。防衛予算は安倍政権下で8年連続で増加しており、6年連続で過去最高を更新した。 

  憲法改正については、安倍首相が「私の手で成し遂げたい」と任期中の実現を目指していたが、国会での議論は停滞していた。

東京五輪延期、支持率低下

  昨秋以降は、政財界関係者や芸能人らを招いて開いてきた「桜を見る会」に関する疑惑や、政治とカネを巡る問題で閣僚が次々に辞任するなど、不祥事も相次いだ。2020年は、安倍首相にとって東京五輪・パラリンピックを開催し、歴代最長政権としての政治的遺産(レガシー)を実現する年になるはずだったが、新型コロナウイルスの感染拡大で大会の1年程度の延期が決まり、大きく様相が変わった。  

  新型コロナ対応でも、不評を買った布マスク配布や一律10万円給付を巡る混乱などで野党から強い批判を浴びた。全国で緊急事態宣言が発令された20年4-6月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算額で500兆円を下回り、第2次政権前の水準に逆戻りし、7年余りにわたって積み重ねてきたアベノミクスの成果は消失した。

Prime Minister Shinzo Abe and Rival Shigeru Ishiba Speak Ahead of Ruling Liberal Democratic Party's Leadership Vote

世論調査で人気トップの石破元幹事長(右、2018年)

  こうした状況を受け、内閣支持率は報道各社の調査で軒並み下落。NHKが8日から3日間実施した調査では、安倍内閣を「支持する」と答えた人は、7月調査より2ポイント下がって34%だった。調査方法が異なるため単純に比較はできないものの、第2次安倍内閣の発足以降、最低の水準となった。

  時事通信が7-10日に実施した8月の調査でも、安倍内閣の支持率は前月比2.4ポイント減の32.7%。支持は17年7月の29.9%に次いで2番目に低かった。新型コロナ感染拡大への政府対応を「評価しない」と答えた人は59.6%で、「評価する」の19.4%を大きく上回った。

  同調査で次の首相にふさわしい人物を尋ねたところ、自民党の石破元幹事長が24.6%でトップだった。2位は小泉進次郎環境相(12.3%)で、3位は安倍首相(9.2%)。河野防衛相が4位(7.8%)に浮上し、5位に自民党の岸田政調会長(6.0%)、6位が菅官房長官(4.5%)となった。

安倍首相の歩み(第2次政権以降)
2012年12月 衆院選で自民・公明が勝利、第2次内閣発足
2013年

4月 日本銀行が量的・質的金融緩和を決定

7月 参院選で与党が勝利、「ねじれ国会」解消

2014年

4月 消費税率5%から8%に引き上げ

12月 衆院選で与党が勝利、第3次内閣が発足

2015年9月 自民党総裁に無投票再選、安全保障関連法が成立
2016年7月 参院選で与党が勝利、衆参で改憲勢力が3分の2超に
2017年

1月 トランプ米大統領が就任

10月 衆院選で与党が勝利、11月に第4次内閣が発足

2018年

3月 森友学園を巡る問題で佐川国税庁長官(当時)が辞任

9月 自民党総裁選で石破元幹事長を破り、連続3選

12月 米国抜きの環太平洋連携協定(TPP)が発効

2019年

7月 参院選で与党が勝利、改憲勢力は3分の2を割り込む

10月 消費税率8%から10%に引き上げ

2020年

3月 国際オリンピック委員会(IOC)が東京五輪(7月)の延期発表

4月 新型コロナウイルス感染拡大に伴う「緊急事態宣言」発令

8月 安倍首相が辞意表明

(記者会見での発言を追加し、更新しました)
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