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ギリシャ危機と緩和圧力、狭まる日銀包囲網-2010年上期・会合議事録

  • デフレは「成長力の問題」と白川総裁、異例の支援策と景気後押し緩和
  • 忍び寄る欧州債務危機、円高・株安通じた経済下押しを警戒

日本銀行は31日、2010年1ー6月の金融政策決定会合の議事録を公表した。リーマンショック後のぜい弱な持ち直し局面にあった日本経済に、ギリシャを中心とした欧州債務危機の影が忍び寄っていた。国内ではデフレ脱却に向け、日銀に一段の金融緩和を求める声も強まり、緩和余地が限られる中で成長支援を目的とした貸付制度の創設など異例の対応に踏み出す。議事録からはデフレ対応を巡る政治との認識ギャップに苦悩する政策委員の姿が浮かび上がる。

  「デフレの問題という形で多くの人がフラストレーションを持つ多くの部分は、実は成長力の問題に最終的に帰着するという感じがしている」。4月30日の決定会合で、白川方明総裁(肩書は当時、以下同)は日本経済の成長基盤の強化を目的とした新たな資金供給手段の検討を執行部に指示した。

BOJ May Keep Policy Unchanged, Raise View Of Economy

日銀政策決定会合に臨む白川総裁(中央、2010年4月7日)

Source: Pool via Bloomberg *** Local Caption *** Masaaki Shirakawa

  同制度はその後2回にわたる会合での議論を経て結実するが、当初から政策金融の領域に日銀が踏み込むのではないか、など多くの懸念が指摘されるほど中央銀行にとって異例の措置だった。最終決定した6月14、15日の会合で野田忠男審議委員は、同制度の実施によって「潜在的な需要の発掘・捕捉あるいは生産性の引き上げこそがデフレ脱却の喫緊の処方箋であるということを世の中に示す、あるいは訴える意義は極めて大きい」と評価した。

  当時は民主党政権による前年の「デフレ宣言」もあり、政治家などから早期のデフレ脱却に向けてインフレ・ターゲティング政策の導入や、量的緩和政策による日銀バランスシートの拡大などを求める声が日増しに強まっていた。

  2月17、18日の会合で白川総裁は、こうした政治圧力に対して「多少、フラストレーションも感じる」と心中を吐露。インフレ・ターゲティングについては、「短期的な物価の動向に過度に焦点を当てて政策を考えるというマインドセットというかメンタリティが結果として金融経済の不均衡を拡大し、今回の危機発生の一因となっているのではないか」との問題意識を示し、「インフレーション・ターゲティングを採用するか、採用しないかというレベルの話ではない。ここで息巻いてももちろん仕方ないのだが、粘り強く説明していくしかない」と対外コミュニケーションの難しさを口にしている。

  他の政策委員の発言からもいら立ちがにじむが、山口広秀副総裁は「やるべきことはやっているというだけでは、多分理解を得られないところに今来ているような感じがする」と発言。「病人が病気がなかなか治らなくていらいらしている時に、医者までいらいらして良いのか」と冷静な議論を促す一幕もあった。

  成長基盤強化の資金供給制度は、デフレ克服に向けた日銀の政策的な答えの一つだったが、異例の措置として時限的に導入された同制度は延長を繰り返し、現在の黒田東彦総裁の下でも継続されている。

偽薬療法

  政策金利がわずか0.1%という低水準の中で強まる緩和圧力に対し、翌月の3月16、17日の会合では「一段の金融緩和を図り、われわれのデフレ克服に向けてのスタンスを明確にする」(山口副総裁)観点から、固定金利方式の資金供給オペレーションをそれまでの10兆円から20兆円に拡大する緩和強化策を決定する。

  足元の日本経済が、日銀の見通しよりも「幾分上振れている可能性が高い」(門間一夫調査統計局長)状況にもかかわらず、景気の後押しを狙った異例の緩和措置だった。西村清彦副総裁は、「(景気が)上振れるということは、経済には上方に動く力、モメンタムがある。つまり、働き掛けに対してポジティブな反応をする潜在力があるということでもある」と意義を指摘した。

  公表した声明文に緩和強化とは明記されなかったが、白川総裁は会合後の会見で「やや長めの金利の低下を促す措置を拡充するという意味で、今回の措置は追加緩和措置だ」と説明。一方で、「量的緩和政策を拡充するということではそもそもない」と量的緩和であることは否定した。

  会合での議論で白川総裁は、「金融システム不安がない中で単に量を拡充していっても、効果がない」と断言し、「プラシーボ(偽薬)療法的に量を拡充した政策をやっていくことについては終始否定的な訳である」と語っている。

  その後も中国をはじめとした新興国の景気回復にけん引される形で日本経済は持ち直しを続けるが、4月27日のギリシャとポルトガルの格下げをきっかけに欧州債務問題が国際金融市場に飛び火する。5月10日に日銀は臨時の金融政策決定会合を開いて、欧米の中央銀行と協調してドル資金供給オペの再開を決定した。

  その時点で日本経済への影響はそれほど大きくなっておらず、欧州債務問題が「世界経済へ与えるインパクトの度合いによっては、日本の輸出にも、直接的、間接的に悪影響が及ぶリスクがあることを認識しておかねばならない」(亀崎英敏審議委員、5月20、21日の会合)、「(日本経済に)円高・株安を通じて無視し得ない影響を及ぼすであろうという点についても留意すべきだ」(宮尾龍蔵審議委員、6月14、15日の会合)と警戒感を持って状況を注視している段階だった。

  むしろ、ギリシャ危機を教訓に「わが国においても、財政規律への疑念が高まれば、悪い金利上昇をもたらすリスクがある」(須田美矢子審議委員、5月20、21日会合)との意見が出るなど、先進国で最悪の日本の財政問題が政策委員の関心事でもあった。

  しかし、以降も事態は好転せずに欧州債務問題が米欧の実体経済に波及する。投資家によるリスク回避行動が加速し、外国為替市場では年末にかけて1ドル=80円程度まで円高が急速に進行。日銀は10月の会合で、事実上のゼロ金利政策の復活に加え、国債以外にも上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)などを買い入れる「包括的な金融緩和政策」に踏み出すことになる。

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