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コロナ禍で物価押し上げ、それとも抑制-分かれる見解に決着はまだ

  • マネタリストはインフレ高進を予想、流通速度に着目なら物価抑制
  • 政府の積極対応でディマンドプル型インフレか-雇用悪化は下押し

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けて、インフレは高進に向かうのだろうか。現時点でこれほどまでに経済学的に重視され、金融界の見方を先鋭に二分する疑問は他にほとんどないだろう。

  先行きの物価高を見込む人々は、費用を惜しまない新型コロナ対策によって、先進国のインフレ率が過去何十年間も目にしなかったようなペースで加速すると指摘する。その一方で、景気過熱よりもデフレの方が大きな脅威となってきた過去十数年の状況がコロナ禍で悪化するとの懸念の声も上がる。

Yesterday's Problem -- Or Tomorrow's?

Source: OECD

  バンク・オブ・アメリカ(BofA)の推計では、各国・地域の政府や中央銀行によるコロナ対策は既に計約20兆ドル(約2120兆円)相当に上っている。これが物価急騰を招く事態となれば、当局は対策の手を緩める圧力に直面するかもしれない。労働者は実質ベースの給与減額、消費者は家計費の負担増を感じることになるだろう。総額40兆ドル余りもの退職後の備えも目減りのリスクにさらされる。

  今後の展開は経済学の分野にもインパクトを及ぼしそうだ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのチャールズ・グッドハート氏(83)は最近の論文で、パンデミック後のインフレ動向は「マクロ経済理論と教授法に恐らくずっと影響を与えるだろう」と語った。

  今のところ物価がどちらの方向に向かうのか決着していない。一部の国々はコロナ危機の初期段階でインフレ鈍化、最近は急伸が報告されている。債券市場においてや消費者の間ではインフレ期待の指標が上向きつつある。最終的にはデータで判断することになるが、その把握には数年かかるかもしれない。

  投資家と一般の人々はそれまでの間、双方の主張を検討してみることになる。以下に幾つかの見解を列挙する。

物価高を予想:通貨供給量

  ノーベル経済学賞受賞者でマネタリストの故ミルトン・フリードマン氏は、インフレはいつでもどこでも貨幣的現象だと語ったことが有名だ。依然として広く共有されているこの見解の支持者は、コロナ対策で創出された多額の貨幣が早晩、経済全体に行き渡り、物価を押し上げると主張する。

There's Lots of Money…

Source: Federal Reserve

物価高予想に反論:貨幣の流通速度

  一方で、物価に影響するのは単なる貨幣の創出ではなくその利用だとする見解がある。各国・地域の中銀は2008年の金融危機以降、大規模な貨幣創出を行ってきた。だが米国のケースを見ても、貨幣が一定期間内に用いられた回数である「流通速度」は大幅に低下してインフレは抑制されており、同じ力が現状でも作用している可能性があるという。

...But It's Not Circulating

Source: Bloomberg

物価高を予想:家計の動向

  従来よりも積極的な政策対応によって、家計への打撃が和らげられているため、08年以降の場合よりも支出は急速に回復すると考えられるという。ユリゾンSLJキャピタルを率いるスティーブン・ジェン氏は需要超過が価格上昇を引き起こす「ディマンドプル型インフレ」を予想する。

Governments Supported Households...

Source: Bureau of Economic Analysis

物価高予想に反論:家計の不安

  政府のコロナ対策のおかげで、リセッション(景気後退)にあっても所得は持ちこたえているかもしれないが、全ての資金が支出に回るわけではない。貯蓄率も上昇している。経済活動が本格再開され、消費者の選択肢が増えたとしても、健康や仕事を巡る懸念から人々は慎重姿勢を崩さない可能性がある。

...And Households Saved More

Source: Bureau of Economic Analysis

物価高を予想:中銀の緩和姿勢

  多くのアナリストはインフレ高進を見込む理由の1つとして、各国・地域の中銀が従来よりも物価の押し上げに意欲的な姿勢で取り組んでいる点を挙げる。米連邦準備制度は、インフレの上振れに一段と寛容に臨み、予防的な利上げを手控える趣旨の新戦略を発表すると予想される。

Rates Are Rock-Bottom…

Source: Bloomberg

物価高予想に反論:雇用情勢

  失業率とインフレ率が逆相関の関係にあるというフィリップス曲線の考え方には、その関係の強さに疑問が投げ掛けられている。また、仮に関係があるとしても、インフレ高進懸念は和らげられるだろう。なぜかと言えば、雇用情勢は至る所で悪化し、パンデミック以前の水準に早急に回復する見通しはほとんどないためだ。

…And So Is Employment

Source: International Labour Organization

物価高を予想:供給ショック

  サプライチェーンの混乱が物価を押し上げている証拠は既にある。中国を例に挙げれば、食料価格は過去数カ月間にわたり加速しており、パンデミックに伴う輸入の抑制が要因の1つとなっている。もっと長期的に見れば、各国政府はマスクや医薬品、半導体など戦略物資について従来よりも他国に依存しないようになるとともに、割高になることがあっても企業に生産拠点を自国に回帰させるよう圧力をかけるかもしれない。

Supply Chains More Fragile…

How Covid-19 affected companies' plans to move production from China

Source: UBS Evidence Lab report published June 2020 based on North Asia CFO Survey

物価高予想に反論:余剰生産能力

  新型コロナとの闘いはしばしば実際の戦争に例えられる。ただ、両者の間には重要な違いがある。武力紛争は工場や鉄道といった経済の供給面を破壊し、ボトルネックや物不足が物価上昇につながる。これに対し、コロナ禍の場合、こうした施設は現在使用されていないとしてもそのまま残っている。ナティクシスのアジア太平洋担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシアエレロ氏は「資本は破壊も消耗もされていない」として、自身がデフレ予想に傾いていることを説明した。

…Factories Are Idle

Source: OECD Business Tendency Survey

原題:The Great Inflation Debate Is Heating Up With Trillions at Stake(抜粋)

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